【10階建て18戸のほぼ完成したマンションと景観による取り壊し】
建築着工して1年半。ほぼ完成して来月7月には買主に引き渡しされる予定だった分譲マンションが、住民からの「富士山が半分見えなくなった」という抗議で、一転して取り壊す決定をしたというニュースには驚いた。
物件は「積水ハウス」が建設していた分譲マンション「グランドメゾン国立富士見通り」。地上10階建て、18戸を7千万円から8千万円台を中心に販売し、専用面積は約70平方メートルでJR国立駅から徒歩10分の地。
【法令にも準拠】
法令にも準拠し、国立市景観条例にも配慮し、21年6月に国立市まちづくり審議会で「景観を損なう」と指摘されて、積水ハウスは当初の11階建てから10階建てに変更し、デザインも大きく変更した。22年7月の同審議会は「一定程度の対応があったと考えられる」「さらなるボリューム感の低減と工夫が望まれる」と指摘したそうだ。
ちなみにマンションが面する富士見通りは「近隣商業地域」に指定されていて、建物の高さは31メートル(10階建て)もしくは28メートル(9階建て)に制限されている。それもクリアされていた。
それが建築が進むにつれ、駅方向から見えていた富士山が、半分しか見えなくなった、というクレームがSNSに載り始め、住民からも富士山が半分しか見えないと声が出始める。近隣住民は、当初から「4階建てにして」と声を上げていたとも聞く。
1997年に制定された国立市都市景観形成条例では、市は「周囲に較べ高さや大きさのある建物の景観的工夫」として「大規模な建築物の建築を行う際には、関係者と連携・協働し、周辺の景観と調和するよう指導します」としている。基本的にはお願いベースなのだろう。
【解体でどれほどの費用が発生するのか】
ネットでは、今回の解体決定で、土地取得費用、建設費、解体費、購入者への手付金倍返しや損害金などで100億円近くになるのではないか、という記事もあった。
積水ハウスといえば、五反田での約55億円の地面師詐欺事件が有名だ。大きな会社にとっては大した金額ではないのだろうか。
マンション建設での日照権・住環境保護などでの反対運動は数えきれないほど昔からあるが、法律を遵守しているとして業者が建設を強行するのが通例である。裁判に訴えても、ほとんど住民側の意見は通らない。行政でも、原発再稼働や辺野古基地ほか、数々法律の順守を盾に強行するのが常である。
地元では、2001年に完成した「クリオレミントンヴィレッジ国立」マンションについて、住民らが20メートルの高さを超える部分の撤去と慰謝料を求めた訴訟があったが敗訴したことがあった。
今回のような、住民からの「富士山が見えない」「景観を守れ」との声で、できたばかりのマンションを解体までしてしまうのは稀有の例だ。
都内では、マンションの建築で、自宅からいままで見えていた富士山が見えなくなったという例は星の数ほどある。今回のマンションでも同社のHPでは、上の階からは富士山がよく見えると宣伝していたようだが、更に南側に高いマンションが建てばこれも見えなくなるのは必定だ。
【今後の交渉での貴重な事例】
建築確認が下りた前後から、近隣住民とどのような協議がなされてきたのか不明だが、初期段階での対応の不備があったとしか思えない。最近まで地元の住民や行政で大きな問題になっているという報道は聞かなかった。
何か建築上で大きな法令違反の問題が発生したのか、そうでなければ、積水ハウス社のブランドイメージを守るための決定なのか。
今後は、全国のマンション建設紛争で、住民側の要望を受け入れる格好の例ができた。「積水ハウスさんでできたことなのだから・・・」。