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 MEET門脇には、かつて門脇・南浜地区に「街」があったという証がいくつも展示されている。そのひとつに「パリー美容院」の看板があった。
 
 現在の南浜町は「石巻津波復興祈念公園」として整備されているが、かつては海沿いまで沢山の住宅が建ち並び、保育所や郵便局、病院、スーパーもあった。しかし、東日本大震災の津波とその後の津波火災で500人以上が犠牲となり、「非可住区域」(災害危険区域)に指定されて人が住めなくなってしまった。震災遺構となっている門脇小学校や復興祈念公園内には震災前の南浜地区の写真が展示されているが、現在の復興祈念公園の様子からかつての街並みは全く想像できなかった。
 
 
 
 現在の石巻津波復興祈念公園の様子はコチラのリンクからご覧下さい。(2023年に石巻を訪れたときの記事です)
 この写真は上述の「パリー美容院」の看板の説明である。震災前は南浜町3丁目に所在していたが、津波と津波火災による被害を受けた。美容院の看板は津波のあとも折れ曲がった電柱に残されていたという。震災後、パリー美容院さんのご親族が、家の跡地を訪れたり、捜索のために門脇・南浜地区にやって来る人の目印になるようにと、その看板を美容院の跡地に掲示した。語弊があるかもしれないが、震災で目印となるものが消えてしまった中、この看板に「救われた」人は多かったのだろう。
 復興祈念公園整備の工事が始まり、美容院の看板が撤去されることになったが、ご親族の厚意により伝承施設で展示されることになった。震災を知らない世代にも、「かつてここに街があった」という証を残せたんだ、と思うと感慨深いものがある。
 
 この他にも、かつて門脇・南浜地区で働いていた住民による震災体験や証言が展示されていた。下の写真は、門脇・南浜地区唯一の大型スーパー「あいのや門脇店」で働いていた高橋衛さんの体験が綴られている。「あいのや」は石巻市を中心に展開するスーパーマーケットである。実は「あいのや門脇店」は現在の「MEET門脇」がある場所で営業していた。お恥ずかしながら今回の旅行で初めて知った。
 
 発災当時、「あいのや門脇店」は営業中で、高橋さんは昼休みで外出中だった。被害状況から店舗の営業継続は困難だと判断し、店長不在のなか、他の従業員と話し合ってすぐに高台に避難したという。従業員の避難完了を受けた店長は店舗には戻らず、難を逃れた。今となっては「当たり前」のことかもしれないが、「すぐに高台に避難した」ことと「店舗に戻らなかった」ことが功を奏した。
 門脇店は津波と火災の影響で閉店してしまったが、「あいのや」は現在も石巻を中心に5つの店舗を展開している。
 
 こちらは石巻市立門脇保育所の所長を勤めていた千葉幸子さんの体験と証言だ。門脇保育所には約60名の子どもが入所していたが、震災で建物が流出し、震災後は子ども達は別々の保育所で保育を受けることになった。門脇保育所のプールと門柱、建物の基礎は復興祈念公園内に遺構として保存されているが、お恥ずかしながらまだ行けていない。
 
 発災当時、所長の千葉さんはすぐに高台に避難しなければならないと判断した。避難マニュアルでは、避難場所は門脇小学校と指定されていたが、門脇小学校だと裏山が崩れるおそれがあると判断したことから、高台にある石巻保育所をめざしたという。「臨機応変に…」という言葉を聞くと胸が痛くなるが、いざというときはマニュアルや従来の常識を超えた行動が必要になることもあると感じた。「門脇小だと裏山が崩れるかもしれない」と判断したのは素晴らしかったと思う。
 
 その他には、当時「子ども」だった被災者の被災体験を綴ったマンガ動画や子ども向けの震災関連書籍などを見た。今回の旅で一番記憶に残ったのは「忘れないよ 小さな命とあの日のこと」という紙芝居の上演だ。宮城県仙台市にある宮城学院女子大学の学生が作ったもので、石巻市の日和幼稚園の園バスが津波被害に遭い、園児5人が亡くなったという実話がもとになっている。さらにその後、震災の教訓を多くの人に伝えようと、紙芝居の多言語化プロジェクトが始まり、神田外語大学と城西国際大学も加わって中国語、韓国語、やさしい日本語版も制作された。
 
 「紙芝居」といえば、学生時代の保育実習や教育実習(幼稚園)で読んだのが最後だし、子どもの頃の私は「絵」より「文字」に興味があったため、幼稚園で紙芝居の読み聞かせがあっても、文字が書いてある裏面を覗き込んでしまうことがあったくらいだった。
 
 「紙芝居」というと「子どものためのもの」というイメージが強いが、これは子どもだけでなく大人にも見て欲しいものだと感じる。また、震災を知らない子どもが増えてくることや、地震や津波を経験したことのない外国人にとって「絵」で伝えることは重要視されてくるだろう。下記の動画は神田外語大学の公式チャンネルで公開されていた「忘れないよ 小さな命とあの日のこと」の読み聞かせ動画である。日本語オリジナル版・中国語・韓国語・やさしい日本語版のリレー形式で制作されている。ぜひご覧頂きたい。(地震・津波・火災の描写があるため閲覧の際はご注意下さい)

 

 MEET門脇を出たあとは、すぐ近くにある石巻南浜津波復興祈念公園へ行き、「どうしても見たかった慰霊碑」に手を合わせに行った。

 

 それでは次回に続きます!