たんにレパートリーの曲数を10曲、20曲と広げるのは、
キャリアとは違います。そこを勘違いしないことです。
たとえば、オーディション用のデモテープに何十曲吹き込まれていても、
私は1曲の出だしを聞けば、ほぼ充分です。
歌の評価は、それで、わかります。
うまい人は、1曲しか入れてきません。
どの曲がもっとも自分に合っていて、
自分を演出できるのかを知っているから、
何曲も送ることは不利だからです。
日本では、そうした判断力の方が
プロとしては大切かもしれません。
プロは、自分を最も表現できる曲を1、2曲もっていればよいと思うのです。
1ステージを構成するのに必要な曲+αくらいあれば、充分です。
世界中のあらゆる歌を、すべてうまく歌える必要はないのです。
自分がプロとして通用する領域において、
最低限、必要な曲数をもっていればよいのです。
ですから、その領域―自分が有利に勝負できる世界を徹底的に知り、
そこで歌をものにしていかなくてはいけないのです。
プロとしてのレベルで1曲を仕上げるというのは、なかなか大変なことです。
その1曲の積み重ねをキャリアというのです。
子供が「1曲覚えた」「2曲覚えた」というような形では、
自己満足のレパートリーづくりにすぎません。
1曲の中にどれほどの課題があり、たった1曲でも、人に通用させるのが本当はどんなに難しいのかを知りましょう。
それを乗り越えた人だけがキャリアを積んでいくことができるのです。
※ヴォイストレーニングの見地からは、うまいものより、
そうでない素の魅力が欲しいところです。