「昔、むかし浦島が助けた亀に連れられて~♪」という馴染みあるあの童謡とは全くかけ離れた曲調の曲だ。
童謡の浦島さんというと、アニメチックな主人公が目に浮かぶけれど、やっぱり長唄の『浦島』というと、歌川国芳の浮世絵に出て来るような“大人な”浦島太郎が目に浮かぶ。
長唄の『浦島』は、浦島太郎が竜宮城から戻ったところからのお話。
「竜宮城で過ごした数日が、地上では随分の年月が経過していて、
浦島の家族はおろか、知る人もいない状態。心細くなった浦島は「決して開けちゃいけませんよ」と乙姫から渡された玉手箱を開けてしまう。蓋を開けた玉手箱から、モクモクと白い煙が出て来るとたちまち太郎はおじいさんに変身してしまう」
この下りが長唄化されたものだ。

歌川国芳作「浦島太郎」
「浦島太郎伝説」は本当に色々とあるんですね。
古くは『日本書紀』に登場するらしい。日本書紀バージョンは竜宮城ではなくて「蓬莱山に行く」というものらしい。
私たちの知っている『浦島太郎』の原型は、万葉集の中で高橋虫麻呂という人が書いた長歌にあると言われているそうだ。
詠水江浦嶋子一首
春日之 霞時尓 墨吉之 岸尓出居而 釣船之 得乎良布見者 古之 事曽所念 水江之 浦嶋兒之 堅魚釣 鯛釣矜 及七日 家尓毛不来而 海界乎 過而榜行尓 海若 神之女尓 邂尓 伊許藝・ 相誂良比 言成之賀婆 加吉結 常代尓至 海若 神之宮乃 内隔之 細有殿尓 携 二人入居而 耆不為 死不為而 永世尓 有家留物乎 世間之 愚人乃 吾妹兒尓 告而語久 須臾者 家歸而 父母尓 事毛告良比 如明日 吾者来南登 言家礼婆 妹之答久 常世邊 復變来而 如今 将相跡奈良婆 此篋 開勿勤常 曽己良久尓 堅目師事乎 墨吉尓 還来而 家見跡 宅毛見金手 里見跡 里毛見金手 恠常 所許尓念久 従家出而 三歳之間尓 垣毛無 家滅目八跡 此筥乎 開而見手齒 如本 家者将有登 玉篋 小披尓 白雲之 自箱出而 常世邊 棚引去者 立走 ・袖振 反側 足受利四管 頓 情消失奴 若有之 皮毛皺奴 黒有之 髪毛白斑奴 由奈由奈波 氣左倍絶而 後遂 壽死祁流 水江之 浦嶋子之 家地見
(うわっ・・・漢字ばっかり・・・)
春の日の霞めル時に 住吉の 岸に出で居て 釣り舟の とをらふを見れば いにしへの ことぞ思ほゆる 水之江の 浦の島子が 鰹釣り 鯛釣りほこり 七日まで 家にも来ずて 海さかを 過ぎて漕ぎゆくに 海神の 神のおみなに たまさかに い漕ぎ向ひ 相とぶらひ 言成りしかば かき結び 常世にに至り 海神の 神の宮の 内のへの 妙なる殿に たづさはり ふたり入り居て 老いもせず 死にもせずして 長き世に 有りけるものを 世の中の 愚か人の 我妹子に 告りて語らく しましくは 家に帰りて 父母に 事も告らひ 明日のごと 我は来なむと 言ひければ 妹が言へらく 常世辺に 又帰り来て 今のごと 逢はむとならば この櫛笥 開くなゆめと そこらくに 堅めし言を 住吉に 帰り来たりて 家見れど 家も見かねて 里見れど 里も見かねて あやしみと そこに思はく 家ゆ出でて 三年の間に 垣もなく 家失せめやと この箱を 開て見れば もとのごと 家はあらむと 玉櫛笥 少し開くに 白雲の 箱より出でて 常世辺に たなびきぬれば 立ち走り 叫び袖振り 臥いまろび 足ずりしつつ たちまちに 心けうせぬ 若くありし 肌も皺みぬ 黒くありし 髪も白けぬ ゆなゆなは 息さへ絶えて 後つひに 命死にける 水之江の 浦の島子が 家ところ見ゆ
お馴染みの“亀の恩返し”“乙姫”“竜宮城”“玉手箱”というのが出て来るのは『御伽草子』の中で描かれている浦島太郎らしい。
有名どころの書物だけではなく、実は全国40か所くらいに「浦島伝説」があるのだそうだ。
京都の丹後地方、香川県庄内半島、愛知県豊武町、岐阜県各務原市、横浜市神奈川区、沖縄などなど。
さて、蓬莱山とは仙人が住む伝説の島である。海のかなたの東方に、仙人が住む孤島があり不老不死の薬があるという島なのだそうだ。蓬莱山の三年は人間界にとって三百年。一日が百日にあたるわけだ。
本人としては数日のつもりでも人間界ではすごい年月が経ってたりするわけですね。
ネットで色々検索していると面白い記事に出会うものですね。
竜宮城。実は韓国の釜山に竜宮寺というのがあって、浦島さんははるばる日本から韓国に渡ったのではというお話があるらしいです。
本当に一口で『浦島太郎』でも色々あり過ぎて吃驚です。
看護師の業界用語の中に「浦島太郎」というのがあります。
一般病院ではベット稼働率をなるべく短くなる事を目標に病棟経営していますよね。私が子供の頃、虫垂炎で手術となると一週間から十日くらいの入院という感じでしたが、今では三日でも長い感じ。最短で日帰りというのがあるくらいです。
そういった感じですから、二日も休むと「知らない患者さんばかり」というケースを体験したりするものです。「連休明けで、本当に浦島太郎でさ・・・知らない患者さんばかり受け持っちゃってどうしよう」なんていう言葉を良く耳にします。
私も経験ありますが、本当に玉手箱を開けたい気分になるものです。