キノの旅「世界はうつくしくなんかない そして それ故に 美しい」 | あざみの効用

あざみの効用

或いは共生新党残党が棲まう地

小学生(それも女子)に絶大な人気を誇る原作の既刊部分の中から、キノが主人公の話(先生、シズが主人公の話もある)をピックアップして原作に忠実に映像化した作品(廉価版もでているので是非お手許に)。音や文字、そして構成でもってその詩的でありながら、散文的な世界観を余すところ無く表現しています。この作品に触れた幼き可能性が将来どのように芽吹いていくのか、そのことに希望をもっていいと思っています。

キノの旅 -THE Beautiful World- 廉価版
監督;中村隆太郎(脚本家と合せて- serial experiments lain - のスタッフ)
原作;時雨沢恵一 脚本;村井さだゆき
キャラクターデザイン・総作監;須賀重行


話し自体は少女(キノ)と言葉を話すことができるバイク(エルメス)が、ひたすら旅を続ける中で人々と出会い、そして別れを繰り返していくという単調なものとなっている(キノが淡々と観察し、エルメスがボケとツッコミで彩を加える)。訪れるさまざまな国々(国というよりも村、都市の方がサイズとして近い)は、当然のことながら独自の文化(これも価値観、特定の思想に特化とした方が近い)を有している。最長で3日しか滞在というルールを課すキノという異邦者の目を通して、その文化をただ観察するだけ…。

国々は国として存立するのではなく、価値観、思想に奉仕するために存在している。それらは決して特異なものではない現代社会にも偏在するものであるため、日常生活において違和を感じなかったとしても、ある特定の思想に偏ったとき露わになる歪み(「何ものにも偏らないという」偏りの意義・歪みを鑑みる日も近い)を指摘するという現代批評といえばいいのかな?近代に欧米で流行ったツーリズムが、そのステータスや植民地経営とは別に、翻っての自国、現代社会批判の水脈に属していたのに近い(「ガリバー旅行記」「ロビンソンクルーソー」と同じ)。

そして更に一層この物語を魅力たらしめているのは、一歩踏み込んで旅=人生とする人生観をも提示できている点にある(第11話で直接語らせている)。その終着地までどこにも決して行き着かず、留まることも許されない過酷で不条理な道ゆき。意味があるのはただその道ゆきに美しい青空(もちろんこれが雨空でも同じこと)が晴れ渡っていたかどうか…。

『月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。』

                     松尾芭蕉「奥の細道」

第1話「人の痛みが分かる国」

キノたちの旅の始まり。一般的に旅に出るということはレジャーであり、未知の地、新たな出会いに理由も無く胸をときめかすようなものをイメージするかもしれないが、砂漠という殺伐とした状況から始める辺り(旅=人生とするならば尚更)に製作スタッフの原作に対する理解、解釈を示している。この旅=人生とする見方はその他のキノの旅についての考え方に当て嵌めるとより趣深くなる。旅に最終的に必要なのが運であるということ、同じ国に3日以上滞在しないというルールは、居着いたら旅人でなくなってしまうのが怖いからということ…。

人の気持ち、痛みを完璧に分かりあうことができれば幸せになれるのか(人格障害における思考伝播等の症状を思えばその結末は明らかだけど…)。


第2話「人を喰った話」

大好きな話なので是非とも何の先入観もなしに見て感じて欲しい一話です。人間だからこその業の深さ(業を感じるという点も含めて)を飾り気なしに表現するときっとこのような話にならざるをえないんでしょう。円らな兎の瞳と生に貪欲な狼を天秤にかける…それがそもそもおかしい。天秤にかけるという行為を選択したときから既に肩入れが始まっている。


第3話「予言の国」

ノストラダムスの大予言やら、毎日の占い(何度も繰り返すけれど血液型も同様だよ)に一喜一憂する現代人に想いを致すと全く登場人物を笑えない。

この話に挟まれる「伝統の国」の話が、全編に渡って登場する国を総て相対化、構造的に考察する視点を提供している。どのような国であろうとも文化、伝統は始めからあるのではなく創られていくものに過ぎないということ、他者の眼差し、評価を内在化するという皮肉なお話です。


第4話「大人の国」

キノの性別が少年でなく、少女であることが明らかになる話(思い起こすと第2話で指輪を貰って喜んでいるし)。キノがどこかに居着くことに恐怖を抱くに至った理由が明らかになります。

大人になるということは為政者、社会の存続にとって都合の良い人間として洗脳されるということ。ただ少年事件が起こるたびに連呼される「良い子」だったのに、学校や家庭で繰り返される「良い子」になりなさいという躾が何にとって「良い」ことなのかそのことは一度考える必要があると思います(そのことに疑問を抱けない人は幸いなりとでも言っておきましょう)。そのことに疑念を抱き、そして否定するのには社会の敵となる孤独を貫く覚悟を固めることが必要となります。その孤独の代償に得られるのは安全な城壁の中では決して見ることができない風景です。

未だに原作でも明らかになっていない謎なんですが、キノのもともとの名前が何であるのか~ひなげし?パンジー?名前をつけるという行為はつけた「もの」を支配すること「呪」であるということ、それが嫌ならば自分で自分に名前をつけて支配を取り返さなければいけない、きっとペンネームを用いること(Webのプロフィールでわけの分からない名前を名乗ること)、ひいては匿名を使うこと(裏返しとしての匿名を忌むこと)もその延長線上に関連するのでしょう。

702 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2005/06/29(水) 22:04:11 ID:huqontGO
さくら だろ?悪口は、「おくら」とか「ねくら」で確か人文字変えただけだったと思う それでからかわれたんだろ

703 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2005/06/29(水) 22:16:14 ID:mvjAWOIm
さくらじゃないだろ 「さくら」って単語が出たとき反応せずに その後「花の名前で~」で反応したから
何となく花の名前じゃなのに花っぽい「カリフラワー」とかw

704 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2005/06/29(水) 22:21:19 ID:7uj3rftS
まぁ少なくともサクラではないね。色も形も生え方もね。誰か草木に詳しい人は居ないんだろうか

705 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2005/06/29(水) 22:54:36 ID:kSJsT85l
わかった、芥子の花だ。

706 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2005/06/29(水) 22:55:23 ID:nAq+NXdj
一つ聞くが、茄子の花

707 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2005/06/30(木) 00:19:03 ID:eQnfv6mT
たんぽぽであだ名はタンポン。

708 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2005/06/30(木) 00:27:01 ID:ifiYJgTW
>>707
悪口っつーよりセクハラw しかもガキが吐くような悪口か?

709 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2005/06/30(木) 00:52:39 ID:RcT9KZpe
タンポポ紅くないだろ

711 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2005/06/30(木) 11:12:54 ID:eQnfv6mT
紅い花ってことならパンジーであだ名はパンツで決まりだな。

767 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2005/07/09(土) 09:11:53 ID:edgpC+B5
がいしゅつだと思うけどキノの名前はハイビスカス 悪口はハゲブスカス


第5話「レールの上の三人の話」

この話では仕事=旅=人生であることを表現している。意味がある行為とは何によって担保されるのか、この話では2つ解を用意している(そしてその解が馬鹿げているとか、正誤そのものをも無効化する)。公平性を担保するという外部からの評価の基準(意味そのものを問わない)、そしてもう一つはそのような疑問自体を抱かないということ。どちらも意味それ自体を問わないという点で同様だ。意味を担保するシステムを明示化しつつ、意味自体を問わない、それはこの物語全体に解が埋め込まれているから(だからこそキノに疑問がぶつけられる)。システムを戯画化し、続いてキノ(感情移入する視聴者)に転化することで足元がぐらぐらと揺らぐことを感じることでしょう。

「多数決の国」は人生=旅であることを選択=道のりであることを視覚化している。


第6・7話「コロシアム」前編・後編

どうして夫を殺された妻がキノにとても素晴らしい国でした、ぜひ訪れるべきだったと言ったのか、夫の文字通り命を賭けた愛を知ったから?自分の不幸を他者(キノ)にもあじあわせようという底意地の悪い考えから?今まで傍観者に徹してきたキノが今回、当事者として国の在り方に大きく関わる選択をしたのは、その解が知りたかったからであることは作中で語られている。ただその確固とした回答を得ることを放棄して、無責任な傍観者を当事者の位置に引き摺り下ろし帳消しにすること、キノの選択はそれまでの純粋な旅人(観客)の位置に思いを馳せる(あるいは第2話の生命を奪うことの責任と)と楽しい。


第8話「魔法使いの国」
絵コンテ;佐藤卓也
作監;宮田保奈美・渡部高志

今までの話とは全く毛並みの違う皮肉のない、純粋に夢を実現させるという美しい話(それだけにあまり好きではない)。


第9話「本の国」
絵コンテ;佐藤卓也

本好き(或いはこのようなことをしている自分)には痛~い、痛~いお話、そしてそれが極上の快楽を呼び起こします。もともと原作が小説である作中で、小説を題材としてそれこそ小説のような話を展開し、その小説のような話をも客観的(それも主観に過ぎない事も明らかにされている)に評価、コントロールするという人たちをも、最終的には評価するという幾重ものメタ構造でもって惑わすというその筋の人たちには琴線触れまくりの作品です。

「虚構と現実の区別のつかない」の陳腐な言い回しを、逆手に取った内容に白旗です。世界の総てを書き記した本はその言い方からして間違っている。書き記すという未来への可能性でしかありえないということ(例えラプラスの魔でもね)。


第10話「機械人形の話」

人をいがみ合いから開放されるようにとした研究の没頭、そのために犠牲にした家族との幸せな時間。研究を用いて幸せな時間を取り戻した幸せ…傍目から見ると悲惨に過ぎなくても本人は幸せだったのでしょう。誰かの為にという生き方を無条件に肯定しない、むしろ突き放す結末に覚える後味の悪さは格別です(共感を覚えるけれど)。


第11話「彼女の旅」
絵コンテ;中村隆太郎・佐藤卓也

旅=人生であることを冒頭で明確にした上で、旅(=人生)で一番大切なことは、命を無くさないことという分かりやすい教訓を巡る短編集。一生をかけて償うせるということ=命を奪うこと、そしてそれをも忘れるために旅にでるという皮肉。あまりにも高邁な平和主義の理想と、それを裏打ちしている圧倒的な武力という現実の皮肉。世界で唯一本当の言葉、本当の青い空、そんなものはないという解…旅を続けた果てに得られるものは何も無い(それは自意識をなくそうがなくすまいが気付いたとき分かること)、だから予めそれを受容した上で旅にでるしかないという結論。


第12話「平和な国」

究極的に平和を作り出す術、それは安全な絶対に反撃してこないスケープゴートを定めることという身も蓋もない現実を突きつけるお話。見終わったとき平和とは誰にとっての平和なのか、またその平和の輪の内に含まれるようにその輪を拡大することは何によって可能になりうるかを考えざるをえなくなる(先日のNHK特集「アメリカ0年」のダルフール問題など端的に…ね)。これこそ本当の「大人の国」のお話(第4話ではなくて)とも言える、キノの言説こそが綺麗ごとに過ぎないことが代替案一つ提示できないという場面に集約される。個人的な恩讐を呑み込んで、その倫理的な問題も自覚した上で呑み込んで…色々と苦い感情を呑み込んだ上で判断するというその重さ。大人になるとは社会に都合のいいように洗脳されることではなくて、色々なものを酸いも甘いも噛分けた上で責任(罪を罪と自覚できること)をもって決断することと分かります(たとえその決断が血塗られていたとしても)。


第13話「優しい国」
絵コンテ;佐藤卓也・わだへいさく・中村隆太郎

キノが3日以上滞在したいと初めて思った国のお話(その国に永住しても構わないと思ったということ)。過去の自分と重ね合わせた娘が最終的に選んだ重く、悲しく、そして泣きたくなる叙情的な結論(キノと同様の選択可能な立場に置かれたときに両親との関係という相違がもたらした差…)、そして旅を終わらせるという選択。


限定版DVD付きビジュアルノベル「何かをするために―life goes on―」
監督・絵コンテ;渡部高志
脚本;村井さだゆき

楽しみにしていただけに監督名を見たときに、当時放映していた「スターシップオペレーターズ」が思い浮かんで恐怖に慄いたことは秘密です。実際にはテレビシリーズの雰囲気をそのまま維持しているので…ただ1話だけで30分というのはやっぱり物足りない(ほとんどが日常シーンの描写に終始しているし)。

お話はキノの最初の旅、第4話の続編とでもいうべきお話。キノと師匠の間には擬似親子関係ともいうべき純粋な信頼関係があるかのように思わせて、同時に大人の関係でもありえている(信頼関係はそれで損なわれない)というもの。


175 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:05/03/15 14:57:31 ID:3YkxWfTP
話はあっても制作費はないとか、夢のない話ならあるよ

182 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:05/03/16 23:50:24 ID:81KnaO5E
>>181
いやおもしろいのよ、アニメもさ。でも、アニメとして「売れる」内容かというと微妙かなあ、と。今時の売れ筋アニメとは、何ていうか傾向が著しくズレているからね。おれはlainとか灰羽も好きでおもしろいと思うけど、それらが売れ筋だったか、実際売れたかというと…(lainはそこそこだったのかな、 リアルタイム視聴じゃないから知らないんだけど) 端的に言えば、マイナー路線アニメかなと。

183 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:05/03/17 00:18:26 ID:45qFg59V
>>182
売れる/売れないというか作品/商品という比較をしたら間違いなく作品に分類されるよね。「人を食った話」や「本の国」とかモロ漏れ好みなんだけど、明らかに視聴者を選んじゃうし。作品のスジにはあんまり関係ないけど、キノの声はすげーナチュラルで良かった

184 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:05/03/17 00:37:35 ID:WKmAaING
>>183
あーそういう分け方でいいかも、分かりやすいし。おれとは少し表現方法が違うけど(作品とか商品とかの定義が違うのかな)内容的には多分同じだと思うので。確かに視聴者は激しく選ぶだろうね。社会や世界に対するニヒリズムに溢れてるし(笑)

185 名前:182 投稿日:05/03/17 00:47:44 ID:WKmAaING
184は182です・・・分かると思いますが念のため。少し考えたけど売れる「作品」もあるし、売れない「商品」もあるということに気付いた。売れないアニメ「商品」の例は、危険なので割愛しますが(笑)まあ、そこそこしか売れないだろうアニメ「作品」だから、そこそこの金しか投資してもらえなかったんだろうな。投資する会社は、商売だからね。見返りが少ない物には、金をかけないよね。

186 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:05/03/17 10:39:09 ID:mKkIva3A
結局>>175に行き着く訳だ・・・


余談

ゲームキノの旅 -the Beautiful World- もデジタルノベルとして考えれば充分お勧めです。とりわけ「店の話」で店の店主を若本規夫があてておりそれだけで廉価版ならば元がとれます(「やさしい国」もアニメより余韻という点ではいいかも)。

頼逞byMETHIEさま さまで書かれていた「ムシキング」と「キノの旅」が似ているというものに対して、「ムシキング」では主人公のポポが訪れる村に積極的に関わろうとするが、所詮は旅人という余所者の限界を痛感して去っていく構造なのに対して、「キノの旅」ではキノは国の人に例え関わりを求められても、自分自身が旅人という束の間の滞在者に過ぎないということから拒絶し、良いも悪いも無くただ観察するのみという点に大きな違いがあるのではないかと記したことがあります。そしてこれは大人と子どもの差とも言い換え可能かもしれません。

※以前記した旅についてのエセ-旅とは愚者の楽園

『空はどこに行っても青いということを知るために、世界をまわってみる必要はない。』

                     ゲーテ「格言と反省」