声、語り、歌、ヴォイストレーニング1日1話

声、語り、歌、ヴォイストレーニング1日1話

歌手、声優、俳優、芸人、ビジネス、一般、声に関心のある人に。
プロ、トレーナーも含め、トップレベルのヴォイトレ論を展開します。

ブレスヴォイストレーニング研究所 https://www.bvt.co.jp/
 

たとえ先生が100の能力をもっていても、

受講生が10のキャパシティしかなければ、

そこでは10分の1しか受け取れないわけです。

 

時間をかけ、じっくりと持続しなくては身につきません。

 

1、2カ月で上達しようと考えるのは、あまりに早急です。

でも、形だけなら、そういうようにできなくもありません。

 

このあたりまえのことが、体が楽器であり、

キャラクター的な要素もふんだんに関係してくる

ヴォーカルというパートにおいて、

実力というものがとてもわかりにくいものとなっています。

 

楽器の演奏なら、キャリアとして、その技量がすぐわかるのに、

ヴォーカリストの実力というのは、

いろんなものの総合力でわかりにくいから大変なのです。

 

だからこそ、まず、声から注目してみるのです。

 

 

たとえば、クラスで一番声の小さな人がヴォーカリストになりたいと

言ってきたとします。

その人を、それなりに声の力を感じさせるところまで変えていけますか。

その人が欲するのは、音色や声量には思い当たらないかもしれません。

 

多くのケースでは、声は変わらないとして、

ていねいに歌うことを教わることでしょう。

最初から、声そのものより、歌い方に焦点をあて、

多くのレッスンは、その繰り返しで終わっているのです。

ですから、すぐに上達に限界がくるのです。

 

まず、トレーニングというからには、

どんな人でも基礎の成果をもたらすところに

目的をおくのが本当ではないかということです。

 

それをトレーニングしていない人の

得られないものとすると、

はっきりするでしょう。

 

仮にその成果が芳しくなくとも、

その可能性を追求したうえで

次の段階で変わる余地をもたらすべきでしょう。

 

いろいろなスクールで、ヴォイストレーニングをやったけど

声は変わらなかった、という人が多くいらっしゃいます。

その先のことしか行わないからと当然です。

 

習おうとする人は、多くの場合、初心者です。

ですから、本人にとってのヴォイストレーニングの意味と必要性を

しっかりと理解させるところから始めるべきでしょう。

 

しかし、話を聞くと、

歌の上達のメニューばかりで、声のことには触れないようです。

実践的であり、すぐに実感できるものを優先しているのです。

それは、多くの人がそれを望むからです。

 

 

※声についてわからない初心者にとって、

歌や声を教える人というのは、

他の楽器などのパートに比べ、かなりの影響力をもってしまいます。

トレーナーもレッスンの受講生も、

声についてあまりに簡単に考えすぎているように思います。


 

初心者とプロのヴォイストレーニングには、共通することもたくさんあります。

 

ヴォイストレーニングをしても、声そのものへの効果、音色、パワー、メリハリ、安定、説得力などがないという人は、多くの場合、「調整のためのヴォイストレーニング」をしている場合が多いのです。

 

これは、その人のもっている器を目一杯に使おうというヴォイストレーニングです。

一般的には、こういうのがヴォイストレーニングの主流です。

 

これは、プロのヴォーカリストであったり、長年のトレーニングを経てきた人には有効です。

一流のアスリートなら、調子を崩したとき、休みを入れ、リラックスして力を抜くことが、基本的な対処法です。

それと同じように、この場合、ヴォイストレーニングは、リラックスさせること、脱力させることが中心でよいのです。

 

声楽家のように、何年ものトレーニングを行なってきた人には正攻法です。

教える方も教えられる方も、声を理解し、身につけてきたレベルにあるからです。

 

ところが、これを、これから歌いたい人、上達していこうとする人に、そのまま当てはめるのはどうでしょうか。

多くは発声の初心者です。声にあまり関心がなく、少しでも早く歌えるようになりたいと思っている人たちです。

私は、リラックスして声を出していくことだけでは、大した成果が出ないことを知っています。

しぜんとうまくなるのが理想ですが、時間がかかり過ぎるので、強化、鍛錬するトレーニングが必要であると考えています。

 

 

※声楽のトレーニングのように、本当に長い時間をかけて少しずつ身につけていくのが理想であるのは、間違いないことです。正攻法です。

しかし、多くの人は、すぐに役に立たないと思うと、そういうトレーニングをやめてしまうでしょう。

本来、五年、十年というトレーニング期間を考えつつ、もっと早く、最低限、声を安心して使えるまでの基礎が必要ともいえるのです。


 

たんにレパートリーの曲数を10曲、20曲と広げるのは、

キャリアとは違います。そこを勘違いしないことです。

 

たとえば、オーディション用のデモテープに何十曲吹き込まれていても、

私は1曲の出だしを聞けば、ほぼ充分です。

歌の評価は、それで、わかります。

 

うまい人は、1曲しか入れてきません。

どの曲がもっとも自分に合っていて、

自分を演出できるのかを知っているから、

何曲も送ることは不利だからです。

 

日本では、そうした判断力の方が

プロとしては大切かもしれません。

 

プロは、自分を最も表現できる曲を1、2曲もっていればよいと思うのです。

1ステージを構成するのに必要な曲+αくらいあれば、充分です。

世界中のあらゆる歌を、すべてうまく歌える必要はないのです。

 

自分がプロとして通用する領域において、

最低限、必要な曲数をもっていればよいのです。

ですから、その領域―自分が有利に勝負できる世界を徹底的に知り、

そこで歌をものにしていかなくてはいけないのです。

 

プロとしてのレベルで1曲を仕上げるというのは、なかなか大変なことです。

その1曲の積み重ねをキャリアというのです。

子供が「1曲覚えた」「2曲覚えた」というような形では、

自己満足のレパートリーづくりにすぎません。

 

1曲の中にどれほどの課題があり、たった1曲でも、人に通用させるのが本当はどんなに難しいのかを知りましょう。

それを乗り越えた人だけがキャリアを積んでいくことができるのです。

 

※ヴォイストレーニングの見地からは、うまいものより、

そうでない素の魅力が欲しいところです。

 

他人様を満足させるために

必要なものを身につけるのは、大変なことです。

 

ところが、そういう努力をあたりまえのように続けていると、

あるレベルを超えます。

 

すると、今度は、他の人は満足してくれるけれど、

自分がなかなか満足できなくなってきます。

 

自分に対するチェックが厳しくなっていくのです。

 

お客さんは、歌にお金を払って見にきます。

それに応じられ、アマチュアの人が聞いてもわからないところで、

プロとしてのレベルでのミスをしたり、

表現が充分にできなかったりして、

また新たな課題ができていくのです。

 

こういうレベルになってはじめて、

どんな人も、足を止め、口をつぐみ、耳を立て、

感動する歌になるのです。

 

そこまででなくてはプロとは言えないのです。