「知ってるよ」
コーヒーを差し出しながらマスターが言う
「へ?」
「お前の、、、《宝物》を、知ってるって言ってる」
「やっぱり。ドンヘはどこにいるんですか?オオトモイッカってトコにいるんですか?ドンヘは元気なんですかっ?」
「なあ?兄さんの名前聞いていいかな?」
あ、そうだった。
オレもマスターも名乗ってもいなかったんだ。
「あ、そうですよね。自己紹介してませんでしたね。オレはイ.ヒョクチェと言います」
「だろうなぁ」
「知ってたんですね?オレの名前。ドンヘから聞いたんですか?ドンヘはどこにいるんですか?教えてください」
「その前に、なぜ、その韓国人を探してる?
イ・ジュンギに頼まれたのか?」
「イ・ジュンギ、、、?」
その名前が日本人の口から発せられるとは思わなかったから、一瞬、考えてしまった。
「まさかっ!」
イ、ジュンギは8代目ジングォン派の頭目
大ボスだ。
「んなわけねえか。兄さんクラスの人間じゃあ
イ・ジュンギに会ったことすらないわな」
「なぜ、マスターがその人の名前を知ってるんですか?」
「有名だろ?」
「韓国では、です。日本のデカイYAKUZA組織の大幹部連中あたりならイ・ジュンギという名前を知っていても不思議ではないですけど、マスターは一般人と言ってましたよね?」
「そうだよ。俺は一般人だ。おっと、自己紹介がまだだったな。俺は大友航ってんだよ。以後お見知り置きを」
「オオトモ…ワタル?オオトモ?」
「そう、俺の親父は大友一家の親分、大友武だよ。けど、勘違いすんなよ?俺が一般人なのは本当だからさ。組を継ぐことになるのは、昨日会った弟の方だから」
「何故、長男である貴方が継がないんですか?」
「そんなの…YAKUZAなんてダセェからだよ(笑)大友一家は、組とは言っても、吹けば飛ぶくらいの小さい組で、シノギだって、この店と、あの《潜艦アパート》だけ。組員だって、たったの5人だ。その組員の一人が俺の弟、組長にとったら倅、組長を入れても総勢6人だぞ?」
たった6人?
「6人て、、、組として機能するんですか?」
「YAKUZAの組としては機能なんかしてないよ。尾道にとって大友一家ってのは自警団とか消防団的な役割だよ。」
「自警団や消防団なら街の人から見たら、オオトモイッカはYAKUZAの組という認識は無いですよね?」
「それが、そうじゃないんだよ。何故なら、大友一家の親組織が東陽連合会だからさ。広島で東陽連合会の力は絶大だ」
「トウヨウレンゴウカイの力は絶大?オレ、昨日、トウヨウレンゴウカイってのをネットで調べたんですよ。」
「載ってなかったろ?」
「ええ、全く。出てたのは、、、」
「東城会と近江?」
「ええ、その2団体だけでした。おかしくないですか?その、トウヨウレンゴウカイってのが絶大な力のある組織なら検索すれば出てくるはずじゃないですか」
「広島では、って言ったろ?」
マスターの話に頭が付いていかない。
てか、今はオオトモイッカやトウヨウレンゴウカイの事なんかどうでもいい。
「マスター、お願いです。ドンヘに会わせてください」
「ドンヘと知り合ったキッカケは?」
「え?…ああ、それは、あいつが絡んできたんですよ。肩がぶつかったとか言って、で、殴り合いになって、、.、」
「どっちが勝った?」
「五分五分です。けど、それはオレが手加減してやったからですよ!」
「ふふっ…」
「オレもドンヘも親に捨てられて施設で育ったんです。施設は別々だったけど、、、
出会った頃…16歳の頃のドンヘは誰彼かまわずケンカを売るようなヤツだったけど、、、ホントのあいつは素直で、真っ直ぐで、アホで、鈍臭くて、、、
人一倍 寂しがりやで、オレが一緒にいてやらないと何も出来ないヤツなんです。だからオレがお前の家族になってやるって、オレがお前の父ちゃんになってやるって、母ちゃんになってやるって、お兄ちゃんになってやるって、オレは一生お前の側にいるって、だから…お前も一生オレの側にいてって…ずっと一緒にいようって…約束したんだ」
「なるほどな。お前は、ドンヘの父ちゃんであって、母ちゃんであって、兄貴でもあるんだ?そりゃあ、お前にとってドンヘは《宝物》だわな」
「、、、マスター」
「ん?」
「オレも、本当は…オレも寂しいんです。
さっき、ドンヘはオレが一緒にいないと何も出来ないって言ったけど、本当は、、、ドンヘが側にいてくれないと…っ…な、何も出来ないのは、オレの方…で…弱いのもオレの方なんだ…。
ドンヘ、、、ドンヘに会いたい…っ…オレ、ドンヘに会いたいよ…」
「、、、ったく…」
マスターが何か言いかけた時
カウンターの後ろのドアが開いて
姿を現したのは
「ひょぉ〜ぐぅ〜…ごべんでぇ ごべぇんでぇ
ふぇっぶふぇぇ」
涙で顔をぐしゃぐしゃにした
オレの、、、大切な宝物
ドンヘ
つづく