こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
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今ではゴジラ映画も独創性豊かな作品がフツーに製作されるようになった。しかし、このような異端児は珍しい。
『ゴジラ対ヘドラ』 (‘71) 85分
梗概
駿河湾の漁師が大きなおたまじゃくしのような生物を発見した。その後それが巨大化したヘドラが出現。
変態を繰り返し、タンカーを押し上げたり、上陸して工場の煙突から煙を吸うなどし始める。
しかも空中を飛行し硫酸ミストを噴霧。金属は腐食し、人は白骨化。ヘドロを振りまき、それを被った人や物は死に至るなどの被害が相次ぎ死者1,000万人に達した。
ゴジラが立ち向かうも大苦戦。右前足は白骨化。左目を失う。研究者の提案でヘドラを乾燥させる作戦を展開。そこにゴジラも協力し…。
初っ端から驚かされる。大気汚染、水質汚染のショットの後ヘドラが水面に顔をのぞかせる。
と、オープニングタイトルのバックにはサイケ調の模様がうごめき、クロースアップの女性シンガーがテーマ曲「かえせ!太陽を」を歌唱する。
夏休みの企画「東宝チャンピオン祭り」のプログラムゆえ小学生以下を対象にしている映画のはずだが、これじゃまるで007シリーズのオープニングのようだ。
しかも歌詞が凄い。
「水銀、コバルト、カドミウム/鉛、硫酸、オキシダン/シアン、マンガン、バナジウム/クロム、カリウム、ストロンチウム」と、元素周期表のおさらいみたいだ。続いて「地球の上に誰も、誰もいなけりゃ泣くこともできない」そして「命を太陽をかえせ、かえせ、かえせ、かえせ・・・」とリピートされる。
さらに、劇中では主人公の小学生男児の詩が画面に現れる。
「げんばく、すいばく、しのはいはうみへ/どくがす、へどろ、みんなみんなうみへすてる/おしっこも
ゴジラがみたらおこらないかな/おこるだろうな 二ねん一くみ矢野研」と朗読する声が流れる。
*ヘドラおたまをぶらさげるお父さん*
今では大分落ち着いた感があるが、当時をリアルタイムで知る者にとって“公害”というのはかなり切実で身近な問題であった。片田舎の地方中小都市でも光化学スモッグなどが発生したし、家の周囲の河川や溝、どぶなどは異臭、金属臭を放つなど汚染がひどい場所もあった。
浦和市の親戚の家を訪問したとき、近所の大工場から漂う金属臭を伴うにおいに驚いた経験もある。
しかも、本作が公開された1971年には「環境庁」が発足。
70年代に入り、公害元年とか言われて公害と公害病が一気にクロースアップされた頃である。
それこそ『ひよっこ』の時代・高度成長期と表裏一体の産物である。
で、ヘドラはおたまじゃくしの水中期。
四足歩行の陸上期。
飛行する飛行期。
の三段階を経て二足歩行に至る。
体長も徐々に巨大化し、60mあまりに達する。
しかも二足歩行形態でも随意に飛行体形へと変身する。ゆえに水陸空での活動が可能となる。
この変態は『シン・ゴジラ』に引き継がれるアイディアだろう。
ヘドロを体内に取り入れ、煤煙を吸引するなど産業廃棄物が大好物。
煙突に覆いかぶさって煙を吸いこんでいるうちにうっとりとして眼が半開きになる。
シンナー乱用が流行っていた時代の刻印か。
ついでながら若者たちがヘドラに松明を投げつけるシーンも、ついこの間の学生運動を連想させる。
ボディには高酸性のヘドロが詰まっているようである。自衛隊の攻撃も貫通してしまう。
突っ込んだゴジラの右手(右前脚?)は酸で白骨化。
ゴジラや人間にそのヘドロを吹きつけて殺傷する。飛び道具だ。これで彼は左目を潰された。
さらには地面の窪みに仰向けに倒れたゴジラを、体内からヘドロを垂れ流して溺れさせようとする。
しかも飛行形態にて硫酸ミストを噴霧。人間はもとよりゴジラも倒れ伏して悶絶する。
両雄三回戦が繰り広げられるがゴジラもかつてない大苦戦を強いられた。
そのルックスもまさに名は体を表していて不気味である。
なんと目が縦長で眼球の光彩もくっきりしており奇天烈だ。煤煙を吸い込むと背中が膨張。
目から怪光線を発する時は頭が膨張するなど珍妙である。
劇中で奴のヘドロに猫がまみれてにゃあと鳴くショットには吃驚する。
そして、挿入されるアニメは公害による環境汚染の危機を子供に向けて発信している。
ゴーゴークラブみたいな所で演奏者は和装風の衣装をまとい、背景の壁一面にサイケデリックな絵柄がうごめき髑髏や骸骨が投影される。
柴俊夫扮する大学生が酔った目で室内を見回すと、踊る客たちの顔は様々な魚の頭になっている。これは意味不明である。
ヘドラ被害に怒る市民たちの様子が挿入されるが、なぜかヘドロに埋もれて泣き叫ぶ赤ちゃんの姿も垣間見える。
エンディングはこれまたなぜか浮世絵の大波のショットが挿入され「そして、もう一匹?」の字幕で終える。次のヘドラ出現を予感させる余韻である。
色々なシーンがかつてないゴジラ映画として特色づけられており斬新と言へることは確かだ。
とにかく公害問題・環境汚染の危機を訴えるメッセージ色の強烈な作品に仕上がっている。
しかも子供向けにも対応させているし。前代未聞の時事ネタまみれのゴジラであった。
が、自分の世代の邦画マニアであれば大変興味深く鑑賞できるだろうし、そういった方々はもう既にチェック済みだろう。よって、さらに下の世代にも観てもらいたいとも思う。
奇抜さでは群を抜くゴジラ映画をその目で確認するがよい。
本日も最後までお読み下さりありがとうございました。
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