こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。
本日をもって「第33回高崎映画祭」は終幕。
今年は一度も会場に足を運ばなかった。もちろん観たい作品は目白押しであるのだが。
『菊とギロチン』、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』、『寝ても覚めても』、『生きてるだけで、愛。』、『斬、』などなど。
一度観たものでもこういったフェスティバルの際には再度鑑賞したくもなるのである。
例へば、「第33回高崎映画祭」特別大賞受賞作品のこれ。
『花筐/HANAGATAMI』 (‘17) 169分
梗概
職業軍人である父親の赴任先アムステルダムより帰国し、唐津市の学校に通うことになった榊山俊彦(窪塚俊介)。生気に満ちる鵜飼(満島真之介)、修行僧のような吉良(長塚圭史)、トリックスター阿蘇(柄本時生)ら個性的な学友たちと“冒険”を求むる日々を謳歌する。当地には叔母の圭子(常盤貴子)が亡き夫の妹・美那(矢作穂香)と大きなお屋敷に住まい、そこに仲間たちと出入りするようになる。美那の友人の千歳(門脇麦)、あきね(山崎紘菜)とも知己を得た。だが、日本は太平洋戦争に突入。彼らの将来に暗い影を落とす。
巷間『この空の花 長岡花火物語』(‘12)、『野のなななのか』(‘14)と併せて戦争三部作と喧伝されているようだ。前者は160分。後者は171分。と、いずれも中々の長尺である。大林監督の思い入れを感じるようだ。原作が檀一雄「花筐」。
さて、本作だが、冒頭から驚かされる。まず、CGや合成画面の多用。そして17歳程度の少年を演じる役者たちの年齢にも超違和感。
全編を通して不自然に合成処理された背景ばかりなんだが、そのうちに慣れが生じて、それを楽しむ心の余裕ができてくる。大林監督、齢80にして実験的精神いささかも衰えず。といったところか。
キャストの実年齢も窪塚35歳超。満島25歳超。長塚に至っては40歳超である。青春群像劇なのに違和感ばりばりなのを見越してあへての起用であろう。
時代は違えど、どことなく鈴木清順の『ツィゴイネルワイゼン』(‘80)や寺山修司の『田園に死す』(‘74)を連想させるアヴァンギャルドな雰囲気を醸すと感じるのは自分だけだろうか。『HOUSE ハウス』(‘77)以降、毎回新しい手法にチャレンヂし続ける大林監督らしい。と言へば、らしいのかもしれないが。
それはともかく観るべきは、やはりと言ふか当然と言ふか女優陣である。
矢作穂香。
『江の島プリズム』(‘13)以来気になる女優だった。東海TV制作ドラマ『明日の光をつかめ2』や深夜枠ドラマ『イタズラなKiss~Love in TOKYO』にも出演していた。
*『江ノ島プリズム』*
*『明日の光をつかめ2』小島藤子と*
*『イタズラなKiss~Lovi in TOKYO』山田裕貴、古川雄輝と*
まあ画像を観て頂ければわかるが、gonzalez好みの太眉系かつ大きな目をしたお嬢さんである。知名度は低いだろうが意外や芸歴は長い。
つい先月まで野村周平・桜井日奈子W主演のドラマ『僕の初恋をキミに捧ぐ』にも出演していた。タイトルはいかにも恥ずかしいのだが、彼女が出ているといふことで頑張って観続けた。内容的にもツラく苦行のようでもあった(笑)
それはともかく、大林監督に見出されたのは凄いアドバンテージだ。セリフ回しも時には棒なんだが、大きな現場を経験したことは今後の糧となろう。
山崎紘菜。
デビュー後間もなく『この空の花 長岡花火物語』、『野のなななのか』で大林監督に抜擢される。『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(‘17)の素晴らしいダンスパフォーマンスが忘れ難い。コミュ障で孤立したjkを巧みに演じた。高身長で見栄え良く目力が凄かった。
→『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』ってタイトル長くね?
その前に『orange-オレンジ-』(‘15)では快活なjkを違和感なく演じており、対照的なキャラいずれもOKなところを魅せていた。
本作でも自由闊達な自称“不良”のお嬢さんに扮する。門脇麦とのエロチックなシーンも陰に籠らない。目力健在である。
門脇麦。
太眉女優に数える一人。どちらかといふと影のある陰湿なキャラが似合う人だと思っている。本作では昨年のドラマ『トドメの接吻』と地続きのミステリアスな人物に扮する。
長塚のいとこであり満島の彼女であり山崎に想いを寄せる複雑で危ういポジションにいるのだ。心に屈託を抱えた女子を演じさせたら一番似合うのではないだろうか。
常盤貴子。
『野のなななのか』以来の大林作品で存在感を見せつける。ベテラン女優の域に達した感がある。やはり先月までのドラマ『THE GOOD WIFE / グッドワイフ』での好演も記憶に新しいところ。
本作においては矢作や満島との絡みで美しく色香を放つ。
矢作は結核で余命わずか。喀血する。常盤は指先の傷から出血。門脇は長塚との初体験で血を流す。長塚は突然鼻血を出す。満島は矢作に胸板を噛まれて血をにじませる。
異様に幼いノンシャランな窪塚と明るく開放的な山崎以外は皆出血するのである。
赤いバラの花びらが落ちると血の滴りに見える一瞬が反復される。
赤葡萄酒ですらどろりと真っ赤でまるで血糊のように見える。
かように全編に亘り血が滲み、流れる。同時に戦争へと傾斜していく時世が随所にモンタージュされる。
赤い血が熱き血潮に満ち満ちた生命力と戦争での流血とを切り結ぶ記号としてクロースアップされるのだ。
言い添えると、劇中で長塚が度々言及する仏文学「ポールとヴィルジニー」だが、当然ヴィルジニーは英語でヴァージニア=処女性である。
して、最後まで生き残り独白するのは流血しなかった窪塚だ。
しかし、反戦的サインがインサートされるカットはやや浮ついた感じが否めない。それが繰り返されるので違和感がいや増す。最後の原爆雲もやり過ぎのような気がするがどうだろう。監督の思い入れの刻印といふのは分かるのだが。
それと、同じ場面を左右反転させて取り込む手法が多用されている。どんな意味があるのか不明だが、鑑賞者を混乱させる効果の一因となっているのが面白い。
ところで、近年の大林作品に通じる御当地映画的要素が全開である。唐津のおくんち祭りの場面が丁寧に描かれるし、映画内の随所に記号が挿入される。ここも一つの見どころだ。
劇中にて老人が孫に来歴を語る演出まである。DVDジャケットにはそこで語られた通り14台の曳山のイラストが載っている。ちょっと芸が細かいのが嬉しい。
ちなみに、ユネスコ無形文化遺産に登録されているそうだ。
下記のHPで曳山の画像と詳細を知ることができる。
https://www.city.karatsu.lg.jp/kankou/event/karatsukunchi-machi-rekishi.html
『HOUSE ハウス』以前から温めていた企画をガンで余命6ヵ月を宣告されて以後撮影を開始したとのこと。それを知れば監督の力み具合も理解できようか。
背景を流れるサウンドトラックも迫力あり。バッハ「無伴奏チェロ組曲第1番プレリュード」に時として不協和音が並走するなど美しくも凄みを放ち、映画の世界観を彩る一翼を担っている。
原曲→https://www.youtube.com/watch?v=poCw2CCrfzA
*世阿弥の作とされる能「花筐」を意識か*
さてさて、総括すると万人向けとは言い難い前衛チックな画面構成で好悪別れることが予想される。
反戦的メッセージもくどい。と感じられるフシもある。
登場人物の行く末がどうなったのか不分明なエンディングに困惑するかもしれない。
だとしても、この実験的映画そのものが貴重であろう。空疎、虚無的とか言われたとしても、堂々と映画作家として作りたいモノを作るんだ。との気迫を感じ取れる。
飽くまでも自由と反戦のために闘う。との決意表明とも受け取れるほどだ。
80歳にしてこれを撮ったといふ現実にも頭が下がる思いがする。
鈴木清順も晩年はよりパワーアップした珍奇な面白作品を量産していたしね。
本作は大林作品に寛容で長尺に耐えられる人なら観ておくといいでしょう。
本日も最後までお読み下さりありがとうございました。