ジャングルさんの愛機 CARL ZEISS 10×50 フルオーバーホールの記録 | BLRM ブラッキー リッチモア ~ Be Lucky Rich More!! のブログ

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〜 SINCE 2015.4.8

 

今年の春の事であった。

 

桜も満開を迎えようとしていた頃のある日、

 

私のメールボックスに、一通のオーバーホール依頼の

 

問い合わせメールが届いたのだが、

 

その依頼人の方を確認した際、私は非常に驚いてしまった。

 

驚きのあまり、何度も確認したくらいだ。

 

 

その日、お問い合わせを頂いた依頼主の方は、

 

我が国の双眼鏡マニアの方の間では、かの有名な、

 

あの、ジャングルさん御本人であった。

 

 

ジャングルさんと言えば、

 

「ジャングルさんの双眼鏡・単眼鏡レビュー」と言う、

 

双眼鏡マニアの間では、恐らくは知らない人はいないと思われる、

 

とても有名なブログを書かれておられ、

 

その的確で、論理的で、切れ味鋭いレビューは、

 

全国の双眼鏡マニアの方を唸らせている。

 

 

また、非常にシビアで鋭い審美眼をお持ちの方としても有名で、

 

全国の多くの双眼鏡マニアの方々が、

 

氏のブログを参考にされてらっしゃる事かと思われる。

 

 

 

 

 

 

そんなジャングルさんから、

 

氏の愛機のオーバーホールのご依頼を頂いたのであった。

 

何とも、ありがたい事である。

 

 

今回ご依頼を頂いた機種は、ジャングルさんの愛機の一つである、

 

CARL ZEISS 10×50 であった。

 

 

1957年6月から、販売が開始された

 

西ドイツ オーバーコッヘン時代の名機の一つだ。

 

 

 

※ 以下画像は、オーバーホール後のもの。

 

 

 

 

 

 

 

早速、私の元に届いた、ジャングルさんの愛機、

 

CARL ZEISS 10×50 を確認してみると、

 

やはり例に漏れず、オーバーコッヘン機 特有の、

 

「お約束」とも言える、プリズムの曇りが見られたが、

 

勿論、御本人もその事は事前に把握しておられた。

 

 

今回、フルオーバーホールのご依頼であったが、

 

殊更シビアな眼力の持ち主である氏の期待に、

 

果たして、どれだけ応えられるのだろうか・・・? 

 

はなはだ未知数ではあったが、

 

とにかく、私に出来る限り、手を尽くさせて頂いた。

 

 

 

まずは、対物側から取り掛からせて頂いた。

 

対物側を全て分解したのが、以下のものである。

 

 

 

 

 

 

 

この時代の 10×50 のレンズは、分離式のアクロマートタイプである。

 

 

※ Oberkochen 8×30 等も、初期のものは、

 

 分離式アクロマートとなっているが、

 

 後年には、貼り合わせの一体型となっている。

 

 

実は、この 10×50 の対物レンズ部は、分解した後、

 

きちんとレンズを組み上げるのが、地味に難しいのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

オーバーコッヘンの各シリーズは、

 

構造的に各所のシーリングが徹底されているが、

 

10×50 の対物レンズ部も、以下のように数種のゴムパッキンで、

 

徹底したシーリング処理が施されている。

 

何とも、抜かりの無い構造である。

 

 

そのシーリングのゴムパッキンであるが、これまでの経験から、

 

経年によって、ゴムが劣化し始めている可能性があるので、

 

まずは、ゴムパッキンのオーバーホールを行った。

 

幸い無事に、ゴム本来の弾力が戻ったようであった。

 

 

 

 

 

 

 

せっかくなので、対物レンズには、

 

コバ塗りを施工させて頂いた後に、クリーニングを行った。

 

 

本来、こちらのレンズには、オリジナル状態では、

 

コバ塗りはされていないのだが、コバ塗りの施行を行う事で、

 

少なからず性能に寄与するはずである。

 

 

恐らくは、コストが許されるなら、一切の制約が無かったなら、

 

本来は、コバ塗りが施されていたのではないだろうか。

 

 

 

蛇足であるが、コストの制約による断念で思い出したのだが、

 

後の名機 CARL ZEISS 15×60 は、

 

当初は、窒素ガスが封入される予定だったようで、

 

構造的には、窒素ガスが封入される前提の仕様となっているのだが、

 

コスト等の関係で、結局販売時には、

 

窒素ガスは封入されずに販売されたようだ。

 

 

なので、窒素ガスを鏡体内部に封入した状態こそが、

 

本来の 15×60 の完全無欠なベストな状態となるのである。

 

尚、この事実は、世には殆ど知られていない。

 

 

この 10×50 にしても、これだけシーリングが徹底して施されていれば、

 

内部に窒素ガスを封入してあげると、

 

より万全な状態となるのではないだろうか?

 

と、つい妄想を膨らませてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

対物側の次は、接眼部に取り掛かる。

 

まずは、上陣笠の経年の汚れを落とし、クリーニングを行った。

 

 

 

 

 

 

 

接眼部を分解して行く。

 

 

 

 

 

10×50 にも、接眼部には、例の「ゴムブーツ」が施されている。

 

 

幸いにも、裂けたり破れたりはしていなかったが、

 

かなり劣化が始まっており、乾燥して皺が寄って艶が無く、

 

いつ破れてもおかしくない状態であったので、

 

ゴムの劣化処理のオーバーホールを行わせて頂いた。

 

 

しっとりと元の艶が戻り、無事に復活したようだ。

 

もう少し遅ければ、手遅れだっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

接眼部を分解し、接眼レンズのオーバーホールを行う。

 

 

 

 

 

 

接眼レンズのコバ塗りが、一部剥げていたので、

 

ついでに、全面にコバ塗りを施行させて頂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ、要のプリズムユニットを取り出す。

 

 

プリズムユニットを取り出した鏡体の様子。

 

 

鏡体内部も全体的に、クリーニングを行った。

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、プリズムユニットと対物レンズ、

 

接眼部を取り除いた状態の鏡体の重量は、こんな感じである。

 

 

 

 

 

 

10×50 のプリズムユニット。

 

ダイキャスト製かと思われる、非常に頑丈な台座に、

 

しっかりと、そして緻密にプリズムが装着されている。

 

 

恐らくは、膨張係数の少ない金属が選ばれていると思われる。

 

膨張や収縮によって、0.0◯mm でも誤差が出れば、

 

光軸が狂ってしまうからである。

 

 

昨今のダハ式のプリズムユニットとは違い、

 

少々厄介ではあるが、完全に分解する事が可能なので、

 

プリズム一つ一つを、丹念にクリーニングする事が可能であるが、

 

プリズムを取り外す際には、何かと注意が必要だ。

 

 

尚、本機は、オリジナルの状態で既に、

 

プリズムには丁寧に、徹底した コバ塗りが施行されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、プリズムユニットは、かなりの重量がある。

 

左右のプリズムユニットだけで、300g近い重量となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

プリズムユニットのネジの一部に錆が見られたので、

 

錆を除去し、プリズムユニットの方もメンテナンスを行った。

 

 

ネジを下手にいじると、後で光軸が合わせられなくなるので、

 

ここも注意が必要なデリケートな部分である。

 

 

 

 

 

 

 

 

プリズムは、以下のように、Level 6〜7 くらいの

 

そこそこ強度の曇りが見られたが、

 

クリーニング後は、本来のトランスペアレンシーが復活し、

 

泉のような透明な状態が蘇った。

 

 

詳しい事は分からないが、オーバーコッヘンのプリズムは、

 

CARL ZEISS JENA やヘンゾルト等、他社のプリズムとは、

 

どうもガラス材が違っていて、独特な組成のガラスのようだ。

 

 

なので、他のプリズムでは効果のあるクリーニング剤が、

 

オーバーコッヘン機では、有効では無かったりするのである。

 

 

加えて、曇りや汚れが取れにくい事も多く、

 

曇りの再発も起こりやすく、クリーニングしても

 

翌日には、また曇りが出ている、なんて事もあるので、

 

かなり徹底したクリーニングと曇り対策が必要である。

 

 

また、ガラス材が柔らかいのか、硬度がかなり低いようで、

 

非常に傷が付きやすいので、慎重な作業を要する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、光学系のクリーニングを全て終えて、

 

数日間様子を見てみたのだが、問題がないようなので、

 

元通り、丁寧に組み立てを行った。

 

 

最後は、光軸調整( 視軸調整 ) である。

 

 

いつものように、上下左右の誤差が限りなく0となるよう、

 

可能な限り、限界まで追い込ませて頂いた。

 

 

通常、メーカーの新品販売時には、ここまでシビアに

 

追い込まれている事はまず無いので、その意味では、

 

新品時以上に厳密に調整された状態となっていると思われる。

 

 

また、本機の工作精度が極めて高い為、ピタリと決まる。

 

 

この 光軸調整を行う際に、その双眼鏡の工作精度のレベルが

 

とてもよく分かる。

 

 

工作精度が低いと、光軸がピタリとは決まらないからである。

 

対物レンズカバーを締めただけでも、狂ったりするのである。

 

 

その点、オーバーコッヘンは、往年のCARL ZEISS JENA機 同様に、

 

どの機種も、極めて工作精度が高いようだ。

 

 

光軸調整を終えた後は、フォーカスリングの目盛りの0位置が

 

無限遠となるように微調整を行った。

 

勿論、ディオプターの方も調整済みである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に、鏡体やプリズムカバーのクリーニングと研磨処理を行い、

 

宝石の如き1台が完成した。

 

 

また1台、歴史上の名機の一つが現代に蘇った事を、

 

私自身、心から嬉しく思うと共に、

 

それを手掛けさせて頂けた事を光栄に思い、

 

大きな幸せと、喜びを感じる次第である。

 

 

それにしても、この時代の CARL ZEISS は、本当に美しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

この時代特有の、美しい紫色のコーティング。

 

 

 

 

 

 

 

最終確認で、何度も覗かせて頂いたが、

 

この機種で無ければ、味わう事の出来ない、

 

独自のコクとキレのある、味わい深い像を見せてくれる。

 

前後の遠近の表現、つまりは、立体表現も秀逸だ。

 

 

残念ながら、昨今の双眼鏡では、これほどの立体表現を

 

達成出来ている機種を、私はまだ見た事がない。

 

 

 

勿論、各収差や透過率 等の光学性能だけを取り上げれば、

 

本機以上に光学性能が優秀な機種は、

 

現在のハイエンド機種では、いくつも存在すると思われるが、

 

そう言ったデータ的な性能を超えた、味わいや表現があるのである。

 

 

真空管アンプや、アナログレコード等と同様に、

 

はたまた、カメラのオールドレンズ等と同様に、

 

ヴィンテージ双眼鏡には、そう言った「深い味わい」があり、

 

例えハイエンド機と比較したとしても、こと表現力に関しては、

 

現代機種よりも秀でているように感じている次第だ。

 

 

最新のものだから良いと言う訳でも無ければ、

 

古いヴィンテージだから良いと言う訳でも無いが、

 

この CARL ZEISS 10×50 が素晴らしい機種だと言う事は

 

間違いのない事実であろうかと思う。

 

 

 

ジャングルさん、この度は、拙宅にご依頼を頂きまして、

 

本当にありがとうございました。

 

この場をお借りして、あらためて心より感謝申し上げます。

 

 

どうか末永く、CARL ZEISS 10×50 を愛でてあげて下さいませ。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、気が付けば、今年も後数日で終わってしまう。

 

 

時の流れは早いもので、心の準備が何ら出来ないままに、

 

今年ももう、年末を迎える時節となってしまった。

 

 

まるで川の流れを遡るかのように、年齢を重ねれば重ねる程に、

 

時の流れと言うものは、その加速度を増して行くようで、

 

正しく、川の上流の激流の如く、月日の流れが速い。

 

 

前回のデルタレムの記事以降、本来は後もう3記事くらい、

 

書く予定をしていたのだが、なかなかその時間も取れず、

 

今年は、本記事が最後の記事になるかと思われるが、

 

皆様方には、いつもご愛読、ご支援を頂きまして、

 

今年も本当にお世話になりました事を、

 

心より感謝申し上げます。

 

 

また、今年もご依頼を頂きました多くの方々には、

 

この場をお借りしまして、あらためて心より感謝申し上げます。

 

本当にありがたい事だと、日々感謝を噛み締めております。

 

 

来年も変わらず、引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

 

それでは、どうか皆様、良いお年をお迎え下さいませ。

 

皆様のご健康とご多幸を心より、お祈り申し上げます。

 

感謝   

 

 

2022年12月28日

 

BLRM 代表 鈴木庸生

 

 

 

 

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