>『超高齢社会で介護を維持していくためには何かを犠牲にしなければならない時代がすぐそこまできています。構造改革はやりの昨今、企業は不要になった部門を切り捨て、効率アップを余儀なくされています。情やしがらみで成績の悪い部署や職員を温存していたのでは全体の体力が落ちて倒産してしまいます。「Aケア」を身体のリストラと考えることはできないでしょうか。』
久坂部羊「廃用身」
>『日本の超高齢社会はなぜ発生したかおわかりですか。医療が無軌道に進歩したからですよ。医者には病気を治して命をのばすという単純な発想しかなかった。その結果、高齢者が増えすぎて介護危機、年金破綻、老人の医療費問題、世代間のいがみ合いなどを生み出したのです。医療は進歩さえすればいいというあさはかな発想、唾棄すべき長寿礼賛の結果です。このまま老人が増えれば日本は国を維持できなくなります。なのに医者どもは今も漫然と寿命をのばしつづけている。』
久坂部羊「破裂」
冒頭からなんて物騒な文章、第三帝国的なものを抜いているんだと思われるでしょうか?(「Aケア」が何を指しているかはぜひとも「廃用身」を読んでください!)確かに私もなんて危険な思想なんだと最初はそのように思いました…そして実際に危険な思想な「はず」なんです。しかし、そう簡単に切り捨てようとしても、いつまでもざらっとした感触が脳裏にこびりついて、考えれば考えるほどにその「正論」さに頷かざるをえなくなっていく私が今此処にいます。
要は、
>『介護も医療も資源です。無尽蔵にあるわけではない。老人や病人が増えすぎて、今や需要と供給のバランスは完全に崩れています。にもかかわらず需要を抑えようとする気配がまるでない。』
久坂部羊「日本人の死に時」
ということなんです(この辺りはもはやお馴染みの問題意識ですか?)。
それに対して、イエスなんかのように「羊飼いが羊を百匹を飼っているとして、そのうちのたとえ一匹でもはぐれてしまったら、その人は九十九匹を野原に残して、はぐれてしまった一匹を見つけるまで捜し歩かないでしょうか(反語)」(ルカの福音書)のような綺麗ごとをぶったとしても、その一匹を助けようとしている間に九十九匹も迷って結果的に羊は全滅しちゃいますねーということです。久坂部先生は指摘していませんが、他の現実的な選択肢は介護現場への移民導入しかないはずです。それも「体感」治安悪化とやらで拒み、これだけ若年層を言われなきレッテル貼りでバッシングし、都合よく搾取し続けるならば、まさに2、30年後をお楽しみに♪としかいいようがなくなってきます(…まあ、きっと都合いい理屈をつけて移民受け入れとなると思いますが)。
先に、真っ白に燃え尽きた巨塔~何人もその能力以上に義務を負わず~
で久坂部羊先生を大絶賛させていただきました。そのときはマスコミの針小棒大、数字の読めない進軍ラッパが医局を解体し、それが現在の小児科医、産科医現象、地域医療を崩壊させているという、局所最適全体最悪(局所最適も単なる正義感の充足程度…余談ですがきっと天下り全面廃止も同じことを招きそうな悪寒)を招いているというものでしたが、久坂部先生がもっとも訴えたかったのは、痛切な悲壮感を抱いていらっしゃったのは少子高齢化問題でした。
そのことを医者側の視点、患者側の視点、そして国家側の視点といった形で描いているのが↑で引用させていただいている各書籍となっています。それが小説だろうが、ノンフィクションだろうが言わんとしていることはまったく同じです。そしてマスゴミが抵抗勢力というか、立ち塞がっているのもまったく同様。いかに毒があろうがなんだろうが久坂部先生の示している処方箋(患者側、介護側、国家側)を総て否定するならば、せめて移民導入のような具体的代替案を提示するべきでしょう。少子高齢化はまさに今、そこにある危機の筆頭なのですから(そして逆に言えばこの団塊世代の高齢化さえ乗り切れば特にほかに問題ないでしょう)。
レジデント初期研修用資料さま「癌の人がこれから困るかも」
に描かれているようなある種の地獄絵図がこれからそこかしこで拝めることになるのでしょうね…。
とりあえず、「日本人の死に時―そんなに長生きしたいですか」久坂部 羊 (著)
は前著と違ってタイトルも内容にあった適切なものですし、とても読みやすい一冊なのでお勧めいたします。そのうえでこれは!と思われたなら「廃用身」「破裂」などの小説も読まれるべきです。
以下 医療関連ニュース寄せ集め
地域医療に役割分担・厚労省が指針案
>厚生労働省は13日、地方自治体向けに地域医療の指針案をまとめた。夜間や土日なども含めた24時間の医療体制を整備するため、大病院は入院治療と専門的な外来に集中。診療所は時間外診療や往診に軸足を置くなど、地域で医療機関ごとに役割分担をするよう求めた。来週中に各自治体の医療関連政策の担当者に示す予定だ。(日経新聞 4.14)
まだ医者に働けと「医者の不養生」に違った意味が加味されそうですね(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
参考;http://newmoon1.bblog.jp/entry/365858/
(小児科医の自殺…)
小児科や産科の病院統合、都道府県の8割「必要」・厚労省調査
>厚生労働省は都道府県に対して小児科と産科の病院統合に関して調査し、10日に開いた地域医療支援中央会議で報告した。医師不足対策として複数の小児科病院を統合させることが「必要」と答えた都道府県(県内の医療圏含む)は24、「検討中」は18で、合計で8割強に達した。産科は統合が「必要」と「検討中」を合わせて8割弱だった。
>小児科医や産科医は、地方の過疎地で不足が深刻になっている。複数の病院を集約して、地域医療の効率化を検討する都道府県が増えていることが浮き彫りになった。北海道や福島、山口県などは小児科・産科の両方で病院統合が「必要」と答えた。 [2007年4月11日/日本経済新聞]
だからなぜ医療が崩壊したのか、その原因を追究しろよ…。
毎ゴミ新聞4月11日社説:終末医療指針 手続きだけでは不十分だ
>厚労省はこれまでも終末期医療を検討してきたが、指針作りは行わなかった。今回の指針策定の背景にあるのは、富山県射水市民病院で外科医が複数の末期患者の人工呼吸器をはずした事件だ。
>今回の指針は、終末期医療を進めるにあたり、患者本人の意思決定を基本とした。本人同意はどのような医療でも当然のことだ。患者の意思がわからない場合に家族が患者の意思を推定できる場合もあるだろう。意思決定にあたって、医師らが十分な情報を提供することは、いうまでもない。指針は、人工呼吸器の着脱をどうするかといった延命治療の判断は、複数の職種からなる「医療・ケアチーム」が判断することとしている。これも、医師の独断を防ぐことにつながるはずだ。
要は安楽死を認め「うる」場合の条件(東海大事件など)の流用ですね。
>だが、いずれにしても、指針は終末期医療の方針を決める「プロセス(手順)」を示したに過ぎない。延命治療中止の条件などに踏み込んでいないので、「現場での運用は難しい」との声もある。さらに検討を進める必要があるが、延命中止の条件を細かく定義することによって、医師が事務的な判断に陥ることは避けなくてはならない。
この一段落から以降意味不明、まさに意味のない戯言の類。記事のタイトルはプロセスだけでは不十分としているのに、条件に踏み込むのも危険とか…いったいこの記者の意見は奈辺?そもそもプロセスを踏むことがそのまま条件になっていると思うんですが(それとも積極的に安楽死まで推進する覚悟をもっての記事なんでしょうか?)。
兵庫医大病院、臨床研修医9人が違法アルバイト
>新しい臨床研修制度は、患者の診療に従事しようとする医師に免許取得後、2年間の研修を義務付けた。その間は研修に専念するよう、医師法で義務付けることでアルバイトを禁止する一方、研修医に月30万円程度の収入を保障するため、研修先病院への国の補助金を増額した。9人の多くは「研修修了後に入る予定だった兵庫医大病院の医局の上司から頼まれた」と話したが、兵庫医大病院は依頼者を特定せず、アルバイト先での診療の有無も確認しないまま、調査を打ち切った。アルバイトは病院との雇用契約に反するが、医師法の規定に罰則はなく、9人は口頭注意を受けただけで、昨年3月に研修を修了した。
■新医師臨床研修制度■ かつての大学病院中心の臨床研修は義務でなかったうえ、内容が専門分野に偏り、研修医は劣悪な待遇でアルバイトに追われていた。新制度は基本的な診療能力の習得を重視し、内科、外科、救急・麻酔科、小児科、産婦人科、精神科、地域保健・医療の7分野を必修にした。研修医は現在、約1万5000人。主な研修先は一般病院が過半数になり、大学病院と逆転した。(2007年4月15日 読売新聞)
(*゚∀゚)っ「大学病院のウラは墓場」(新研修制度の問題点についてもきちんと記されています)
>『今や早死にの危険は減ったけれど、長生きの危険が高まっているといえます。いったん胃ろうや人工呼吸器をつけると簡単にははずせません。はずすと死に直結するのでだれも手を下せないのです。こんなにまでして生きたくない、そう思っても手遅れというわけです。』
久坂部羊「日本人の死に時」
- ゆーきさん、おはようございます。
>誰も思わない日本社会のほうが既に終わってる
まさに久坂部先生の問題意識と一致していると思います。医者も人間なんだという部分がすっぽり抜け落ちて、医者=高収入、いいかげんな仕事=国民のために働け!みたいな安直な現場を知らないイメージが蔓延っていることが元凶かと。
疲労困憊させればそれだけ医療事故も増えるだろうし、そもそも優秀な人材が医者にならなくなると思うんですけれどね。もっと悲惨な事例があるから…みたいな下をみた標準化ではなくて、最低レベルを底上げしていく発想がない。
同じような話でかの天下り禁止法だって俗情に媚びているだけでねー単に談合に対する刑罰を重くすれば防げると思いません? - commented by 遊鬱◆jnhN514s
- posted at 2007/04/20 11:16
- 私が受験生のころ(まだ10年もたってない)は「医者余り」とかいわれて医学部の定数削減が叫ばれていたのですが・・・
時代は変わるもの、というより朝令暮改というやつでしょうね。
医者に夜間に診療させるって、体調のおかしいときぐらいせめて半日か一日ぐらい休めない社会のほうがおかしいのではないか、ということを誰も思わない日本社会のほうが既に終わってるといったほうが正解じゃないですかね。国民の労働時間行政も厚生労働省管轄でしょう。
この政策がとられたのは「昼間休む暇がないから夜開けるようにしろ」という”国民のニーズ”に配慮した結果なんでしょうが、国民全体で地獄まで突き進むつもりですかね、日本は。 - commented by ゆーき
- posted at 2007/04/19 01:11
- はたひらさん、こんばんわ。
>外資の医療保険導入キャンペーン
日本の皆(ということになってる…)健康保険制度は、邪魔になっているみたいな話はちらほら聞きますけど、陰謀論と紙一重ですから微妙ですよね(単に財政再建の視点から日本政府がやめたいだけの可能性もなきにしもあらずだと思うし)。
教えていただいたニュースですが「破裂」を読んだ後だとまさにヒィー(((゚Д゚)))ガタガタ 国民のためというような綺麗ごとで体裁を繕っていますが、ようはそのつけを「予算」でもってシビリアンコントロールしてつけまわしているだけ…。まあ、そんな弥縫策を講じるしかないのでしょうが、そのうち医者という職業自体が忌避されるという中長期的にはより最悪の事態を招くだけのことなのに。 - commented by 遊鬱◆jnhN514s
- posted at 2007/04/18 01:18
- nobさん、こんばんわ。
視点論点は以前紹介させていただいた「欲ばり過ぎるニッポンの教育」苅谷 剛彦(著)の内容をハイライトでわかりやすく繋いだ感じでしたね、やっぱり苅谷先生は素敵!
>欲張り過ぎて、医者と患者が共倒れにならなければいいのですが…
このままだとなるというか、それが嫌で小児科医や産科医の成り手がいなくなったんですけど、マスゴミはおのれらがしたことは知らんぷりです。なんで誉めるべき点は誉めないのか、ぎゃーぎゃー喚いて責めるだけなら幼児にでもできますよ。
教えていただいたニュースですが、
>2004年に国が新しい臨床研修制度を導入してから、研修医の過労自殺が明らかになるのは初めて。
>父親が給与明細などで調べたところ、1週間の平均労働時間は、法定労働時間(週40時間)を大幅に超える72・8時間で、夜間や休日の当直は多い時で月に10回、1年間で計77回に上っていた。
●労働「時間」だけをさして自分たちのほうが悲惨だ自慢みたいなことも可能かもしれませんが…医者が強いられる労働環境「命を預かっている」というある種の極限状況ということを考えると単純比較にならないですよね。
>新人医師の研修は従来、主に出身大学の医局で行われていたが、少ない給料で雑務や診療に追われ、1998年に関西医大病院(大阪府守口市)で研修医が過労死したほか、00年には横浜市大病院でも研修医が過労自殺するなど過酷な労働環境が問題化。
●もはやお金というより、端的に人手不足の問題でしょうね、きっと…合掌。 - commented by 遊鬱◆jnhN514s
- posted at 2007/04/18 01:07
- 今度は開業医を重点的に苛めることにしたようです。
医者を悪者に仕立て上げるキャンペーンは外資の医療保険導入キャンペーンだと思っていたんですけど、こうなってくるともう何がしたいのか良くわかんないですね。
http://www.asahi.com/politics/update/0414/TKY200704130408.htm
一方、「夜間や休日などの治療に不安がある」とする患者のニーズに
対応するため、開業医の果たすべき役割として(1)休日夜間急患センタ
ーに交代で参加する(2)時間外でも携帯電話で連絡がとれる(3)
午前中は外来、午後は往診・訪問診療という経営モデルをつくる、などを挙げた。
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20070322k0000m040113000c.html
「<勤務医負担軽減策>初・再診料下げて夜間厚遇 開業医 [ 03月22日 03時00分 ]
厚生労働省は21日、勤務医の負担軽減策として、開業医の診療報酬については、
外来患者を時間外に診療した場合の加算を手厚くする代わりに初・再診料を引き下
げ、夜間や休日に診療をしないと高収益を望めない体系に改める方針を固めた。現
在、患者は大病院に集中し、病院勤務医が疲弊して開業医に転じるため、勤務医不
足が深刻化しているが、地域の診療所の夜間診療を促進し、この現状を改善するの
が狙い。08年度の診療報酬改定で実現させる考えだ。
政府は06年度改定で、初診料については診療所(ベッド数19床以下)を引き
下げる一方、病院(同20床以上)は引き上げ、双方270点(1点10円)に統
一した。また、24時間往診可能な診療所を「在宅療養支援診療所」とし、報酬を
手厚くした。時間外診療における開業医の役割を高め、病院との役割分担・連携を
強化することが、導入の狙いだった。
しかし、同診療所は医師らの負担が重く、届け出数は約9300カ所と全診療所
の1割にとどまっている。また再診料は病院57点に対し、診療所71点と高く、
厚労省は「依然開業医は夜間働かなくとも高収益となる報酬体系になっている」
(幹部)ことも、診療所の夜間開業が広まらない原因とみている。
そこで厚労省は08年度の診療報酬改定で、診療所の初・再診料を引き下げて
財源を生み出し、夜間など時間外加算を充実させることにした。平日の初診で午
後10時までの診療に85点を加算するなどしている現行報酬を大幅にアップす
る代わり、再診料を中心にカットする意向だ。収入面で後押しし、開業医に夜間
診療をしてもらうことで、患者が大病院の救急病棟に詰めかける現状を改める考
え。その一方で、ビルにテナントで入り、定時診療しかしない「サラリーマン開
業医」の収入を抑える狙いもある。
診療報酬の具体的な増減幅は今秋、中央社会保険医療協議会(中医協)で議論
する。ただ、日本医師会などは慎重審議を求めるとみられ、初・再診料の下げ幅
を巡る議論は難航する可能性もある。」
- commented by はたひら◆lIiivMuQ
- posted at 2007/04/17 17:31
- 遊鬱さん、こんにちは。
医者は本当に大変な仕事ですよね…
「体調良くならぬ」70歳患者に刺され医師重傷…神戸
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070415i518.htm
女性研修医の過労自殺、労基署が労災認定…日大付属病院
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20070417ik05.htm
後藤さんが見つけてくれたブログの苅谷教授の言葉、「教育は魔法の杖ではない」は医療にも当てはまるような気がします。
欲張り過ぎて、医者と患者が共倒れにならなければいいのですが… - commented by nob
- posted at 2007/04/17 15:04