ある大部屋(九人部屋)。八人は寝たきりでほぼ意思疎通できない状態の患者さん。テレビが見られるわけでもなく、ちょっとでも刺激をと考えたレクレーション係の介護さん。昭和歌謡をいくつかチョイスしてCDに焼いたものをBGMとしてその病室では流されている。
私が生まれる前の曲もあるが、誰でも知っているような懐かしい歌謡曲がその部屋では流されている。
偶然か、その部屋に入るといつも春日八郎の『お富さん』が流れている。
「粋な黒塀見越しの松に~♪」
明るい曲調でウキウキする。しかし、考えてみたら切られ与三郎のお話しだよね。そんなにウキウキしたお話しではないよね。
地元の親分の妾だったお富。その彼女に一目ぼれした与三郎。その情事のために与三郎は親分の子分たちに滅多斬りにされてしまう。お富はその現場から逃げはしたものの追い詰められて入水自殺を図った。
普通だったら二人は死んでいる。が・・・それぞれ命を取り留めた。お富は助けてくれた人の妾となる。与三郎は親から勘当されごろつきに。そして三年後に偶然再会する二人・・・。そんなストーリーに複雑な人間関係などが加わり、なかなか人気な歌舞伎の演目(ストーリーやや自信なし)ですよね。
歌詞をよくよく聞けば
「死んだはずだよお富さん、生きているとは御釈迦様でも知らぬ仏のお富さん」だものね。
生死の狭間にいらっしゃる患者さんのお部屋には、あまり相応しくない歌詞だなぁと思いつつ、明るい曲調に気分よく仕事をしている自分もいる。聞いている患者さんもきっと歌詞の事なんて考えないで、この曲調に楽しい気分になっているのかもですね。
昭和の空間。何気に懐かしくて・・・。私でもそう思うのですから、貧しかった昭和から高度成長する昭和と共に生きてこられた方々ですからね。きっと懐かしく、元気な気分になるんでしょうね。