残像⑨取り留めのない夜 | 回顧録ーMemoirs of the 1980sー

回顧録ーMemoirs of the 1980sー

激動の80年代、荒れる80年代。
ヤンキーが溢れる千葉の片田舎で、少年たちは強く逞しく、されど軽薄・軽妙に生き抜いた。
パンクロックに身を委ね、小さな悪事をライフワークに、世の風潮に背を向けて異彩を放った。
これは、そんな高校時代を綴る回顧録である。

変化のない夜だった。
またヒッチコック、また冨田久美のライブ、またいつもの3人。
でも、こういう夜が一番落ち着く。
エーイチは上機嫌、アッキョは相変わらず、俺はいつもの語り手。
そしてこの夜もまた、くだらなくて愛おしい“取り留めのない夜”が始まる。

 

今夜もまたヒッチコック、また冨田久美のライブ、またいつもの3人。
なんだか変化ないね。
でも、こういう夜が一番落ち着く。
エーイチは今夜も上機嫌だった。
おねだりして冨田久美のCDを買ってもらい、
おまけに本人からサインまでしてもらった。
ライブも終わり、次の店へ向かう。

 

▼ヒッチコックで冨田久美さんと(2007.11.9 撮影)


するとアッキョが、


「またあの店にしようぜ」


なんて、金もないくせに言い出す。


「馬鹿野郎、こないだはお前らのせいでえらい目にあったんだからな」
 

とエーイチ。
そうだ、そうだった。思い出した。
あの日は、エーイチお気に入りのオネエチャンがいる店に行った。
エーイチは酔っぱらうと脱ぐ癖がある。


「どうだ、見ろ、すげー腹筋だろ」


なんて言ってオネエチャンにかまってもらうのがいつものパターン。
俺にはそんなもん見せられたって面白いわけがない。
で、オネエチャンに頼んでマジックを持ってきてもらう。


「こらこら、そんな貧弱な肉体を見せるんじゃねぇ」
「俺がマッチョに見えるように濃淡つけてやる」

 

って、腹筋とか大胸筋にマジックで線を書いてやった。
そしたらオネエチャンもノリノリで、


「わたしにも書かせて〜」


なんて言いながら、全身イタズラ書きだらけ。
そのうちエーイチはいい気分で泥酔して、
訳が分からなくなっちまう。
で、いつものように俺とアッキョはエーイチを放置して帰っちゃう。


翌日、エーイチから電話。


「おい、お前らいい加減にしろよ。あの店いくら取られたと思ってんだ」
「今月あと2週間もあるってのに、またラララ無人君じゃねぇか」

(ラララ無人君=サラ金)


そんなことがあったもんだから、今夜のエーイチは慎重になってやがる。
で、向かったのはエーイチお気に入りの“オバチャンのスナック”。


「まあ〜エーちゃん、いらっしゃい♪」
「今日はお友達連れてきたの〜嬉しいわ〜」
「ほら、エーちゃんの“絵”、飾ってあるわよ」


このオバチャンも調子がいい。
エーイチが描いた絵を店に飾ってくれてるんだけど、
まあ、そういう“馴染みの店”があちこちにあるんだよね。
ちなみに俺たちはどこへ行っても、

 

•     画家(エーイチ)
•     デザイナー(俺)
•     ミュージシャン(アッキョ)
 

で通してる。
まんざら嘘でもないし、自称なんだからいいじゃん。
で、またぼったくられて店を出る。


終電もないからタクシーで幕張へ。
運転手が言う。


「お客さん、今夜は月がキレイだね〜
ほら『月がとっても丸いから』って歌あるでしょ。
お客さんたち若いから知らないか」

 

いやいや。


「運転手さん、それを言うなら
『月がとっても蒼いから』でしょ」


と、ちゃんと教えてあげる大人の振る舞い。
わっはっは。

 

画像はイメージです


久しぶりの幕張だし、いい機会だからアッキョの家に寄ることにした。
おお、15年ぶりだけど変わらないや。
エーイチが勝手に部屋の中を歩き回り、
壁に体当たりしたり跳ねたりする。


「おい、ちょっと大人しくしろ。家壊れるじゃんか」
 

ほんとに壊れそうなんだよ。
で、驚いたのが敷きっぱなしの布団。
薄い。
とにかく薄い。

 

「なんだこれは。布団っていうよりタオルじゃねーか」


と言うと、アッキョが平然と、


「10年も敷きっぱなしにすりゃこうなるよ」
 

だってさ。
泊まっていこうかと思ったけど、
こんな劣悪な環境じゃ病気になっちまう。
しゃーねーからタクシーで帰った。

 

そういえば高校の頃、
アッキョの家の隣には売れる前の田中美佐子が住んでたんだぜ。
(マジ)


ほんと、取り留めのない夜だった。
でもこういう夜が、一番よく覚えてるんだよな。