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大阪府の松原市に、ミリタリーアンティークス大阪 と言う、
日本で唯一の、英国の軍用車や軍装備品等を、
常時展示されている博物館があるのをご存知だろうか?
恐らくは、英軍マニアには堪らない空間だろう。
ミリタリーアンティークス大阪さんのHP がこちら。
↓
現在、ミリタリーアンティークス大阪では、
「第二次世界大戦の英軍をテーマの展示」が行われており、
今年、2025年10月末まで、
同テーマの展示が開催されている。
今回は、そちらで展示される、英国軍の双眼鏡、
W.Watson & Sons 社の No.2 MkII ( 6×30機 ) の、
フルレストアのご依頼を頂いたので、
No.2 MkII と言う双眼鏡の紹介と共に、
レストアの様子を掲載させて頂こうと思う。
実際に、ミリタリーアンティークス大阪さんに行かれた際に、
記事と併せて、実物に触れて頂くと、
より一層、お楽しみ頂けるのではないだろうか。
さて、英国の軍用双眼鏡 No.2 MkII であるが、
基本設計は、1900年初頭と非常に古く、
1909年1月16日に英国軍に導入されて以来、
第二次世界大戦までの長きに亘って使用された。
何と、120年以上も前に設計された訳だが、
それだけ長い間、実践で使用されたと言う事は、
基本設計が如何に優れたものであったか、
如何に完成度の高い双眼鏡であったかを、
如実に物語っている。
基本設計は、恐らくは ROSS社だと思われるが、
いずれにせよ、英国 軍用双眼鏡の名機である事は確かだろう。
W. Watson & Sons No.2 MkII
Binocular Prismatic No.2 MkII の刻印
当時、イギリス軍の軍用双眼鏡は、
No.1 〜 No.6 まであったようだが、
今回は、6×30機の、No.2 MkII に限定した内容となる。
ちなみに、No.3 は、6×24機、No.5 は、7×50機だ。
そして、No.4 は、過去に本ブログでも紹介させて頂いた、
幻の機種と言われる、極めてレアな、
ネッシーのような機種である。
さて、No.2 MkII は、1907年11月27日に導入された、
No.2 MkI の右接眼レンズに、レティクルが加えられたもので、
それ以外は、Mk I、Mk II の間に、殆ど違いはないようだ。
No.2 MkII には、ZEISS型と ROSS型 があり、
ROSS型は、ヒンジがプリズムカバーと
一体となった構造に、大きな特徴がある。
今回、ご紹介する ミリタリーアンティークス大阪さんの、
Watson & Sons のものも、ROSS型である。
さて、今回ご依頼を頂いた個体も、
WW2 で使用された、No.2 MkII であったが、
流石に当初は、経年の汚れが凄まじい状態であった。
戦火をくぐり抜けて生き延びて来た、
No.2 Mk II に敬意を表して、当初の性能を取り戻すべく、
徹底的にレストアさせて頂いた。
プリズム押さえ金具には、赤錆が出ていた。
対物部には、内壁が黒塗りされ、
対物プリズムには、遮光板が装着されていた。
丁寧な造りである。
こちらは、接眼側の当初の状態。
このままプリズムをクリーニングすると、
間違いなく、プリズムに傷が付くので、
クリーニング可能な状態に、まずはしてあげなければならない。
グッタペルカは、よくある樹脂のようなものではなく、
本革が使用されていたが、内部は腐食し、
錚々たる状態であった。
しかしながら、分解前は一見しただけでは、
この状態は全く分からなかった。
ここまでの惨状とは、分解して初めて露呈した訳だが、
もしかすると、こう言う状態になっているとは夢にも思わず、
ネット等で中古品の軍用双眼鏡を購入後、
そのまま使われている方も、案外多いのかも知れない。
細かな粉塵が凄まじく、このままでは、
他の箇所のメンテナンスにも支障を来たすので、
まずは、鏡体のオーバーホールを行う事にした。
腐食部分や、古い接着剤( 膠?) を徹底的に取り除き、
研磨仕上げと脱脂処理を行う。
グッタペルカの方も、極力クリーニングを行い、
再度貼り合わせたのが、こちら。
幸い、オリジナルのグッタペルカが、そのまま使用出来た。
次に鏡体内部をクリーニングするが、
何と、プリズム台座が取り外せるユニークな構造となっていた。
プリズム台座にも、当初は黒塗りがされていたようだが、
かなり剥げていたので、専用塗料で修復する。
鏡体内部にも、部分的に黒塗りがされていたので、
こちらも修復させて頂いた。
本来は、内壁の全てを黒塗りしたいところではあるが、
今回は「オリジナルに忠実なレストア」を目指したので、
あくまでもオリジナルに沿って、修復させて頂いた。
接眼部を分解した状態。
接眼レンズの構成は、軍用機でよく見られる、
シンプルな、ケルナー式であった。
個人的には、ケルナー式接眼レンズの、
素直で透明感のある、抜けの良い像は、
非常に好きである。
ピントリングはグリスも枯れていた事や、
やはり、本機の製造から少なくとも、
90年以上は経過している事もあって、
こちらも徹底的にレストアさせて頂いた。
真鍮製の美しいピントリングである。
ピントリング内の接眼レンズ筒の内壁も、
オマケで黒塗りさせて頂いた。
ここは、外からは全く見えない部分と言う事もあり、
ここだけは、オリジナルよりも性能を優先させて頂いた。
また、ピントリングの操作時のトルクは、
博物館と言う場所柄、
普段、双眼鏡を使い慣れておられない方や、
小さなお子様、様々な方が訪れる事が予想されるので、
誰でも簡単に操作が可能なように、
通常よりも、少し軽めのトルクとなるよう、
グリスを調整し、仕上げさせて頂いた。
対物部の構成はシンプルで、よくある光軸調整の為の、
偏心リングは装備していない構造となっていた。
当初、偏心リングが無い事が不思議で、
一体、光軸調整は何処で、、、!? と考えたのだが・・・
後で紹介させて頂くが、本機の光軸調整の方法は、
非常にユニークで独自性の高い仕組みであった。
対物部の枠には、少し凹みがあったので、
可能な範囲で、修正させて頂いた。
殆ど分からなくなったのでは無いかと思う。
対物レンズには、コバ塗りがされていたが、
これもヴィンテージ双眼鏡のお約束通り、
かなり剥げていたので、専用塗料で修復させて頂いた。
本機、No.2 MkII のプリズムがこちら。
プリズムのトップに、金具が装着されている事に、
注目して欲しい。
プリズムも当初は、カビと汚れで酷い状態であった。
尚、プリズムのガラス材は良質な様子であった。
鏡体内部、プリズム等、一通りのオーバーホールが完了し、
プリズムを装着した様子。
当初と比べると、見違えるようにピカピカとなった。
本機の設計も、非常に緻密な設計で、
対物プリズムを押さえる金具のネジと、
対物部のクリアランスのタイトさに驚かされた。
本機は、ROSS型で、プリズムカバーとヒンジが一体型の為、
プリズムカバーを外すと、こんな状態になる。
それぞれ、単眼鏡としても、使用出来そうだ。
さて、本機の光軸調整であるが、
何と、プリズムのトップに装着された金具に、
ネジが通っており、そのネジで調整を行う仕組みであった。
非常にユニークで興味深い仕組みである。
ただし、左右の接眼側、左右の対物側と、
合計4ヶ所を調整する必要があるので、
難易度的には、通常の偏心リングでの調整よりも、
かなり高いかも知れない。
接眼筒を固定する為の隠れネジも、1ヶ所欠損していたので、
在庫部品より、補填させて頂いた。
対物部の固定ネジは、オリジナルのままである。
プリズムカバー裏には、金属を侵さない、
特殊なシーリング材で、シーリング処理を行う。
このシーリング材が、また驚く程高いのだが、
双眼鏡の為には、コストの事は考えず、
知り得る限り、最高の品質のモノを使いたい。
ミリタリーアンティークス大阪の松井館長のご要望通り、
外観には、殆ど手を加えていないのだが、
内部や各機能、光学系は徹底的にレストアさせて頂いた。
英国軍の証、ブロードアローもしっかり刻印されている。
完成した、No.2 MkII を覗いてみると、
やはり有名な軍用機の定番である、 Dienstglas 6×30 や、
CARL ZEISS JENA D.F.6×30 等に通じるような、
非常に素直で、抜けの良い像が目に飛び込んで来る。
昨今の双眼鏡とは違い、像の中に見える景色には、
奥行き感や立体感がしっかりと感じられ、
3次元空間が十分に味わえ、非常に気持ちが良い。
中心像は非常にシャープで、良像範囲も広く( 70%以上?)
周辺歪みも非常に少なく、解像度も十分である。
また、何とも英国の双眼鏡らしい色彩感で、
ヘンゾルトや LEITZ とも、イエナ機とも、
オーバーコッヘンとも、日本光学機とも違い、
色合いが渋めで、重厚な重みを感じる色合いだと感じた。
少なくとも、英国双眼鏡以外、他の双眼鏡では、
あまり体験した事のない色調である。
こう言った、お国柄による個性の違いを楽しめるのも、
ヴィンテージ双眼鏡の素敵な側面であり、
魅力的な要素の一つだと、私は思っている。
各国のお国柄や、文化の違いによる差異や個性、
メーカーの違いによる差異、メーカーの個性、
そう言ったものが無くなってしまう事程、
つまらない事は無いと私は考えているので、
像の色調に、それぞれの癖や個性があったとしても、
それらの個性がネガティブ要素だとは、
私は考えていない。
どのメーカーも、どの機種も、どれも似たり寄ったり・・・
これほど、ツマラナイ事は無いと思うのだが、
皆さんは、如何だろうか!?
いずれにせよ、100年以上も前に設計されたとは、
到底思えないような、非常に高性能な双眼鏡である。
ほぼ当時の性能を取り戻していると思われるので、
「当時の英軍兵が覗いていた世界を体験してみたい!!」
と思われる方は、ミリタリーアンティークス大阪さんに、
是非、足を運ばれてみては如何だろうか。
ここまで徹底的にレストアされた、
当時の実物の軍用双眼鏡を体験する機会も、
なかなか無いのではないかと思う。
また、100年以上も前に設計された英国軍用双眼鏡の、
性能の高さに驚かれるのではないだろうか。
BLRM がレストアを手掛けた軍用双眼鏡を、
実際に体感されてみたい方も是非!!
さて後日、ミリタリーアンティークス大阪の、
松井館長様から、大変嬉しい報告メールが届いたので、
松井館長様のご了承を得た事もあり、
以下に転載させて頂きたいと思う。
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確かに受領致しました。
大満足です。
素晴らしい仕上がりです。
実はこの双眼鏡は立体鏡の構成品なのですが、
今回のレストアの結果、航空偵察写真を
鮮明に分析することが可能になりました。
来館者様が本装置を用いて驚かれる姿が目に浮かびます。
今後とも何卒宜しくお願いいたします。
本当にありがとうございました。
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最後に、この場を借りて、今回ご依頼を頂いた、
ミリタリーアンティークス大阪 松井館長様には、
あらためて、心より感謝申し上げます。
〜 お陰様で、もうすぐ7周年 〜
皆様方には、心より感謝申し上げます。
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