藤舎流囃子研究会に行く@国立劇場 | fuyusunのfree time

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長唄などの邦楽をこよなく愛する看護師のfuyusunです。
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昨日は国立劇場に藤舎流囃子研究会へ行って来ました。

二年に一度のお楽しみです。

お囃子の藤舎流の演奏家の先生方の演奏会。素晴らしい演奏を拝聴させていただくだけではなく、秘曲・稀曲と呼ばれる部類の演奏を拝聴できる。お得感満載の演奏会なのです。


今年は、藤舎流縁の曲である七曲が演奏されました。

まずは回り舞台を使ってメロデー形式で四世藤舎呂船氏の作調した五曲が一気に演奏されました。

そして、初代藤舎呂船氏が作曲において大きく関わりを持った『船弁慶』。そして、今藤流に伝承されている『三重霞傀儡師』。この曲は本来は富本というジャンルと長唄の掛け合いの作品だそうです。その曲を今藤政太郎氏が補曲し、清元美治郎氏が編曲。六世藤舎呂船(現家元)が作調し、清元と長唄の掛け合いとしてリメイクされたものが大トリに演奏されました。


【四世藤舎呂船縁の五曲】

四世藤舎呂船という方は現在の藤舎流を作られた方です。

初代藤舎呂船(本当は芦船と書く)という方は能囃子の太鼓方をされていた方だそうです。

能役者である日吉吉左衛門が新しい可能性を求めて、二世杵屋勝三郎などと今様能・吾妻狂言という歌舞伎と能をミックスしたような新しいパフォーマンスを作り上げた。その活動に初代藤舎呂船氏は大きく関わったそうです。

その後、二弦琴の流派の家元となり、藤舎流は二弦琴のお家という感じに変身。

昭和27年に九世望月太左衛門の門弟であった二世望月太意次郎が二弦琴とは別派として囃子方としての藤舎流を再興。四世藤舎呂船を名乗り現在の囃子方藤舎流を築いたというわけだそうです。

以前、そのような事を勉強した覚えがあります。

そうそう、何年か前に参加したイベントで、二弦琴の御一統様もいらっしゃっていた事が。その時に皆様 「藤舎〇○」と名乗られていて吃驚したのですね。それで不思議に思って調べたというわけです。

長々と薀蓄言っていないで本題ですね。


『松の翁』

唄    今藤尚之・松永忠次郎・今藤政之祐

三味線 松永忠五郎・松永忠一郎・松永直矢

笛    藤舎伝生

小鼓  藤舎呂英・藤舎呂凰


この曲は綺麗な曲でとっても大好きな曲です。

真ん中の合方の打ち合わせの手附けは本当に素晴らしく大好きです。

この曲にはぜんぜん違う手組がついていたらしいです。

でも、四世がこの手組を発表してからは、こちらの方がメインになったとか。

昔の手組がどんな感じのものだったか、ぜんぜん想像できないのですが、幻想的で透明感のある今の手組のこの曲がとっても好きです。

小鼓のお二人の演奏を拝聴して、強弱の付け方や演出等々とても勉強になりました。

そういえば、この曲は静岡の名士である松永家の主を「翁」に見立てて作られた曲。

たぶん、その松永さんとは関係ないと思いますが・・・。だから三味線に松永派の方々にお願いしたのかな。深い洒落た演出だったのでは。そう思うと益々感動♪


『猩々意想曲』

笛   藤舎理生

小鼓  藤舎千穂・藤舎清穂

大皮  藤舎花帆

太鼓  藤舎朱音


以前、望月晴美氏のリサイタルでこの曲を拝聴した事がある。迫力あってカッコいい♪

お囃子だけで繰り広げる幻想的な世界。

呑兵衛の私は猩々という幻獣がとっても大好きで、猩々が主題になっている曲がこの上無く好きです。

男性社会であるお囃子の世界で、一線級でご活躍している女流演奏家の先生方。さすがです。一見力弱い大和撫子。しかし、どこにそのパワーがあるのか。その迫力がズッシリ伝わってきました。

笛と打ち物だけで、こんなにも幻想の世界を広げる事ができるのですね。

本日、お楽しみの一曲でしたが、期待通り♪


『越後獅子』

唄    杵屋利光・杵屋弥一郎・杵屋利次郎

三味線 今藤美治郎・今藤政十郎・柏要二郎

笛    藤舎貴生

小鼓  藤舎円秀・藤舎艘秀

大皮  藤舎呂裕

太鼓  藤舎呂雪


この曲の晒の合方は藤舎流独自のものがある。

初めてこの曲をお稽古した時、本当にびっくらこきました。しかし、三味線との微妙な絡みとか素敵なんですよね。

師匠の太鼓地はとっても姿が美しく勉強になりました。

太鼓は打つことも呼吸も大切ですが、フォームも負けずに大切な事なのです。

師匠そっくりを目指しているのですが、なかなかあの美しいフォームを自分の物にするのは難しい事です。こうして舞台を沢山拝見して、師匠のフォームを目に焼き付けて帰宅。そして、鏡の前でああでもないこうでもないと研究しているのですが。。。未だ全然似ていません。

時々、コロッケに成りたいと思いますね。本当に物まねが下手です。


清元『幻椀久』

浄瑠璃 清元美寿太夫・清元志寿太夫・清元一太夫

三味線 清元美治郎・清元菊輔・清元延美雪

笛    藤舎秀啓

小鼓   藤舎華鳳


長唄を聴いてすぐに清元を聴くと曲想もあるが非常に三味線のインパクトが薄い気がする。

細棹と中棹の音質の違いですね。

でも、私はどちらかというと、柔らかい音色の中棹のジャンルの曲がとても心地よい音楽として感じる。

清元美治郎氏は舞踊会などでよくご活躍なさっている演奏者。この方の清元の三味線が大好きだ。音色に色気があり心地よい清元ワールドを展開してくれる。

この曲は大正十四年に東おどりで初演されたものだそうです。東おどりは新橋の芸者さんたちの催しですよね。そういったイベント要素の強い会での出し物でも、こうして時代を生き残っていくような作品が生まれるものなのですね。凄いなぁと思いました。

東おどりですから、当然の如くこの曲は踊りの地のために作られた曲。

普通は蔭囃子も加え四拍子でというのがノーマルな考え方なのですが、この曲は笛と小鼓一調だけ。ここが当時としては斬新な発想で四世ならではとプログラムで紹介されていましたが、本当に並々ならぬ四世の才能を感じさせる一曲でした。


『狂獅子』

唄    杵屋直吉・今藤政貴・松永忠次郎

三味線 杵屋六三郎・今藤長龍郎・今藤政十郎

笛    藤舎正生

小鼓  藤舎清之・藤舎成光

大皮  藤舎清鷹

太鼓  藤舎悦芳


この曲は獅子ものなのですが一風変わった獅子ものです。この一風変わったところが心地よくて憧れの一曲でもあります。

三味線の六三郎氏。本当に「上手い!」と思う。

昔、日本橋劇場に師匠の楽屋見舞いに行った時に、なんと迷路のような楽屋で迷子になったことがあります。そして、なんとこの六三郎氏が道案内して頂いたという希少な経験をした事があります。

ただし、当時、こんな有名な三味線弾きの方とは存じ上げていなくて、日本舞踊家さんなんだろうなと勝手に思い込んでいました。

ところが、ある時、テレビでその方が三味線を弾いていて吃驚!それもド偉く上手い!以来、すっかりファンになりました。「いいなぁ」と思う演奏家さんの一人です。

そして、直吉氏の唄。すっかり彼の唄声にとろけている。この方の娘道成寺のクドキは本当にとろけてしまう気分ですが、こういった曲の唄はピッタリ素敵だと思います。

私的には、本日一番素敵な組み合わせの番組でした。

そういえば、この曲の太鼓のお勉強をしていない。何時か教えていただきたいなぁ。


『船弁慶』

唄    貴音三郎助・貴音直明・杵屋利光・杵屋弥一郎・杵屋利次郎

三味線 杵屋勝国・杵屋勝三郎・杵屋勝松・杵屋勝正雄・杵屋裕光

笛    藤舎名生

小鼓  藤舎呂船・藤舎清成・藤舎呂英

大皮  藤舎呂秀

太鼓  藤舎呂悦


今年の二月に名手杵屋五三郎氏が亡くなった。彼の三味線の音締は本当に素晴らしく、三味線に張られた三本の糸が身に任された役割を100%存分に活かされ心地よいメロディを奏でていた。三味線弾きは年々身体の衰えと共に技量も見る見る落ちていくものだが、九十歳過ぎてもその腕前は衰えを感じさせない、そりゃ吃驚の演奏家であった。ですから、この方は絶対に百歳を過ぎても変わらぬ音色を私たちに届けてくれると信じていたのですが・・・そうもいかないものですね。

その五三郎氏といつも比較されるのが、この杵屋勝国氏だと思う。糸を十分聞かせてくれるのが五三郎氏なら、この勝国氏は長唄の三味線は皮の音を聴かせるものだという演奏。歯切れがよく男らしい演奏を聴かせて下さる。バンバン弾きなのに、けっしてバンバン弾きの音でないのがプロならではの技だと思います。今や勝国氏は長唄三味線では第一人者ですよね。

しかし、どうもチームワークに乱れを感じた一曲でもあった。ちょっと残念。

が、この曲は本当にカッコいい。早笛も色々ありますが、この曲の早笛が一番好き。

何時か演奏してみたい一曲です。


『三重霞傀儡師』

<長唄>

唄    今藤尚之・今藤長一郎・今藤政貴・今藤政之祐

三味線 今藤政太郎・今藤美治郎・今藤長龍郎・柏要二郎

<清元>

浄瑠璃 清元志佐藤太夫・清元志寿子太夫・清元一太夫

三味線 清元美治郎・清元栄吉・清元延美雪

笛    中川義男・藤舎推峰

小鼓  藤舎呂船・藤舎清鷹・藤舎呂裕

大皮  藤舎円秀

太鼓  藤舎呂雪・藤舎呂凰

蔭囃子 藤舎清之・藤舎成光・藤舎理生


清元と長唄の掛け合いの一曲。別名『朝比奈の傀儡師』。三代目坂東三津五郎が初演したものらしく、藤舎は富本節と長唄の掛け合いだったそうです。

華やかな曽我ものらしい、素敵な舞台でした。

長唄とはぜんぜん違うトーンの違う清元。想像すると絶対に溶け込まないハーモニーなのですが、それが心地よいアンサンブルになるのですから、日本の音楽って素敵ですね。


夜勤明けで行った演奏会で、七曲も耐えられるのかとても不安でしたが、

思い返せばあっという間でした。

この演奏会が今年最後の演奏会。ライブの聴き納め。華やかで大満足な演奏で納める事ができて幸せです。本当に本当に幸せ。

そして、今年もできる範囲ではあったが、師匠の舞台を拝見して、舞台の師匠から色々なものを頂戴できた。その頂戴したものを自分のものにしなくちゃいけない。本当に本当に・・・。

来年も素敵な演奏会に沢山行くことができますように。

来年の演奏会始めは国立劇場主催の長唄演奏会だ。