青春時代の果てに⑥再会 | 回顧録ーMemoirs of the 1980sー

回顧録ーMemoirs of the 1980sー

激動の80年代、荒れる80年代。
ヤンキーが溢れる千葉の片田舎で、少年たちは強く逞しく、されど軽薄・軽妙に生き抜いた。
パンクロックに身を委ね、小さな悪事をライフワークに、世の風潮に背を向けて異彩を放った。
これは、そんな高校時代を綴る回顧録である。

たった一本の電話をかけるのに、
どうしてこんなに時間がかかったんだろう。
気づけば、トモと最後に話してから8年が過ぎていた。
その長さを、あの呼び出し音が静かに教えてくれた。

 

トモのことを思い出したのは、
あのレゲーバーの前に立った時だった。
高校の頃、トモとカズと三人で入り浸ってた店。
あの頃の空気がふっと蘇ってきて、
胸の奥がざわついた。


「トモ、どうしてるかな…」


そんな気持ちが湧き上がってきて、
気づいたら実家の番号をメモ帳から探してた。
でも8年だぜ。
8年も連絡してないんだぜ。
家電話の時代だ。
出るかどうかもわからない。
そもそもまだそこに住んでるのかもわからない。
受話器を握ったまま、
何度も番号を押しては消して、押しては消して。
心臓がドクドクしてるのが自分でもわかる。


「やめとくか…」
「いや、かけるか…」
「いや、やっぱやめとくか…」


そんなことを何度繰り返したかわからない。
でも最後は、指が勝手に番号を押してた。


プルルルル……
プルルルル……


長い。
やけに長い。
この呼び出し音の長さが、
8年という時間の重さみたいに感じた。

 

そして——


「はい」


あの声だった。
まさかの本人。
しかも、たまたま実家に来ていた時に、
たまたま電話に出たのがトモ本人。


「えっ……アキオ君? うそ、嬉しい……!」


向こうの声が震えてるのがわかった。
その瞬間、胸の奥がじんわり熱くなった。
そしてトモの方から言ってくれた。


「明日、空いてる? 会おうよ」


8年ぶりの再会が、
まさかこんな急展開で決まるなんて。
嬉しいような、恥ずかしいような、
なんとも言えない気持ちだった。


翌日、トモとは市川駅で待ち合わせた。
改札を出たところで、少しだけ大人になったトモが立っていた。


「久しぶり」
「久しぶり」


それだけ言って、自然に並んで歩き出した。
二人で入ったのは、市川リブル。
昔、何度も二人でライブを観に行った場所だ。
あの頃と同じ匂いがして、
時間が少しだけ巻き戻ったような気がした。

 

席に着くと、
高校の頃の話や、あの時のライブの話で盛り上がった。
でも、トモの近況はすっかり“大人の女性”だった。
もう結婚していて、趣味はフラダンス。
あの頃パンク娘だったなんて、
まったく感じられない普通の奥さんになっていた。
それがなんだか可笑しくて、
でもちょっとだけ切なくて、
俺はただ「そうなんだ」と笑って聞いていた。


店を出る時、


「また会おうね」


なんて軽く言い合って別れた。
でも、これが最初で最後の再会になった。


お互いに、もう別々の道を歩いているってことを、
言葉にしなくてもわかっていたんだと思う。

 

画像はイメージです


……なんてカッコつけて言ってるけど、
60歳になった今、
俺は猛烈にトモに会いたい気分だ。
お互い、じじいとばばあになってるんだろうけどな。
それでも、もう一度くらい会ってみたい。
ただ、それだけだ。