別に戦争映画が好きなわけじゃないんだけど。ってか戦争自体が嫌いだし。ただ戦争映画、…っつーか“戦場映画”と言った方がいいのか。っていうのも押井守が『パトレイバー2』の時だったと思うけど、“戦争映画”と“戦場を描いた映画”は違うみたいなこと言ってて。要は戦争の本質を描いた映画は“戦争映画”だけど、単に戦場を描いただけの映画は“戦争映画”ではないみたいなことを言ってた気がするんだけど。

まぁともかく、映画の本質は脚本や物語ではなく、映像と音で体感し疑似体験することを堪能するものであり、戦争が嫌いであろうがあるまいが、“戦場映画”は過酷な現場を疑似体験する点においてディザスタームービー(災害映画)やホラー映画などと並ぶ題材ではある。

たまたまここ半年ぐらいでベトナム戦争映画3本観てさ…

 

『ディアハンター』

名作なのかカルト映画なのか、まぁよく語られる映画だよね。

俺の大好きな『ワイルドブリット』は『ディアハンター』の影響が見受けられるらしい(と同時に『ワイルドブリット』に比べたら『ディアハンター』は子供の遊びだみたいに本に書いてるライターもいたけど)。

その『ディアハンター』を遅まきながら初めて観ましてね。ブルーカラーな田舎町の若者たちの楽し気な日々がまず描かれ、歌と踊りのシーンがやたらあって、ワタクシハードワークで忙しい日々の最中だったんでちゃんと観ないで流しっ放しにして寝てたりしたんだけど、ふと目が覚めて画面見ると歌ってるシーンで、またまどろんで寝て、目が覚めて画面見るとまた歌ってるシーンで、それの繰り返しで、この映画いつまで歌って踊ってんだよと(苦笑)。

そんな寝ては覚めを繰り返してるうち、やっとベトナムのシーンに入ってた。ベトナム入るまでずいぶん長ェな!

そうしてやがて有名なロシアンルーレットのシーンになる。で、悲惨なことになる。

前半(ベトナム出征前。歌と踊り)がえらい長く、ベトナム場面との落差が相当あり、ギャップで悲惨さが際立ってるといえる。

“戦場映画”というより、戦争という特異な状況によって人間性が変質してしまった者&その友人の悲劇というか。

俺的には1回観りゃ十分な映画かな。

 

『フルメタルジャケット』

(ネタバレあり)

劇場公開時に映画館で観て、それっきりだった。印象に残ったのは前半の教官のテンションの高さと気の弱いデブが狂ってくとこだけで、戦地の後半に至ってはまったく何も憶えてない。

改めて観てみると、教官のテンションこんなもんだったっけ?っていう。訓練場面の描写も凡庸。

後半の戦場場面もこれまた凡庸というか… 凄みがないんだよな。体感度もあまり感じないし。

米軍の行く手を阻むスナイパーの正体が女だったというのは意外性があるが、こういうのは一発芸なんで、2度目以降に観る時はもうわかってるから衝撃は無い。まぁ俺はすっかり忘れてたんで、ほぉ、とか思いましたが(笑)。(2度目に観る時は正体を知ってるが故、別の意味を持つことにはなるけど。)

それより今観ても観応えあるのは、この女が射殺される時の弾着、これがなかなか凄まじくて良い。

そんなもんだな。なるほど1回観てそれっきりだったのがよくわかった。繰り返し観る観所のある映画じゃないね。

狂ったデブの最後の目つきは今観てもスゴかったけどね(笑)。

でもそれは演技力とか演出の範疇であって、映画の真髄=映像及び音像とは関係がない。

 

『プラトーン』

戦地で強いられる緊張と疲労。生死。隊の中でのエリアスとバーンズ(=善と悪)の対立、分かれる派閥、第三者の視点から見ている新兵の若者である主人公。

昔劇場で観て以来。当時は特に印象には残らずというか。本作より『リーサルウェポン』の予告編が俺的にインパクトあり過ぎて、すっかり意識がリーサルにのめり込んじゃって。

でも改めて観てみたら、結構よくできているなと。

まず映画として合格ラインに達している。本作は『Uボート』『悪魔のいけにえ』なんかには及ばないとしても、それでもまぁまぁ戦場の疑似体験足り得てる。40インチぐらいのモニターで観てても行軍の辛さはそれなりに伝わってくるし、クライマックスで全方位敵に囲まれるくだりも結構切迫感があり、これは劇場のデカいスクリーンと音響で観たなら結構な疑似体験度が得られるのではないかと。

でも俺の中でこれまで一部分を除いて印象に残ってなかったのは、当時まだ映画の観方を体得してなかったということだね(苦笑)。そこにまだ意識的でなかった。

部分的に印象的だったっていうのは、やっぱエリアスの最期の悲惨さ、そしてバーンズのスカーフェイス。

でもそれから約37年か、今回歳食ってから改めて観てて、その2点はやはり同様。そしてそれに留まらず、先述した戦場の体感度、あと物語としてもちゃんと成立している、まとまっているなーと。

・ベトコンとの戦い

・人の生死

・味方同士での対立・人間関係

・いわゆる一般的な生活から離れて人殺しが当たり前の環境に置かれて、人間性というものを覆してくる衝動、狂ってくる理性

・主人公の若者があえて志願して来た理由→戦場での体験→ラスト、最前線から脱出出来た主人公のモノローグ

…脚本は結構よく出来てるんじゃない? いろいろ描いている、手が届いているし、ラストもちゃんと着地点があってうまくまとまっている。

(ただ、ラストの主人公のモノローグはこの物語をうまく締めすぎてて、あざとさも感じる・苦笑)

でもテレビドラマは脚本が重要だけど、映画は脚本「も」良ければそれに越したことはないけど脚本「が」大事なわけでは断じてない。

こういう物語を行軍・戦闘と平行して戦場の辛さを体感させつつ描き、映画として成立してるし、物語としても成立してるし、よくできましたのハンコが押されるような総合点高めの出来具合。鬼才ではなく優等生的な出来。

『フルメタルジャケット』より断然『プラトーン』の方がいい。『フルメタル~』の戦場シーンは印象に残るものがほとんどないうえ、前半と後半が分断してる感があるし、分断してることが何にも寄与していないし。『ディアハンター』は地元とベトナムが分断してるけど、それが生む差異がモロにドラマとテーマに繋がってる。

『プラトーン』は全編繋がっていて、まとまりと、「展開」ってものがちゃんとある。

そしてなんといっても『プラトーン』には体感度がある。

この3WAYマッチは断然『プラトーン』の勝利でしょう。