小鼓を習っていてよかった | fuyusunのfree time

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長唄などの邦楽をこよなく愛する看護師のfuyusunです。
ナースの仮面を脱いだ、fuyusunの日常を綴っています。

先日、fbではお話しした事ですが、
癌疼痛コントロールしている患者さんがいらっしゃいます。
何か今一つ麻薬のコントロールが付いていなくて、お気の毒な感じ。
疼痛コントロールの理想は痛みがなく、残された人生を楽しく過ごすことができる事。
しかし、この理想は難しい事で、結局痛みを我慢させる結果となったとか、逆に麻薬が効きすぎて大切な残りの人生をベッド上でウトウトと寝てしまい何もできないで人生に幕を閉じてしまう不幸な事例もある。
ぜひこの患者さんには、一日中笑顔でいらしていただきたい。そう思いながら看護にあたっています。

基本は麻薬の貼付剤を土台に、突出痛に対してレスキュー(いわゆる頓服)と言われる短時間で効果を得られる痛み止めを使用してコントロールしていきます。
大分前より緩和ケアに興味あって勉強してきましたが、最近はかなり怠けていました。
そのために日進月歩の医学のスピードにお手上げ。
レスキューに使う薬も種類が増えている。
最近では舌下錠なるものもあって、けっこう速攻で効果が得られる。すごいですね。

さて、ちょっと前の夜勤の事です。
この患者さんは、レスキューとして舌下錠を使用しています。という事で希望通り舌下錠を予約。
麻薬は厳しい管理が必要です。薬を無くすなんてもっての他。「患者さんが吐き出しちゃいました」なんて理由にならない。
舌下錠が溶けるまでけっこうな時間がかかります。約二分。ずっと患者さんのそばについていなければなりません。
けっこうお話し好きな患者さん。
「趣味は?」なんていう話に発展。「小鼓です」と言うと驚愕した患者さん。
どうも七歳の頃からお嫁に行くまで日舞をされていたそうです。ですから、小鼓=お囃子を習っている人とすぐに通じました。
「歌舞伎に出たことがあるの」とか、その方の懐かしいお話しを伺ったり、
「お名前を持っているの?」「お弟子さんは?」色々な話に発展しました。
仕事中なので、ここでドボーンするわけにはいかないので、話に切りを付けちゃいましたが・・・。
夜が明けて、痛みの度合いを伺ったら
「小鼓を打つ人に実際にお目にかかったのは初めて。本当に吃驚して痛みが飛んじゃったわ」と笑顔。
普段は痛みの度合いを「2/5」と仰れば、痛みを自制できていると判断する。「1/5」なんて仰った事がないのに・・・。
「今は1/5よ。本当に信じられない」と。

この話には続きがあります。夜勤明けの翌日は休み。が、そんな事患者さんは知らない。
翌日、顔だちはぜんぜん違うのですが、私と似た背格好の介護士に「小鼓をやっている人?」「冬雪さん?」と・・・。彼女は私の趣味を知っていたので、すぐに私と感じたそうです。
でも、私ではないので「違いますよ」と答えたそうで。
・・・何かそういう人に出会った夢を見た気がする・・・。と話されたそうです。
いやいや・・・夢じゃないのですが・・・。

そして、その翌日に受け持ちで訪室したんですが・・・。
どうも夢の中の人と思っている患者さん。私と小鼓がつながらない。
が、その翌日
「もしかして小鼓の人?」と「冬雪さん?」
私と小鼓がつながって非常に嬉しそうでした。
「私ね、小鼓という楽器にあこがれていて、ずっと習いたいと思っていたのよね。結局、習う事ができなかったのだけれど・・・」
そうか、彼女にとって小鼓は特別な思いのあるものだったんですね。
「あなたがどんな音を奏でるか想像して楽しんでいるの。こんな着物を着て演奏しているとかね」
そんなお話しをされる時は痛みがどこかに行ってしまったような安らいだ表情。
何か、この患者さんの安らぎに少しでも役に立っているみたい。
小鼓やっていてよかったなぁと思いました。

そうそう、あれから患者さんには「ポンポンちゃん」と呼ばれています。
はははっ♪