Dr.ストレンジラヴの系譜『セーラー服と機関銃』は佐藤浩市へと連なる | 徒然逍遥 ~電子版~

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こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。


靴の中に入った大き目の砂粒。常に気になる。だが、いつ靴を脱いで放り出したらいいかちょっと迷う。履いて歩き続ける限り控えめに存在を誇示し続ける。
そんな感じの映画ってあるものだ。
『雪の断章-情熱-』(‘85)なんて30年以上経た今も自分の中で消化しきれずにいる珍奇な一本である。常に忘れ難くもやもやと記憶の中の一角を占めている。
これもその仲間。


『セーラー服と機関銃』 (‘81) 112分
梗概
女子高生の森泉薬師丸ひろ子はある日テキヤ系ヤクザ、目高組の組長就任が既定路線にされてしまう。彼女は知らなかったが、本来は老齢病身の先代が死亡したら彼女の父親が継ぐ立場だった。が、交通事故で急逝。仕方なく承諾したものの大きな組と謎の組織から標的にされる。実は彼女の父親は麻薬売買に関わり、ブツを隠匿していたのである。その争奪戦の中、子分たちを殺害された彼女が代貸の佐久間渡瀬恒彦と組員大門正明と共に反撃に打って出る。

フィルム・コミッションが天使を招来『セーラー服と機関銃-卒業-』:参照)

もう既に多くが語られており言ふべきことは出尽くした感アリだ。だが、先述の通り気になる映画なので、徒然なるままに思うところを書き綴ってみる。

その前にちょっと振り返りを。


本作封切り当時、映画館に駆けつけた中学高校生男子を中心とする若者たちはさぞや驚嘆したに違いない。同時に肩すかしを喰らったはずだ。

彼らを含む男性客の大半が薬師丸ひろ子目当てだったことは言ふまでも無い。いわばアイドルに会いに行ったのである。


だが、その期待は何となく裏切られたように感じられた。

意味不明な物語に引きずられ、意味不明の冒頭のブリッジとラストの街頭シーンには大いに困惑したはずだ。カタルシスの実感も伴わないエンディング。まる。

 

相米慎二監督も罪な男である。


唯一、中高生男子が内心狂喜したのは渡瀬恒彦風祭ゆきの濡れ場だろう。これぞまさしく僥倖なり。と溜飲を下げるのであった(笑)

          *渡瀬恒彦*                     *風祭ゆき*
 

閑話休題


三國連太郎
かつてのハンサムガイも怪優へと変貌した。本作では地雷で両脚を失い車椅子生活を送る謎の組織の謎の黒幕・太っちょに扮する。


彼の居宅は秘密基地めいており、何やら新興宗教の本山でもあるようで、加えて御本人は生体実験を趣味とするちょっとアレな人物だ。
これらは、『007シリーズ』や後年の『マルサの女2』(‘88)を連想するし、そこでの銃撃戦などは日活無国籍映画のようなイメージも湧きあがる。

しかし、最大の興味は太っちょの車椅子にある。
実はなんと歩行が可能だったことが判明。よっこらしょ、と両脚を露出させて車椅子から立ちあがるのだ。観客はちょっと吃驚する。

 *ちょっと外してくれる?*

 *よいしょっと・・・*

 *あゝ、立ち上がったのに・・・(涙)*


が、往年の映画ファンは喜色満面。思わず身を乗り出してほくそ笑んだ。スタンリー・キューブリック監督『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(‘64)を観ていれば、エンディング間近のワンシーンの引用であることに気付くから。

 *総統。私は歩けます!*


キューブリックとその作品を知らぬ映画監督なんていないだろう。相米監督だって当然観ているはずだ。なので、恐らくは敬意を表しつつアイディアを頂いたんだろう。
だが、ことはそこで終わらない。


佐藤浩市
そう。三國の倅である。実は親父が演じたキャラの符号をちゃんと相続していたのだ。

製作者側が親子関係を念頭に佐藤にあてがったキャラじゃなかろうか。『ホワイトアウト』(‘00)で車椅子に乗るテロリストの首領役を。
作品自体は残念賞だったけど、テロリスト×車椅子ってのは新鮮ではある。


ところで、ここまで読み進めてくださったあなたはもうピンときたことだろう。
その通り。実は首領は歩行可能だったのだ。最後の最後に自らの脚で立ち上がるのである。親子二代に亘る共通事項だ。


キューブリック映画の特異なキャラクターは、ピーター・セラーズの怪演で強烈無比な印象を残した。1964年。
時を経てそのスタイルが極東の珍作名画に突然変異の如くに立ち現われた。本邦の大物怪優が結構気楽に演じてキャラクターに生命を吹き込んだのである。1981年。
その記憶も薄らぐ頃に、今度は役者の実子がそのスタイルを引き受けてスクリーン上に復活させた。2000年。


『ホワイトアウト』は、ほぼ忘れられた作品だから佐藤の役柄も記憶が薄いことだろう。よって、父親譲りのスタイルが語られる機会もない。
しかし、こんな因果が存在することも興味深くないですか?


さて、『セーラー服~』には星泉の同級生役で光石研、組員役では酒井俊也の姿を認めることができる。太っちょと内通している刑事に扮するは柄本明。敵対やくざに寺田農。皆さん肌も髪も若々しい。
実は、TVドラマ『リピート』酒井俊也がゲスト的に出演していたうえ、『トドメの接吻』には光石研が回想シーンに登場、といふ一連の出来事の後押しにより今さらレビューとあいなったのである。

 *柳沢慎吾、光石研らと*

 *酒井俊也*

 *柄本明*
 *寺田農*

 

相米慎二監督の驚異的長回しや、固定カメラのロングショットなどにも触れたいが、別稿に譲る。


本日も最後までお読み下さりありがとうございました。


追記:翌1982年には「完璧版」が公開されたが、自分が観たのは初回バージョンだと思う

  カ、

  イ、

  カ、

  ン。