この話の始まりは何時からなんだろう。
正直なところはっきりとは分からない。
後になって思い返してみるともしかしてあれもそうだったのか?っていう
プロローグのような出来事も起きていることにある時に気付いた。
はっきりとした始まりは1993年の11月29日からだ。
しかし、その前触れとも言える始まりは、その年の1月13日からである。
その前にその当時の私の状況を記しておくべきだろう。
私は妻と離婚した。 13年目だった。 その前が8年。
決して短い時間ではない。
具体的に大きな原因があった訳ではなかった。
互いに大嫌いになった訳でもない。
彼女の中に積もったものがあり、人生をやり直したいといったところか。
私にはその気はなかったが、彼女の気持ちは固まっていた。
私は彼女を愛していた。 というより彼女以外に自分の妻となりえる人はいないと思っていた。
何度かの話し合いの後、結局彼女の言うとおりにしようと思った。
私はその時を含めて今まで離れていく者を追いかけたことはない。
片方がその相手から離れたいと思えば、それはもうどうしようもないことだと思ってしまう。
それにその時は一度は離れてもまた元に戻れると信じていた。
一度離れて冷静になれば彼女の考えも変わるだろうと。
また二人でやり直せばいい。 そう思うことで自分を納得させたかったのかも知れない。
二人で大きなショッピングセンターに行き、彼女の新生活に必要なものを買いそろえた。
つらい時間だ。
しかし、それ以上にそうやって少しでもそうやって二人で過ごせる時間がとても愛おしかった。
そして、私たちは離ればなれになった。
一人になってみてあらためて孤独に苦しめられた。
別れることが決まってからずっとそこにあった孤独感とは別の、気が付いたら脚元の地面が無くなって暗い底に落ちていくような感覚だ。
さらに、私たち夫婦のもとに集まっていた仲間たちも離れていった。
彼たちの言い分は「すみません、でも助けてあげなきゃならないのは男のあなたよりも女性の〇〇さんの方なんです。」と言うものだった。
その時申し訳なさそうに言う彼らを見ながら、それはその通りだと納得した。
是非そうしてくれと言った。
毎日仕事をなんとか終えて家に帰るとドアの前に立ちすくんだ。
入りたくないのだ。 部屋の中には孤独が待っている。
そのままなじみの店に行くことも多かった。いつも常連のみんながいる店だ。
でも、そこも妻と一緒に通っていた店だ。 むしろわたしよりも妻の方が人気があった。
今考えればそんなことはないのだろうけど、その時は常連のみんなが冷たくなったような気がしていた。 なんとなくいごこちの悪さを感じることも多かった。
そしてしばらくしてその淋しさを紛らわすために「2shot」というところに電話をかけ始めた。
今や死語に近いものだが当時はそういうところが数多く存在した。
最初は「ダイヤルQ2」と言う形だった。
流行りだったのだろう。 私のアパートの郵便受けに毎日何枚ものチラシが入っていた。
そこで何人もの見知らぬ女性達と話した。
ダイヤルQ2を知っているだろうか。