ヒッチコックに先駆けて『白熱』 | 徒然逍遥 ~電子版~

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こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。


昨年12月頃、妻が古い映画が観たい、と言ふのであれこれ物色。見ごたえのあるやつが好い。と、のたまうので『ワイルドバンチ』ともう一本これを候補に。


『白熱』 White Heat (‘49) 114分
梗概
強面の大物ギャング、コーディ・ジャレットジェームズ・キャグニーは列車強盗を成功させるが司法の手を逃れるべく、遠隔地で発生した他の事件の犯人を名乗り自首して刑務所に。1年程度で出所可能と見ての策略。

そこで、捜査官ファロンエドモンド・オブライエンが囚人を装って潜入。コーディに近づいて真相をさぐる。が、留守中に強盗一味でもある母親が手下に殺され激怒。脱獄して仇を討つ。

信用を得たファロンも連れ出され、強盗のメンバー入り。タンクローリー車に潜んで工場構内へと侵入。しかし、運転手がファロンの正体を見破る。それを知ると狂乱状態に陥ったコーディは壮絶な最期を遂げる。


キャグニーのキャラ作りが大成功を収めた。当時の流行スタイル、フィルムノワールの中でも異色作である。主人公のキャラに関しては後述。


先ずはアクシデントのつるべ打ちで観ている側はやきもきしっぱなし。
列車強盗中に仲間が蒸気を浴びて顔面大やけど。アジトに置き去りにするがここから足が付くや否や。すぐに出所出来るはずが状況が変わって脱獄するはめに。潜入捜査が上手くいきそうで、いかなさそうで、でもやっぱり結果オーライに。
とにかくドキドキさせてくれる見事な脚本である。

    *ジェントルメン大列車強盗団*     *透明人間に非ず。顔面火傷人間*


後半は捜査チームとギャング団のつばぜり合いが緊張をもたらす。知能犯コーディに手を焼くチームだが、潜入捜査官ファロンの機転が功奏した。
ここらへんも、いつギャングに正体が露見するのか、どうやってチームと連絡取ったらいいのか、どのタイミングで逃げ出せるか、と心配度が右肩上がりに亢進する。


一方、コーディも不首尾に終わるのは分かっちゃいるが、いやだからこそ応援したくなってしまうこの観客心理。


で、彼のエキセントリックなキャラだが、当然冷血。車のトランクに押し込んでおいた奴に、風通しを良くしてやらあ、と嘯き弾丸を連射する。ような人間。

だが、際立つのは超マザコンの既婚男性というキャラ。

精神の安定を保つには母親に慰撫されないといられないのである。

           *母vs嫁*           *獄屋にてママの訃報にマジギレ!*
 

ゆえに妻ヴァージニア・メイヨよりもずっと親密な母子関係。

母親にして強盗一味であり溺愛する息子のメンタル面で強力な後盾となっている。

「世界一におなりよ」が激励の口癖。悪行を煽ってドースルのか。


実現したかどうだかビミョーだが、最後に叫ぶママ!世界一だ!!(爆)」は映画史に残る名場面名セリフだと思う。

ここから連想されるのは『暗黒街の顔役』(‘32)のリメイク(?)、『スカーフェイス』(‘83)だろう。アル・パシーノの最期に“世界はおまえのもの”が墓碑銘のように映るラストシーンだ。

世界一=世界の所有者、みたいな親和性。

さて、本作にインスパイアされたか否か分からないが、後年ヒッチコックがより一層洗練させたマザコン作品が『北北西に進路を取れ』(‘59)であり、より先鋭化させた作品が『サイコ』(‘60)で、より純化させた作品が『鳥』(‘63)といふのが私見である。


本作ではマザコンを真正面から描いているが、ヒッチ作はこのテーマを巧妙に記号化して全編に散りばめる手法をとっている。ので、『北北西に~』でも母なる超自我が常に主人公の前に立ち現われるが、全く別のカタチを借りてのことなので見過ごしがちだ。
『サイコ』に至ってはもはや行きつくところまで行ってしまった感すらある。
『鳥』はそれらを総括し、“鳥=母なる超自我”に一点集中した印象だ。


『北北西に~』のエンディングは映画的には一応の決着がついた。
『サイコ』は、ノーマンが向こう側に行ってしまっただけで、将来ひと波乱あってもおかしくない終え方だった。
『鳥』はと言ふと前二作と異なり事件の発端は原因不明だし、未解決のままの開かれたエンディングである。雰囲気的にはこれが恐怖のプロローグっぽい感じもする。
これらを見比べてみるのも一興だろう。


さて、本作でキャグニーの妻役を演じたヴァージニア・メイヨだが、彼女の寝姿が映し出されるや、寝顔のアップにいびきを重ねるのである。よくもまあ引き受けたものだ。と感心しきり。
母親役を演じた痩身の老女優の存在感も忘れ難い。


妻も満足したようでほっとした。温故知新。お薦めしよう、この映画。


本日も最後までお読み下さりありがとうございました。