[ひびきの線と「声の芯」をつけるためのトレーニング]
実際に歌を歌うとき、プロの身体は無意識のなかで必要に応じて動いていますから、
身体に負担などは、さほど感じていないでしょう。
だからといって、その声から歌い方を表面でまねるのではなくて、
身体の感覚から捉えましょう。
特に、息とメリハリの鋭さの違いを感じてください。息と音色が大きなヒントです。
ここからは、例えとして聞いてください。
欧米人やプロは70ぐらい、頭部のひびきで歌っているようですが、
きちんと胸部にも30のひびきがあるのです。
一般の日本人、特に若い人や女性の場合は、
頭部に30、胸部に5くらいがよいところかもしれません。
胸部は頭部の支えにもなりますから、ほとんどない胸部の上に頭部を伸ばすのは無理です。
素人の場合、胸部を意識しないで頭部を大きくしようとあせっています。
これでは、無理な発声のくせをつくる原因となります。
歌をコピーすることから始めると、どうしても頭部ばかりに目がいきます。
頭部は応用、胸部は基礎とでも捉えてみたら、どうでしょう。
基礎のないところに応用は効きません。
歌うことは、主として、頭部の領域です。
「ブレスヴォイストレーニング」は、胸部の強化を、もくろむものといってもよいでしょう。
胸部が30になることを考えてトレーニングをしたら、頭部が70になっていた。
こうなるのが、短期に大きな効果を出そうとするトレーニングの一つの方向性です。
(この短期とは、しぜんに10年たってかわらないことを、4年くらいで得ること)
主として胸部の部分は、声を出す深いポジション、つまり、日本人の発声の苦手とするところです。
胸部を最初に強化します。できれば胸部を50、頭部を50まで持っていってトータルで100の声にするのです。それができたら、歌うときには、自分で使いやすい比率でやればよいでしょう。
しかし、最初はかなり胸部に肩入れしてもよさそうです。
というのは、なまじ歌ったりしているとすぐ頭部ばかりの声になってしまいがちだからです。
日本語との問題でいうと、日本語の「アイウエオ」は、浅い息の上でかなり頭部寄りのことばです。
外国語には、胸部のところまでくる深い発音もあるのですから、歌うということに関する基礎づくりとしては、深い声の「AEIOU」、つまり、胸部をつくっていく方が有利でしょう。
ドレミのスケールで三音、半音ずつ上昇させたとき、最後の高い音に頭部のひびきがつくところがあります。ここが、あなたの胸部から頭部へ移るところなのです。
これは、スタッカートかレガートかでも、母音によっても変わります。ここで意図的に頭部に変わらず胸部のままのポジションで同じ音質の音、同じ発声をするようにトレーニングするのです。
(発声では、一時バランスを失い、間違いと思われかねないのですが。)
それは、同じお腹の使い方ではできません。最初は高い音ほど身体の支えを使わなくてはいけません。音が低いところから高いところへ行くにしたがって、ポジションが胸から喉の方へ上がるのはその差の分だけ、身体を使っていないからです。
多くの人は1オクターブ下での低い音を胸部で出すことができ、音質も同じようにそろっています。お腹を使うことで1オクターブ低いラから高いラまで同じように出せるようにしてください。
このように述べると、かなり特別な方法のように思われてしまうのですが、
「ブレスヴォイストレーニング」は、欧米人や俳優の言語、声習得のプロセスを後追いしているだけです。
個人差の大きいヴォーカリストの、自分にしか通じない技術メニュとは異なります。
個人メニュ(特にプロのもの)は、そう簡単に他人が使えるものではありません。