暑いっスね…
スマートな人は(あるいは無職の人間は)気温30何度以上ある日にわざわざ出かけやしない。
ワタクシはそこそこ出かけたい人ですがね。夏にリアルの夏を体感しないと非常に人生損した気持ちになる。それに部屋に閉じこもってると身体的にも精神衛生上もよろしくない。
んが。しかし。酷暑な日はやはり出かけるべきじゃない。
学生は夏休みに入ってるし、大人も盆休みが来るしな、出かけずに夏は満喫したい!という人に勧める“夏映画”をピックアップだ。
『サマータイムマシンブルース』
猛暑の最中 部室のエアコンのリモコンが故障&部室にタイムマシンが現れたのでリモコン巡ってバックトゥザ昨日、タイムマシン無駄使い。
なんつっても登場人物たちが皆 可笑しい! どいつもコイツもバカばかりで(←誉め言葉)、会話劇や掛け合いの面白さが突出、観ててホント楽しい!
しかしそれだけならテレビの2時間ドラマでやればよい。本作がちゃんと“映画になってる”のは、酷暑感がよく出てる。舞台の四国の光景・雰囲気もいい感じだし。
監督が『踊る大捜査線』の本広なわけだが、本広は今後何本撮ろうと最高傑作は『サマー~』だろう。
同じく会話が面白いという感想の多い『曲がれ!スプーン』は失敗作。映画になってない。テレビの2時間ドラマなんである。本広って結局テレビの監督なんだよ。でも『サマー~』は例外。
夏映画でコレ取り上げないとかあり得ないっつーぐらい「夏度」の高い「映画」になっている。
うるさい映画かというとそうでもなく、全体的にな~んかまったりユルユルなのもまた観てて妙に心地良い。
『悪魔のいけにえ』
アルマジロもひっくり返って死んでるような乾燥した暑さのテキサスで、うっかり脇道系で地獄のドライブと化す。
白昼夢のようなイカれたヒッチハイカーを皮切りに、人間を屠殺する一家に襲撃される異常な体験の数々、そして精神崩壊スレスレな特級の恐怖へ。
映ってるものがいちいち異様、音も始終不気味(生々しい音、効果音のようなスコア)で、映画としても一級品。
異常事態と狂気を体感させられる地獄の映画体験。ファスト映画も倍速視聴も通用しない。付き合わされ体感させられるのが映画なんだと嫌でも知ることになる映画鑑賞が味わえる。これが映画。小さい画面とスカスカ音質のテレビドラマでは表現不能な、映画のポテンシャル炸裂。
『うみ・そら・さんごのいいつたえ』
夏度体感といえば沖縄っしょ!
沖縄出身だが東京で結婚した主婦(余貴美子! GONIN2!)が、ダンナとの諍いから小学生の娘(本名陽子! 月島雫! プリキュア!)を連れて家出→沖縄の実家に転がり込んで過ごす夏休み。
青い空、青い海、沖縄の家屋、沖縄の生活・文化、パイン畑、無人島…
標準語から沖縄の方言に戻る母。大人たちのざっくばらんな会話や関係。沖縄の子供たちと仲良くなってく娘。子供たちの遊びや冒険の日々。親と子・先生と子供たち・露天商のオッサンと子供たち…大人と子供の場面もほっこりする。
観光地的な沖縄ではなく現地の生活に立ち入った映像&ドラマで、観光客目線ではないリアル沖縄ライフ&娘目線で外様から見た視点と両方体感できる。
人も、全編に映る沖縄の光景も、全てが夏度が高く、かつ緩やかで心地良い。観るアロマテラピー的でもある。
『機動警察パトレイバー THE MOVIE』
世紀末の東京を舞台に繰り広げられる知的アクションスペクタクル。
仕掛けられたサイバーテロの起動条件を理詰めで追及してく主人公の若い警官たち。彼らと上司の、学校の生徒と先生のような関係も妙に心地良い。
サスペンスが理知的かつスケールあって面白く脚本も素晴らしいが、堪能したいのは夏度の高さだ。映画史上トップクラスの夏度を誇る。
クソ暑い中 整備班リーダーの下宿先・久保商店2階の、多量のテクノロジー機器が持ち込まれつつクーラーなく扇風機回ってるだけのうだる暑さの和室という和洋折衷ならぬ和テクノロジー折衷の光景。
夏の東京で、テクノロジーと古い文化が混在する都内の、最先端あるいは観光スポット側からでなく古くから在る下町の側から犯人の軌跡を足で丹念に追ってく刑事の汗だくの地道な捜査シーン(夏度高い!)には、都内のあまりの乖離ぶりに下町側がまるで時の止まった時空のようにすらみえてくる不可思議感&心地良さ。
クライマックスは台風上陸中の東京湾で大暴れの一大スペクタクルが豪快! 台風一過の青空の下で迎えるラストも爽快!
(実は単純なハッピーエンドじゃないんですがね)
『デスペラード』
舞台のメキシコの暑苦しさ、ロングヘアでガタイのいい主役アントニオ・バンデラスの暑苦しさ、パワフルなアクションと、全体的にどこもかしこも“暑味”が炸裂! ムサ苦しい! (ダニー・トレホも暑苦しい!)
沖縄のような湿度のないスカッとした暑さでなく、ネットリした湿度満載のとってもヤな感じの暑さ。生ぬるいビール。滴る汗。暑苦しい野郎ども。
そしてそこが魅力。サウナでストレス溜まって暴れ出すかのような、鬱陶しい状況下で繰り広げられる存在自体が凶器な男とカッ飛びすぎの銃撃・爆破がうだる暑さの中で展開する豪快な快感!
「土用の丑の日」「ウナギを食べて夏を乗り切ろう」みたいな、猛暑の日には是非とも『デスペラード』鑑賞だ! 冬にアイス食うような、クソ暑い日に鍋を食うような、火に油を注ぐ夏の『デスペラード』体験、チェケラウト!
『サマーウォーズ』
ストーリー的には世界スケールに発展し感動のクライマックスもあったりするのだが、なんつっても本作は夏の田舎のデカい実家に集まった大家族の光景を観ている心地良さ。
日本家屋に付き物の暗さ・湿っぽさがない。アニメだから。これが例えば昭和の金田一映画だったりなんだったりするとその暗さ・湿っぽさは良い化学反応になるのだが、通常ならマイナス要素だ。でも『サマーウォーズ』はアニメでやったからこそ日本家屋が美化されてるというか、…そうだなァ、尾道を舞台にした映像作品や聖蹟桜ヶ丘を舞台のモデルにしたアニメ映画『耳をすませば』などは観てる分には思わず“住んでみたい!”と喚起させるが、実際には坂の町は暮らすにはしんどい。でも観てるだけなら魅力的。
似たようなもんで、『サマーウォーズ』で描かれる日本家屋はアニメ(絵)であるがゆえ自動的に暗さ・湿っぽさが排され心地良い空間に見える。
それは同様に親戚一同が集まる大家族な登場人物たちも、実写で生身の俳優がやったら生臭くなるところだが、アニメのキャラクターなんでそれがなく、あまつさえ憧憬すら感じられる始末。実際自分が親戚大勢の状況に置かれたら結構しんどいだろう?(苦笑) でも本作では人が集まってるのが観てて心地良いんである。
『ランボー3』
砂漠! 暑さ! 筋肉! 運動! 銃撃! 爆破! 攻撃ヘリ! 戦車! 戦闘! 重量感! スタローン! アフガニスタン!
戦いのスペシャリストが砂漠地帯で繰り広げる1人軍隊大運動会。
『デスペラード』と大きく異なるのは、こっちは非常にシャープである。競技性があるというか鍛え抜かれてるというか、『デスペラード』が地下闘技場なら『ランボー3』は世界選手権やオリンピックレベルである。
とにかくスタローンの肉体のフォルムと運動神経が素晴らしい。加えて迫力の爆破連打。
本作はファスト映画や倍速視聴のみならず等速で見た奴すらつまらなかったと言うだろうが、それはストーリーでみてるから。冗談じゃねェよ、『ランボー3』の素晴らしさは運動や爆破や砂漠地帯の体感であり、そもそも映画の魅力がそこであり、テレビドラマと映画の違いもそこであり、ストーリーがどうとかヌカしてる映画ド素人な奴らは本作の感想で一発判明! そんな連中は一生ちまちまスマホとテレビドラマ見てろバァカ!
『紅の豚』
ジブリアニメで描かれるイタリアの夏と愉快な連中で楽しい夏を満喫。それだけでも充分観るに値はするのだが、多くが子供から大人まで楽しめるジブリアニメの中で本作は、本当に堪能出来るのはある程度の年齢層以上の、大人の映画だ。
本作は実はファンタジーではない。主人公のビジュアルが豚なのは魔法でもなければ、人間に戻ることがハッピーエンディングでもない。
主人公は信条の齟齬から軍隊を辞めて人間社会とは一線を画して生きている男。言い換えれば“非国民”であり、また人間に嫌気もさしていて、だから豚なんである。そして第二次世界大戦が迫る… 非常にハードボイルドな主人公&ドラマ――
だが夏のイタリアを舞台にしたこととアニメであることによって化学反応を起こし、爽やかさ・明るさの裏に人生の苦味もあるような、自然は人の営みとは関係なく在るというか、二律背反を実現。社会の中でもがいて生きてるけど、見上げれば空は青。
人生いろいろあるけど、フィオ「きれい…世界って本当にきれい」 ふなっしー「死ぬまでにどれだけ楽しい思い出を作れるかってことなっしな」
生きているという現象は、死に向かっている現象とも言い換えられる。
本作はフィクションだけど、“あの夏”がパッキングされてるような映画。現実の俺たちも、今年の夏は一度きり。自分にはあと何回夏が残されているのか。生きているってなんなのか。本当に大事なものとは。宮崎駿「俺は俺、俺の魂の責任は俺が持つんだ。豚はそういう男なんです」
彼岸話のシーンのひんやり感も特筆もの。1992年夏の公開当時、映画館で観ているのがあまりに心地良くて5回も観に行ったっけ。
『水の中の八月』
博多のうだるような酷暑の中で、博多の高校生たち、博多弁、博多の真夏を体感がまずいいのだが、
加えて展開するのがオカルト(幽霊の方ではなく宇宙的なもの)じみたドラマなのがいいんだよ!
酷暑に意識が遠のくような博多の真夏の渦中で不思議というか不気味というか、異様なドラマが展開する。
それでいてどこか透明感がある。
「異様」と「透明感」は普通相容れなさそうだが、本作は並存しているのがまた魅力。
ストレートで健康的な夏体験映画でなく ねじれた方に迷い込んでく奇怪な夏映画。そこがイイ♪
あとヒロインが高飛び込み選手で、高飛び込みが連続するシーンがあるのもいい。アクション映画じゃないのにフィジカルがある。それが男でなく女子ってとこもまた良い。
博多の祭り・山笠の映像にも静謐かつ迫力あるフィジカルが宿る。
後半 特にスピリチュアルになってくあたりからストーリーで見てる奴は退屈すんだろうけど、いやいやいや映画は「ストーリー」でなく「感性」で観ろ。後半も素晴らしい映像が続いて見どころは途切れることがなく、恐るべき「映画」っぷり。
また後半語られてる事は妄想でなく科学的に実際にある説であり、この点も見どころなのだ。
『プロジェクトA子』
2作目の方がさらに夏度が高いともいえるのだが(夏休みの話だし)、2作目はOVAであって映画ではないので1作目にした。(でも2作目も その季節感の強さ、ダイナミズムに満ちたアクションは充分映画足り得てる。)
A子シリーズの魅力はストーリーの無さとも言える。ストーリーが無いからこそ登場人物たちの元気さや彩りがなお際立ち、世界観の魅力やアクションのダイナミズムがより強く表出している。
だからストーリーものになっていった3・4作目の方がつまらないし(というか面白いは面白いのだが、1・2作目のような突き抜けた感が消失してしまった)、1・2作目は今観ても煌めきとエネルギーがある。
晴天の近未来都市を舞台に原色のカラフルな女子高生たちが大暴れの、実写と違い現実が1コも無いアニメのポテンシャルが炸裂しまくる爽快な青空ムービー!
『プレデター』
ジャングル地帯でシュワルツェネッガー、アポロ・クリード、グリーンベレー黒人、プロレスラー、問題児、『リーサルウェポン』『ラストボーイスカウト』『ロングキス グッドナイト』の骨太脚本家らを集結させた特殊部隊が、拉致された要人救出作戦で大暴れ!
…は下準備に過ぎず、本作の魅力はそんな屈強な漢どもが銃器も信仰も駆け引きも通用しない姿の見えない謎の存在に1人ずつ殺られてゆくというアクション映画の皮を被ったホラー映画であることだ。
しかもその恐怖が「ワーッ!」「キャーッ!」という程度の低いものでなく、ひたひたと迫り時に静謐さすら漂う上質な恐怖演出であることも本作の魅力。暑いのに、なんかひんやり感。納涼。
ラストに漂う虚無感&安堵感で心地良い鑑賞後感でもある。
『1999年の夏休み』
文学的な夏の映画が良いならコチラ。
製作年度が1988年なんで、この「1999年」というのは現実の1999年ではなく「近未来」という意味である。だから妙なテクノロジー機器が登場している。それでいてSFではなく、
少年たちのBLが描かれ、しかも演じてるのは全員女のコ。
学校が舞台でありながら生徒ほぼ全員が帰省していて登場人物4人のみというひと気の希薄さ。
学校は通常の学校校舎でなく洋館か博物館のようにエレガント。
雰囲気も全体的に物静かであり、夏だけどギラギラな夏ではなく静けさに満ちた夏であり。
死んだはずの少年が現れて奇怪であるが、ドラマは子供から大人への端境期の子たちによる哲学的思考みたいな。
それらが混然一体となって、奇妙さと透明感のある非常に独特な映画になっている。ひぐらしの鳴き声を聴いてるような、そんな心地良い夏映画。
『トレマーズ』
ネバダ州の広大な大地を舞台に繰り広げられるUMA(未確認生物)モノ。
「ネバダ州の広大な大地」という時点で映画足り得てるし夏度も体感できるが、さらにそこにUMA要素がブッ込まれてスリルのある映画鑑賞体験を味わえる。(『悪魔のいけにえ』はしんどくても『トレマーズ』なら子供から年寄りまで楽しめるだろう)
このUMAは土中を自在に移動し襲ってくるが、岩やアスファルト道路など硬すぎる物は破れない。しかし人口14人の田舎町ではアスファルトやコンクリートはほとんどなく、隣町まで距離もあり、陸の孤島と化した町でサバイバルが展開。
しかし硬い物の上・高い場所はとりあえず大丈夫というのがソリッドではなく緩慢なスリルを生み(キツすぎないスリルが絶妙で楽しい←不謹慎)、登場人物たちものんびりした人たちが多く、主人公コンビもユーモアがあり、観てて結構楽しく心地良いのがまた本作の魅力。
…でさ、映画というものと、ストーリーに拠らないと成立しないテレビドラマ(映像と音のポテンシャルが低いテレビドラマはシナリオと出演者で牽引する他ない)はそもそも根本的に異なるものだから、
ファスト映画だの倍速視聴だのが通用するのはテレビドラマに対してであって、映画鑑賞には通用しない。
画面の大きさ・音質ともにテレビと映画館はまったくかけ離れてるものだから堪能の仕方がもう基本的に違う。
なぜわざわざ映画館に出かけて行って高い料金を払って観るかというと、デカいスクリーンと迫力の音響で映像と音を堪能しフィクションを体感する疑似体験(ココ重要!)は自宅では不可能だからだ。
疑似体験するものなのにファスト映画とか倍速視聴とかネット・スマホ視聴とかバカかって。
体感する疑似体験において、ストーリーは重要でない、というかむしろジャマ。(「物語が進行してる時、映画は停止している。逆に映画が進行してる時は物語が停止する」ってやつだよ。)
だからファスト映画だの倍速視聴だので映画を見た気になってる奴らは、1ミリも映画を知らない。
テレビドラマに対してストーリーがつまんねぇと文句タレるのは感想として当たり前なのだが、映画に対してストーリーがつまんないとホザくのは映画の感想になってない。オマエ映画観に来て一体どこ見てんのっていう。美味いと評判のレストランに行って水だけ飲んで帰ってきてレビュー書いてるようなもん。オマエ食ってねーじゃん。味わってもいないのに(味わい方も知らないくせに)知ったツラして感想書き込んでんじゃねーよ。
今回取り上げた作品群も、夏を堪能するという主旨で選んだわけだが、こういう観方・魅力はテレビドラマには無い。
テレビドラマは永遠に映画にはなれないし、体感・没入して鑑賞出来ない作品は映画足り得ないし、プラネタリウムはプラネタリウムに行かなきゃ堪能できないように映画を堪能するには映画館。百歩譲っても自宅で観るなら最低でも50インチはあるテレビ&重低音の効いたスピーカー接続で観たいものだ。