たった一本の電話をかけるのに、
どうしてこんなに時間がかかったんだろう。
気づけば、トモと最後に話してから8年が過ぎていた。
その長さを、あの呼び出し音が静かに教えてくれた。
トモのことを思い出したのは、
あのレゲーバーの前に立った時だった。
高校の頃、トモとカズと三人で入り浸ってた店。
あの頃の空気がふっと蘇ってきて、
胸の奥がざわついた。
「トモ、どうしてるかな…」
そんな気持ちが湧き上がってきて、
気づいたら実家の番号をメモ帳から探してた。
でも8年だぜ。
8年も連絡してないんだぜ。
家電話の時代だ。
出るかどうかもわからない。
そもそもまだそこに住んでるのかもわからない。
受話器を握ったまま、
何度も番号を押しては消して、押しては消して。
心臓がドクドクしてるのが自分でもわかる。
「やめとくか…」
「いや、かけるか…」
「いや、やっぱやめとくか…」
そんなことを何度繰り返したかわからない。
でも最後は、指が勝手に番号を押してた。
プルルルル……
プルルルル……
長い。
やけに長い。
この呼び出し音の長さが、
8年という時間の重さみたいに感じた。
そして——
「はい」
あの声だった。
まさかの本人。
しかも、たまたま実家に来ていた時に、
たまたま電話に出たのがトモ本人。
「えっ……アキオ君? うそ、嬉しい……!」
向こうの声が震えてるのがわかった。
その瞬間、胸の奥がじんわり熱くなった。
そしてトモの方から言ってくれた。
「明日、空いてる? 会おうよ」
8年ぶりの再会が、
まさかこんな急展開で決まるなんて。
嬉しいような、恥ずかしいような、
なんとも言えない気持ちだった。
翌日、トモとは市川駅で待ち合わせた。
改札を出たところで、少しだけ大人になったトモが立っていた。
「久しぶり」
「久しぶり」
それだけ言って、自然に並んで歩き出した。
二人で入ったのは、市川リブル。
昔、何度も二人でライブを観に行った場所だ。
あの頃と同じ匂いがして、
時間が少しだけ巻き戻ったような気がした。
席に着くと、
高校の頃の話や、あの時のライブの話で盛り上がった。
でも、トモの近況はすっかり“大人の女性”だった。
もう結婚していて、趣味はフラダンス。
あの頃パンク娘だったなんて、
まったく感じられない普通の奥さんになっていた。
それがなんだか可笑しくて、
でもちょっとだけ切なくて、
俺はただ「そうなんだ」と笑って聞いていた。
店を出る時、
「また会おうね」
なんて軽く言い合って別れた。
でも、これが最初で最後の再会になった。
お互いに、もう別々の道を歩いているってことを、
言葉にしなくてもわかっていたんだと思う。
画像はイメージです
……なんてカッコつけて言ってるけど、
60歳になった今、
俺は猛烈にトモに会いたい気分だ。
お互い、じじいとばばあになってるんだろうけどな。
それでも、もう一度くらい会ってみたい。
ただ、それだけだ。
