後藤田正晴「僕は何も変わっとらんのに時にタカ派時にハト派とそれこそあらゆる見方をされてきた」 | あざみの効用

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或いは共生新党残党が棲まう地




「われわれの任務は、この安田講堂だけで終わるわけではない。治安というのは、長期的に見て取り組まなければならない。必要なのは、彼らに敵対心だけを与えないことだ。いずれ彼らも善良な市民として育っていくわけだから、そういうしこりをのこすと長い目でみれば不利になる。今、必要なのは彼らの行動を国民から浮き上がらせてしまうことだ。なんと愚かなことをしているのか、と理解してもらうことだ。少々対応が遅れて、警察は何をやっている、と非難されても構わない。われわれは軍隊とは異なるのだから…」


後藤田はこのような訓示を繰り返した。


                                保阪正康「後藤田正晴」


女性への痴漢対策のために、特殊な防犯ベルが開発されたことがあった。防犯課長が後藤田のところにもってきた。彼としては褒められると思ったに違いない。後藤田はその報告を聞くと、顔色を変えて怒りだした。

「おい、お前、そんなものをもたなければ、女性は東京の街をあるけないのか。警察は何をしているのか」
防犯課長は返す言葉がなかった。
「ついでにいっておくが、最近、東京の街を歩いていると、『女性の夜の一人歩きはやめましょう』という看板が立っているが、あれは一体どういうことだい。警察の無知無能を宣伝しているようなものだ。そういう意味ではないだろう。そう思うなら早急に
取り外しなさい」


                                保阪正康「後藤田正晴」


運命論だけでは片付かない面が、戦争にはつきまとっている。それはできるだけ多くの情報を集め、それを解析して死の側に組み込まれる確率を少なくする努力をしなければならないということだった。運命論者であり続けるならば、いつか死の側に入ってしまうだろう。そこに近づかないための情報があるはずだ、というのが、後藤田の考えになった。


                                保阪正康「後藤田正晴」


2009-06-12 からは再々度、道州制のメルクマールとして


58 名前:名刺は切らしておりまして 投稿日:2008/05/30(金) 13:06:02 ID:4HhBk5Su
11州
北海道(19兆5044億円):= アラブ首長国連邦 19兆2600億円
東北(32兆4200億円):= デンマーク 31兆1910億円、 イラン 29兆4090億円
北関東(54兆6282億円):スウェーデン 45兆5320億円
南関東(136兆6839億円):ロシア 128兆9580億円、ブラジル 131兆3590億円、インド 109兆8950億円
北陸(21兆3242億円):ポルトガル 22兆3300億円
東海(63兆7072億円):トルコ 66兆3420億円
近畿(78兆9121億円): オランダ 76兆8700億円
中国(28兆1378億円):南アフリカ 28兆2630億円
四国(13兆3927億円):ニュージーランド 12兆8140億円
九州(43兆4862億円):スイス 42兆3940億円
沖縄(3兆5755億円):ドミニカ共和国 3兆6400億円


と、政治家にとってのみみっちい広報戦略について。百年一昔の石原はともかくとして、私は東大紛争からあさま山荘に壮大かつ長軸な治安当局によるメディアコントロールに思いを馳せます。


公安委員長 秋葉原の現場視察
>秋葉原名物の歩行者天国は、事件以降中止されていますが、地元の住民や電気店街が防犯カメラを50台設置するなど安全対策が進んだとして、早ければ来月にも再開する見通しとなっています。視察を終えた中井国家公安委員長は「防犯カメラの設置はありがたい。安心して人々が生活でき、世界じゅうから買い物に来ていただく街として、いちばんのよりどころは安心・安全ということだ。秋葉原の若者の文化はすばらしいし、みんなで法律を守ってさらに発展していってほしい」と話していました。(
NHKニュース 6月13日 16時4分)


防犯カメラが増設されれば安心・安全となってしまう世の中についてもはや溜め息しか零れません。商店街主は歩行者天国再開の為に手段を選んでいられないとしても、治安を司る大臣でこのレベル…冒頭の後藤田長官の如き一喝と比較すると。


官房機密費、鳩山政権末期の2カ月で3億円支出
鳩山政権の平野前官房長官が、4月と5月の2カ月間で官房機密費を3億円引き出していたことが明らかになりました。
これは、共産党の塩川衆院議員が提出した質問趣旨書に対する政府の答弁書で明らかになりました。それによると、平野前長官は4月2日と28日、そして5月25日の3回に分けて1億円ずつ、合わせて3億円の官房機密費を国庫から引き出していました。ただ、政府は、その使い道などについて「今後の活動に影響する」などとして回答しませんでした。これに関して、仙谷官房長官は「平野前長官から伺っていないので分からない」と答えるにとどまりました。(ANNニュース 06/11 22:30)


官房機密費の使途なんか喋れるわけないでしょうに。せいぜい30、100年後に公開するかどうかといった次元の話。その意味で、昨今普通に評論家などに掴ませていたことを明らかにした野中元官房長官はアウトです。まあ、後藤田さんも普通に配っていた みたいですが…。


松田喬和の首相番日誌:「後藤田的存在」
>「官房長官を軸にした一体性を考え構成した」「よく中曽根(康弘)政権の後藤田(正晴官房長官)先生の名前が出るが、そうした力を持った方でなければならない」と、会見で説明した。


今回、おそらく同じ選挙区だったということもあろうかと思いますが、仙谷官房長官が理想として後藤田氏の名前をあげていたのは少し感心しました。


>官房長官には大別すると二つのタイプがあると思う。一つは「番頭型」であり、もう一つは「側近型」だ。官房長官の役割は、大きく言って三つ。政府のスポークスマン役と国会対策の窓口役。そして、複数の省庁にまたがるテーマに対応するための横串(よこぐし)役で、この役は年々重視されてきている。ところが、最近は「側近型」起用が目立ち、短命の誘因となった。「煙たい存在」と菅首相が公言する仙谷由人官房長官は「側近型」には入らない。当の中曽根元首相は「後藤田君とは政治手法は違ったが、目指すべき日本の針路は同じだった」と、回顧する。(毎日新聞 2010年6月12日)


官房長官の最大の仕事は官僚を縦横無尽に操り、国家に関わる情報を吸い上げることでしょう。だからこそ、後藤田氏は別としても総理秘書官を代表に総理官房に警察庁出身者が登用されるわけで。そしてその為に後藤田氏は内閣府五室を設置したわけですが、自身が離れて以降その設置時の狙いが、官庁に人事派遣の主導権を握られることで残念なことになっていると述懐されてもいます。まあ、いずれにせよいい機会なので後藤田氏に絡みメモしていたものを放出しておきます。あまり、私の解釈を並べ立てても仕方ないし、後藤田氏自身肝心なところは”ネガティブリポート”もしくは「この件に関しては詳しくは承知していない」として語らぬままお墓までもっていかれています。



忘れていたが、後藤田さんは税務行政にも精通した自治省官僚でもあって、料飲食税の問題を滔滔と弁舌さわやかに論ずる岡副昭吾(新橋演舞場社長、高級料亭「金田中」オーナー)と平仄があったのだ。それから、あとでわかったことだが、後藤田さんはすぐ秘書官を呼んで岡副昭吾とその父親、岡副鉄雄とはどんな人か調査させ、身元を確かめてからアポを受け付けたのだった。これが後藤田さんの凄みである。とても用心深いのだ。後藤田官房長官の鶴の一声で、警察庁の鈴木良一保安部長は早速多年に亘る懸案事項だった「風俗営業取締法」の改正にとりかかった。


             佐々淳行「わが上司 後藤田正晴 決断するペシミスト」


これは先日の風営法の続き でもあり、身元調査ができなくなったということの嘆きの元でもあります。


三井物産の江尻社長が、若王子マニラ支店長が無事救出された喜びで4ヶ月余りの緊張がほどけて気が緩んだのか、共同記者会見は無難にこなしたものの、そのあとの某社との単独記者会見で、若王子事件解決の、公表してはならない裏交渉の全容をしゃべってしまったのだ。それまで「会社は若王子さんを見殺しにするのか」とマスコミや世論で叩かれ、「金を払ってやれ、人命をなんと心得る」などと
無理解で無責任な批判にさらされていた。


(中略)


朝、毎、読三紙を見せて、

「裏話、みんな載ってます。いま、ロンドンから抗議の電話が私にかかりました」
みるみる後藤田さんの顔から笑いが消えた。
「誰がしゃべった?」
「どうも江尻社長のようです」
「すぐ江尻社長を呼べ、話がある」
「さっきご挨拶っていって長官室に立ち寄りましたよ、いま総理室です」
「すぐこっちに来てくれと呼べ」


江尻社長は満面笑みをうかべてやってきた。
「いま、中曽根総理に先にご報告してきました。宮中に参内と伺ったものですから。総理も大変お喜びで…」
後藤田さんはニコリともせず言い放った。
「労は多とするも…ですが、何事ですか、これは。貴方、身代金払ったんですか?ワシはきいてない。この英国のコントロール・リスクスやらナンジャラというのは一体何のことですか」
あまりの烈しい剣幕に、江尻社長はたじろいだ。
「しかし人命にかかわることですし…」
「ワシはきいていない。金、払ってませんね。フィリピンのアキノ大統領とかカトリックの大僧正の仲介、これ、事実じゃありませんね。英国のコントロールナントカも関係ありませんね?」
「……」


午前十一時。定例の官房長官の官邸記者クラブに対する記者会見が行われた。当然質問は若王子事件に集中する。
「コントロール・リスクスと日本政府の関係は?アキノ大統領と外務省は?身代金はいくら?…」
後藤田さんはビクともせず、

「そんなものはみんな事実無根です。なに?三井物産の社長がそういった?そんなことはない。たった今、御本人がワシの部屋でもそんなことはない、いうとるがな…」

…これで終わりだった。このあまりにも鮮やかな捌きを、私は感嘆しながらみていた。事実、誰もただの一度も正式に報告したことがないから、後藤田さんは「きいてない」のだ。私も報告していない。ウソはいっていないのだ。そして妹尾領事移住部長も、記者会見で外務省は無為無策だ、血も涙もない、無能だといった悪口雑言を甘んじて受け、立派に耐えていた


人命にかかわる危機管理とはこういうものなのである。時にはバカに成り切り、無能の仮面を被らなくてはいけないのだ。


              佐々淳行「わが上司 後藤田正晴 決断するペシミスト」


まあ、すぐにワシが育てたならぬ自己の手柄をぐへぐへ喋る世耕議員のような小物がメディアコントロールの専門家面しているほどに日本の政治は退化しました。「経済一流、政治三流」とかつて言っていたのは私は信じていません。昔は経済一流かつ政治も一流だったということをきちんと評価できていないからこその現在の暗澹たる世襲政治家の群れです。マスコミや官僚の批判的姿勢を退けてブレーンと共に所得倍増計画に邁進した池田勇人首相や、フィリピンのようなピープルパワーを抑えつけて長期安定政権へと導いた後藤田正晴氏、共産化の恐怖を盾にアメリカを恫喝した吉田茂総理などなど。



これまで随所にメモしてきたもの一覧

警察と軍隊は違う(縦深戦略の有無という点で)

(コメント欄)尊敬する内務官僚として島田叡知事

・危機管理(能力)とは「百年兵を養うは、一日にこれを用いんがため」

ほかに、「情と理」からもメモした覚えがあるのだけど見つからないのでとりあえずこれだけ。



内閣五室制度発足の式典における後藤田正晴官房長官の初訓示は圧巻だった。


「…以後、諸君は大蔵省出身だろうが、外務、警察出身だろうが出身省庁の省益を図るなかれ、『省益を忘れ、国益を思え』。省益を図ったものは即刻更迭する。次に、私が聞きたくも無いような、『悪い、本当の事実を報告せよ』。第三に『勇気を以て意見を具申せよ』。こういうことが起きました、総理、官房長官、どうしましょうなどというな。そんなこと、いわれても神様ではない我々、何していいかわからん。そんな時は私が総理なら、官房長官ならこうしますと対策を進言せよ。そのために君ら30年選手を補佐官にしたのだ。地獄の底までついてくる覚悟で意見具申せよ。第四に『自分の仕事でないという無かれ』。俺の仕事だ、俺の仕事だといって争え(積極的権限争議)、領空侵犯をし合え(テキサスヒットを打たれないよう)、お互いにカバーし合え。第五に『決定が下ったら従い、命令は実行せよ』。大いに意見は言え、しかし一旦決定が下ったら兎や角言うな。そして儂がやれというたら来週やれということやないぞ、今すぐやれというとるんじゃ、ええか」


      佐々淳行「わが上司 後藤田正晴 決断するペシミスト」(後藤田五訓)



まさに米国トルーマン大統領のホワイトハウス執務室“オーヴァル・ルーム”のデスク上に置かれていたときく、「バック・ストップ・ヒア<責任逃れの終点>」という座右銘の生きた実例を目の辺りに見た思いがした。


(中略)


たった一人、この不作為による無責任のチェイン・リアクションの鎖の輪の一つが“国益”でも“公共の福祉”でも“社会正義”でもなんでもいい、少なくとも私利私欲、私益にかかわりのない公憤、破邪剣征の決断を下し、速やかに行動を起こす政治家がいさえすれば被害局限、名誉回復は可能なのだ。


             佐々淳行「わが上司 後藤田正晴 決断するペシミスト」


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上記、御厨教授のオーラルヒストリーに関しては実際後藤田氏とのやりとりについての対談 から一読あれかし。


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