青春時代の果てに⑤ あの店へ | 回顧録ーMemoirs of the 1980sー

回顧録ーMemoirs of the 1980sー

激動の80年代、荒れる80年代。
ヤンキーが溢れる千葉の片田舎で、少年たちは強く逞しく、されど軽薄・軽妙に生き抜いた。
パンクロックに身を委ね、小さな悪事をライフワークに、世の風潮に背を向けて異彩を放った。
これは、そんな高校時代を綴る回顧録である。

懐かしい店に足を踏み入れた瞬間、
時間が巻き戻るような感覚に襲われた。
ねこまんま、レゲエ、仲間たちの声。
そして、胸の奥でずっと眠っていた名前――トモ。
あの日から止まっていた何かが、ゆっくり動き出した。

 

ある日のこと。
エーイチから電話があって、なんだか興奮してる。


「ほら、あの店! 市川真間の、あのレゲーの店! あったよ、まだあったよ!」


そうそう。
高校時代に何度も行った、トモとカズと出会った、あの懐かしい店だ。


数日後、さっそくエーイチと2人で行ってみた。
おぉ……昔と何も変わってない。
無口で無表情な店主の坊主兄ちゃんも健在だ。
あの頃はガキで、アップルタイザーなんてジュース飲んでたけど、
今はもう大人ですもの。
もちろんビール。酒だ、酒。
しばらく飲んで調子が出てきたところで、坊主を呼んで注文する。


「ねこまんまください」

 

画像はイメージです(実際もこれに近かった)


無表情の坊主が、一瞬だけ驚いた顔をした。
ねこまんまなんてメニューには無い。
でも昔、トモやカズがよく頼んでいた裏メニューだ。
さらに注文。曲のリクエスト。


「ノーウーマンノークライ、かけてください」


坊主頭がまた一瞬だけ驚いた。
どうやら何か思い出したようだが、すぐに無表情に戻る。
強情なやつだ。

 

でもさ、
ノーウーマンノークライを聴きながら、ねこまんまを食ってたら、
そりゃあ昔を思い出すよな。
やっぱさ、男の性だよな。
昔の女のこと思い出したら、会いたくなるってもんじゃん。
その日は軽く飲んで帰ったんだけど、
胸のざわつきが止まらなかった。
トモに会いたい……。

そんな気持ちを抱えたまま数日が過ぎた頃、
エーイチから妙な話を聞いた。


「あ、そういえばさ。俺、この前カズんとこ行ってきたんだよ」


は? なんで?


「高校の時に借りっぱなしだったギター返しにさ。思い立ったらすぐ行動だろ?」


……いや、アポなしで行くなよ。


しかもその日は、
カズが結婚することになっていて、
これから結婚相手が家に来るってタイミングだったらしい。
そこへエーイチ乱入。
そりゃ怒られるよな。
めちゃくちゃ怒られたらしい。

 

で、後日だ。
思いがけずカズから俺のところに電話があった。


「アキオ君さ、あんな馬鹿(エーイチ)と付き合ってたらダメだよ。馬鹿が移っちゃうよ」
……だってさ。


怒ってるんだけど、
どこか笑ってるような声でさ。
なんか胸の奥がじんわり熱くなった。
カズも、トモも、
あの頃の仲間はみんな、それぞれの人生を歩いてるんだな……。


そして胸のざわつきは、
もう誤魔化せないほど大きくなっていた。
トモに会いたい。
どうしても会いたい。

 

画像はイメージです