懐かしい店に足を踏み入れた瞬間、
時間が巻き戻るような感覚に襲われた。
ねこまんま、レゲエ、仲間たちの声。
そして、胸の奥でずっと眠っていた名前――トモ。
あの日から止まっていた何かが、ゆっくり動き出した。
ある日のこと。
エーイチから電話があって、なんだか興奮してる。
「ほら、あの店! 市川真間の、あのレゲーの店! あったよ、まだあったよ!」
そうそう。
高校時代に何度も行った、トモとカズと出会った、あの懐かしい店だ。
数日後、さっそくエーイチと2人で行ってみた。
おぉ……昔と何も変わってない。
無口で無表情な店主の坊主兄ちゃんも健在だ。
あの頃はガキで、アップルタイザーなんてジュース飲んでたけど、
今はもう大人ですもの。
もちろんビール。酒だ、酒。
しばらく飲んで調子が出てきたところで、坊主を呼んで注文する。
「ねこまんまください」
画像はイメージです(実際もこれに近かった)
無表情の坊主が、一瞬だけ驚いた顔をした。
ねこまんまなんてメニューには無い。
でも昔、トモやカズがよく頼んでいた裏メニューだ。
さらに注文。曲のリクエスト。
「ノーウーマンノークライ、かけてください」
坊主頭がまた一瞬だけ驚いた。
どうやら何か思い出したようだが、すぐに無表情に戻る。
強情なやつだ。
でもさ、
ノーウーマンノークライを聴きながら、ねこまんまを食ってたら、
そりゃあ昔を思い出すよな。
やっぱさ、男の性だよな。
昔の女のこと思い出したら、会いたくなるってもんじゃん。
その日は軽く飲んで帰ったんだけど、
胸のざわつきが止まらなかった。
トモに会いたい……。
そんな気持ちを抱えたまま数日が過ぎた頃、
エーイチから妙な話を聞いた。
「あ、そういえばさ。俺、この前カズんとこ行ってきたんだよ」
は? なんで?
「高校の時に借りっぱなしだったギター返しにさ。思い立ったらすぐ行動だろ?」
……いや、アポなしで行くなよ。
しかもその日は、
カズが結婚することになっていて、
これから結婚相手が家に来るってタイミングだったらしい。
そこへエーイチ乱入。
そりゃ怒られるよな。
めちゃくちゃ怒られたらしい。
で、後日だ。
思いがけずカズから俺のところに電話があった。
「アキオ君さ、あんな馬鹿(エーイチ)と付き合ってたらダメだよ。馬鹿が移っちゃうよ」
……だってさ。
怒ってるんだけど、
どこか笑ってるような声でさ。
なんか胸の奥がじんわり熱くなった。
カズも、トモも、
あの頃の仲間はみんな、それぞれの人生を歩いてるんだな……。
そして胸のざわつきは、
もう誤魔化せないほど大きくなっていた。
トモに会いたい。
どうしても会いたい。
画像はイメージです

