■質問内容
Q1.
不妊治療を長期間続けていると薬の影響などで乳癌や子宮癌になりやすいですか?とても心配になります
Q2.
プレマリンを長期間服用すると癌になる確率が高まると書かれていました。 採卵前から処方されることがあり、不安に感じています。
■当院からの回答
女性ホルモン感受性の癌は女性ホルモン剤を使用する不妊治療によりリスクが増加するのではないかと、かつて漠然と考えられていました。
しかし、その確かな根拠はなく、現在のエビデンスから導かれる結論では不妊治療による癌のリスクは増加しないとされています。
米国生殖医学会から発表されたガイドライン(Fertil Steril 2016; 106: 1627)から、妊娠治療に用いる薬剤と癌のリスクについて:(エビデンスレベルA>B>C)妊娠治療に用いる薬剤での各種癌の頻度は増加しないことを示しています。
1.乳癌:薬剤による有意なリスク増加はない(B)
2.子宮体癌:薬剤による有意なリスク増加はない(B)
3.子宮頸癌:薬剤による有意なリスク増加はない(B)
4.卵巣癌:薬剤による有意なリスク増加はない(B)、薬剤の種類による違いはない(B)、妊娠治療後に境界悪性卵巣腫瘍がわずかに増加するとの報告がありますが、特定の薬剤ではない(C)、境界悪性卵巣腫瘍の活動性は低く予後は良好(B)、境界悪性卵巣腫瘍を避けるために薬剤使用を避けるという根拠はない(C)
5.甲状腺癌:薬剤による有意なリスク増加はない(B)
6.メラノーマ:薬剤によりリスクが増加するという十分な証拠はない(C)
7.大腸癌:薬剤による有意なリスク増加はない(B)
8.悪性リンパ腫:薬剤によりリスクが増加するという十分な証拠はない(C)
★ 排卵誘発剤と卵巣癌のリスクとの関連は認めません
1965~1988年に米国5カ所の施設で不妊症として治療を受けた9825名の女性を対象とし、2010年まで経過を観察し、卵巣癌(85名)と卵巣刺激の関連について後方視的に検討しました。クロミフェン使用もhMG製剤使用も卵巣癌のリスクとの関連を認めませんでした(Fertil Steril 2013; 100: 1660)。
チョコレート嚢種の癌化の可能性に注意が必要です
妊娠治療を受けられている方の中に、チョコレート嚢腫がある方がおられますが、最大の問題点は、チョコレート嚢腫は悪性化(癌になる)の可能性があることです。
チョコレート嚢腫の悪性化は、日本人をはじめとした東洋人に多く、次の記載により注意喚起しています。
日本産科婦人科学会誌 産婦人科専門医研修コーナー
1)45歳以上かつ閉経後かつチョコレート嚢腫の最大径10cm 以上の場合は癌化率が高いため、すぐ卵巣摘出すべき。
2)20代および30代のチョコレート嚢腫の最大径10cm以上のときは悪性化を考慮して卵巣摘出が望ましい。
3)40歳以上かつチョコレート嚢腫の最大径6cm 以上の場合は卵巣摘出が望ましいが、経過観察する場合は悪性化を常に考慮する。
4)チョコレート嚢腫の最大径6cm 未満の場合は経過観察しても良いが、CA125測定や画像診断は定期的に行ったほうが良い。
5)未婚女性や不妊症患者の場合は、卵巣摘出術の代わりに嚢腫の部分摘出を選択することが多いが、顕微鏡レベルの検査をしっかり行って悪性がないことを確認すべき。
6)20代および30代のチョコレート嚢腫の悪性化は「万が一」のことで,チョコレート嚢腫がない一般集団と同じ発癌率であり,過度に悪性化を恐れる必要はない。
7)閉経期前後のチョコレート嚢腫は明らかに悪性化の頻度が増加するため、閉経すればチョコレート嚢腫が治るという説明はすべきではない。また、薬剤投与によりチョコレート嚢腫が縮小したら悪性ではないという誤った考えがあるが、縮小しても悪性の場合はありえる。
以下の記事もご参照ください。