欧米型の労働許可制ではなくあえて使用者に対する雇用許可制とすることが外国人労働者に対する使用者の権限を不当に強めてしまう危険性を否定しきれなかったからであろう。雇用許可制においては、許可を受ける主体は企業であり、労働者は客体にすぎない。入管行政の客体として半世紀間翻弄され続けてきた在日韓国・朝鮮人の怒りと哀しみに、当時の労働行政はいささか鈍感であった。
濱口桂一郎「日本の外国人労働政策」(「労働再審②」より)
神保: 日本経済の処方箋についても伺っていきます。藻谷さんは「高齢富裕層から若者へ所得移転」「女性の就労促進と経営参加」「外国人観光客・短期定住客の受入」を挙げていますね。
「デフレの正体」の評判が一部で悪いのは、最後のほうで金融緩和(リフレ)政策の効用について疑義を呈している部分があるからだと思うのですが、人口動態派の私としては全体的に普通に首肯できる内容でした。特に上記の処方箋についても、女性の問題を除けば着眼点は同様。
藻谷: これらは生産年齢人口が減ることに対する処方箋で、高齢者が激増することに対する処方箋ではありません。しかし、費用対効果は大きい策だと考えています。特に「女性の就労促進」について反論する人の根拠は、感情論以外にはないでしょう。日本のパートもしていない未就労女性は1600万人。団塊の世代が1000万人で、その中で今も現役で働いている人は500万人なので、生産の面では未就労女性の3人のうち1人が働いてくれれば補えてしまいます。かつ消費の面でも、おじさん1人と若い女性1人が同じ所得を持っていたら、若い女性の方がお金を使うのは明らかです。第一、女性の購買力がきわめて高い日本では、おじさんがものを作ってもアテが外れるケースが多く、女性の経営者が女性向けのものづくりをした方がいい。
これに対する最大の反論が「女が働くと子どもが減る」というものですが、これこそSY(数字を読まない)の典型で「数字読め」と言いたくなります。若い女性が働いている県ほど出生率は高いし、先進国でも若い女性が働いている国ほど出生率は高い。共働き夫婦の方が、専業主婦家庭より子どもの数は多いのは、ダブルインカム(二重所得)で安定している家庭の方が子どもを作りやすいからです。
「女性の就労促進」については、冒頭に取り上げた「労働再審①」のコラムの方が労働問題と絡めての理解としては最適。
藻谷: 「高齢富裕層から若者へ所得移転」も合わせると、女性の給料を上げて、若者の給料を上げろということです。この人たちは、本当に我慢しています。お金さえあれば買いたいものはたくさんある。「若者の車離れ」などと言われますが、彼らもお金があればものを買いますよ。(2010年11月8日 ビデオニュース・ドットコム)
書籍も面白かったし、普通に来年は注目かな。
店長・管理職全900人を海外に異動へ ファーストリテイリング、国際化を加速
>2010年8月期末の海外ユニクロの店舗数は136店で、ユニクロ事業全体に占める売上高構成比は10.7%。11月にマレーシアの1号店を開店するなど東南アジアや中国への出店を強化するなど、欧米や中国を含めた海外事業の一段の拡大を急いでいる。国内を上回る海外売上高を実現するには、年300店を出店させる必要がある。このため、国内約800店舗の店長と、東京本部などに勤務する課長職以上の約100人について海外各地の拠点や店舗に順次移動させることにした。国内での店舗運営の経験を生かし、海外店の出店をスピードアップさせるほか、海外での経験を現地の人材育成につなげる。[産経新聞 10/12/08]
国内店舗は現地採用準正社員で回せるだけの業務標準化が済んだということか。まさに「民族大移動」ですな。
191 名前:名刺は切らしておりまして[] 投稿日:2010/12/12(日) 23:25:46 ID:WXrwrMRU
大手ゼネコンも同じみたいだし
【企業戦略】大成建設、取締役の3分の1を外国人に 社員採用も拡大、海外重視鮮明[10/12/10]
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/bizplus/1291946963/
大成建設は9日、取締役に外国人を登用する方針を明らかにした。
2020年度をめどに、社外取締役を除く取締役の3分の1程度を外国人とする考え。
国内の建設市場が縮小し、重点的に海外事業を強化する計画を進める中、海外で豊富な経験を持つ外国人の登用拡大が欠かせないと判断した。実現すれば、売上高が1兆円を超える大手ゼネコン(総合建設会社)では初となる。大成がいち早く役員の“門戸”を開くことで、同じく100年以上の歴史を持つ鹿島など他のゼネコンの意思決定に影響を及ぼす可能性もありそうだ。大成の取締役は現在8人で、すべてが日本人。
20年度には取締役に2~3人を登用する方針だ。外人取締役の選抜に向け、外国人正社員も増やす方針。
同社は今年度、海外で中国人を正社員に引き上げたほか、本社でハンガリー人を登用しており、事実上初めて外国人2人を正社員として採用した。
子会社の事務業務を沖縄に集約 ソニーが人件費抑制で
>雇用情勢が厳しい沖縄県は、企業にとって人件費などを抑制できる面もあるとみられる。新会社は資本金1千万円で、来年1月4日に設立。4月から事業を開始する。社員数は約350人。集約する業務は、ソニーマーケティングの商品受注やソニーカスタマーサービス沖縄事務センターの修理関連の情報登録事務など。(MSN産経 2010.12.24)
カスタマーセンターが沖縄や北海道、中国地方などに多いのは以前メモしたような気がします。
野村HD、中国・大連に事務拠点設立 顧客口座などのデータ処理を移管 国内の派遣は削減する方向
>野村ホールディングスが中国・大連市に日本語でデータを処理する事務センターを設立することが25日、わかった。平成23年5月にも稼働する。顧客口座や営業経費のデータ入力など国内支店の事務作業を移管する。国内の金融機関が日本語の事務センターを海外に構築するのは初めて。同社は大連に全額出資で「野村信息技術」を設立する。大連市がIT(情報技術)企業などを誘致している「大連アセンダスITパーク」に事務所を構える。23年末までに250人、24年末までに500人の従業員を現地で採用する計画。日本からも社員を数人派遣する。これまで支店など個人部門の事務は国内子会社が担ってきた。大連は不動産賃料や人件費が日本の10分の1以下とされ、今後5年で50~60億円の経費削減が見込めるという。
国内子会社は約1千人いる派遣社員を段階的に減らしていく。[MSN産経 10/11/25]
野村證券みたいな大会社が年間で10億円程度の経費増を惜しんでとは思えないので、全世界の事務処理業務を集約することを睨んでということでしょう。しかし、金融系のシステム入力は非正規雇用では結構待遇がいい部類の職だっただけに…。
経団連会長、労働力としての移民受け入れを奨励…改めてTPP参加促す
>日本経団連の米倉弘昌会長は8日の記者会見で、「日本に忠誠を誓う外国からの移住者をどんどん奨励すべきだ」と述べ、人材の移動が自由化される環太平洋経済連携協定(TPP)への日本の参加を、改めて促した。米倉会長は「将来の労働力は足りず、需要をつくりだす消費人口も減る」と述べ、積極的な移民の受け入れが必要との考えを強調した。[読売新聞 11/08]
冒頭で取り上げた論文で濱口教授は二正面作戦として既にいる外国人労働者の待遇改善と、新たに受け入れる労働開国問題を同時に扱う必要があると記されております。私はまずは普通に非正規雇用問題と拡張して考えざるをえないと記している通りです。一般労働問題を解決せずして、移民導入を図っても誰も幸せにはなれないでしょう。
653 名前:名刺は切らしておりまして[sage] 投稿日:2010/11/10(水) 02:57:18 ID:9tACvpNW
229: ドラエモン 2009/03/04(Wed) 20:00 [ va4qsJNk0c ]
国内市場がある程度の規模がないと規模の利益を享受できないという可能性はゼロではない。たとえば映画とかね。日本映画見る人が日本人限定なのでハリウッドには敵わないなんて言い訳も100%嘘というわけではない。だが、自由貿易体制が維持されているなら、国内市場が絶対的な制約になるわけでもない。また映画は駄目でもアニメなら世界を制圧している。
そもそも50年くらい前までは人口過剰だと大騒ぎし、南米に移民が続いていたし、大東亜戦争だって満州が生存圏に必要だとかいう理由で居座ったのが結局は原因。それで人口増えなくなったら今度は移民入れろってのはお笑い。今の人口だって、世界的に見れば決して少なくはない。軍事力の基礎となる経済力なんていっても、わずか1%かそこらで世界有数の軍事力を既に持ってます。核ミサイルや航空母艦や原子力潜水艦で世界の海を制圧する気があるなら別だが、現有戦力でもアメリカとの協調が保たれている限りそんなに少なすぎるというわけでもないでしょう。兵員の数と質が若年人口が少なくて確保がムズカシイと言うかもしれんが、増えたからって志願者が増えるわけでもないし、徴兵するなんて願い下げ。そんな国なら儂は子供を連れて出て行く(笑)
そもそも、失業者がゾロゾロ居て、女性の社会進出も先進国最低で、若い奴は結婚する以前に職もないなんていうのになんで移民なの?移民の多い国は経済成長しているというかも知れないが、因果関係逆でしょう。経済成長し労働需要が強いから移民が入ってくるし必要なの。貧乏国に貧乏人を世界から集めても大貧民国になるだけ。
654 名前:名刺は切らしておりまして[sage] 投稿日:2010/11/10(水) 02:57:30 ID:9tACvpNW
234: ドラエモン 2009/03/04(Wed) 20:08 [ va4qsJNk0c ]
で、今、移民入れろと言ってる連中は、要するに賃下げを狙っている。たとえば家政婦など家内労働従事者は日本が世界で一番少ない。これが不満な階層が居る。なんでうちには安い給料で従順に働くナニー(子守)が居ないのかとかね。中には美人で巨乳なメイドを雇いたいとかいう馬鹿も(以下略だが、家内労働なんてのは誰もやりたくない。余所のうちのガキのおしめを取り替えるのがウレシイ人はいない。家内労働従事者が少ないのは、戦後日本が比較的平等で経済成長した証であり、誇るべき成果。一部の成金だかハイソな連中(そいつらは家もセコムしてるし、マンションならレセプションデスクに人がいるような所に住んで、車で通勤なので少々の治安悪化は平気なんだろうw)の戯言につきあう必要なし。まあ、これは日本人のエゴイズムですがね(笑) 博愛精神あれば、生活水準が下がって治安が悪化しても、世界の貧乏人をドンドン受け入れるべきだがね。
こんなところでドラエモンさんのカキコを拾うことになろうとは(涙)
ロシアで暴れ出したネオナチ・フーリガン
>民族主義の極右による暴力がロシア全土を襲っている。この数週間でネオナチ集団率いるサッカーフーリガンが暴徒化する事件が続発。多くの負傷者を出し、少なくとも2人が死亡した。12月11日、首都モスクワのクレムリン宮殿の外にあるマネージ広場に5000人以上の男女が殺到し、ナチス式の敬礼をしたり人種差別的な言葉を叫んだ。彼らは中央アジアや、イスラム教徒が多く住むロシア南部のカフカス地方の出身者とみられる通行人に暴言を吐き襲撃。少なくとも20人が病院に運ばれ、男性1人が死亡したと伝えられる。
ロシアもまたレコンキスタの最中にあることは記したとおり。共産主義というある種の綺麗事思想もなくなり、プーチン王朝のスタンスに立てば、国粋的民族主義が台頭するのも自然なことでしょう。
>ロシア政府は、極右の民族主義集団に対して長く寛容な態度をとっており、彼らが年次集会を行うのも許してきた。今年も例外ではなく、極右のネオナチ集団「スラビック・ユニオン」は昨年活動を禁止されたにも関わらず、5000人規模で集会を行なった。同集団はデモを許されたが、リベラルで野党よりの集団が政府に集会の許可を申請しても、決まって却下されている。
若者の不満を逸らすのに「外国人」を利用するのは容易いことです。
>特に金融危機後に失業率が急上昇してからは、政治家たちは折に触れて、移民労働者に対する人々の懸念を利用してきた。モスクワの新市長、セルゲイ・ソビャーニンは2カ月前に就任してから反移民政策を大々的に掲げ、雇用に関してはモスクワ市民が優先されるべきだと公言している。(Newsweek 2010年12月17日)
日本で石原みたいな老害が「三国人」とか煽ってもそれほど効果がないのは、単純に国内に移民が他先進国と比べると圧倒的に少ないからでしょう。
外国人犯罪者を「一律追放」=人権問題の懸念も-スイス国民投票
>スイスで28日、強盗など重犯罪を犯した外国人を一律に国外追放することの是非を問う国民投票が行われた。政府発表によると、賛成は52.9%と過半数に達し、一律追放の厳罰が承認された。ただ、外国人を狙い撃ちにした法改正は人権問題につながるとの懸念も出ている。今回の国民投票は、移民政策の厳格化を掲げる右派の国民党が発議。強盗や性的暴行、社会保障の悪用などで捕まった外国人を、例外なく自動的に国外退去させるよう法改正を求めた。政府は、犯罪の程度を考慮した上で、国外追放を個別判断できる現行法で対処可能との反対発議を提案したが、過半数の支持は得られなかった。[時事通信 11/29]
移民政策は結局は労働問題と治安問題が結び付き、そして排斥を正当化する口実として治安問題が説得力を持つことは、これまで治安カテゴリーなどでメモしてきたとおりのことです。そしてさりげなく、「社会保障」の文言が紛れ込んでいることがまた暗い気持ちにさせられます。
こうして外国人労働者政策としていずれが望ましいかという本格的な議論のないまま、両省の権限争いに決着がついた。法務省は1989年3月に出入国管理法改正案を国会に提出し、継続審議となった後、同年12月に成立公布された。その主眼は不法就労助長罪の新設であった。労働政策の痕跡は、同改正法附則により職業安定法第53条の2として、「労働大臣は法務大臣に対し、労働に従事することを目的として在留する外国人の出入国に関する必要な連絡・協力を求めることができ、法務大臣は労働大臣から連絡・協力を求められたときは、本来の任務の遂行を妨げない範囲で、できるだけその求めに応じなければならない」という気休め的規定が設けられただけにとどまり、8月の段階で想定したという「外国人労働者法案(仮称)」は影もかたちもない。
濱口桂一郎「日本の外国人労働政策」(「労働再審②」より)
- 労働再審〈2〉越境する労働と「移民」/著者不明
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- ▲最後の濱口教授の日本の外国人労働問題に関する失われた20年の根源を探る論文が非常に刺激的でした。私は端的に治安問題(入管政策)が優った結果だと理解していたのですが、もうひとつ雇用許可制という当時の日本の労使環境に沿ったもの、そして在日の存在という変数が存在したがゆえの帰結という視点が勉強になりました。