まず、感情ってなに?という話から始めます。

気持ちをあらわす言葉は、どう使い分けされていますか。

 

フィーリングが合う、などと言いますね。

「feeling」は、「気持ち」くらいの意味です。

瞬間的な「喜」「怒」「哀」「楽」は、「emotion」です。

日本語では、感情、情動、情緒、になります。

私のブログでは「感情」を使うことにします。

ちなみに、感情や情動は、「天気」に例えられ、

気分や情緒は、「天候」に例えられる、もう少し持続的なものです。

情緒といったら、私は、少し、共感的な意味が含まれるように感じます。

 

ひどい癇癪で泣き続ける子どもに対して、

それがもし、ただの我儘なら、取りあわない方がよいです。

消去しようとすると一時的に癇癪が増強することを「消去バースト」と言います。

しかし消去を続けていれば、癇癪はそのうち減ってくる「はず」です。

「子どもが癇癪を起こしたら、抱きしめて、欲求を満たしてあげてください」という指導は、ABAの考え方とは真逆になります。

 

基本的に、子どもが、目的を達成したら泣き止む場合は、

「泣けばよいことがある」という誤学習であり、かけひき、です。

ただ私は、自閉症児の癇癪(またはメルトダウン)のなかに、それ以外のものがあるように感じています。

自閉症のお子さんは、しばしば、不安や怒りの感情が、抑えられません。

幼い子どもなんてみんなそうかもしれませんが、自閉症児は、その程度が明らかに強い、破壊的、な、ほどのことがあります。

予定通りでなければダメなんだという強いこだわりも、強烈すぎることがあります。

自閉症児の親の育児ストレスが非常に高くなる原因は、まずここにあります。

育児ストレスは、自閉症児の親の77%で明らかに高い。

そのストレスの度合いは、定型発達よりも大きく、また知的障害や脳性麻痺など、他の神経発達症を大きく上回ります。 *1

単純な比較はできませんが、自閉症児の子育てには、

医療的ケアが必要なお子さんの育児とは、べつの形の大変さがあります。

 

過去記事(21)でも取り上げましたが、

 

 

自閉症児の親の育児ストレスは、自閉症自体の重症度や知的障害の程度よりも、

併発する行動上の問題 ~攻撃性や多動性など~ に関連して大きくなることが分かっています。

 

さて、

自閉症児のひどい癇癪の原因は、コミュニケーション、意思疎通が上手くいかないためかなと私は思っていたのですが、

それだけではないようです。

 

失感情症(Alexithymia、アレキシサイミア)、をご存じですか。

自閉症者、成人では、ほぼ半数が「高度の失感情症」で、一般人(5~10パーセント)よりずっと多いと言われています。 *2

失感情症といっても、感情が欠如しているのではなく、自分の感情を理解したり、他人にそれを説明したりすることが非常に難しいのです。*2 *3 *4

自分の感情を特定できなければ、感情の調節ができなくても仕方ないです。

 

つまり、

自閉症者の約半数が、失感情症で、

そのために、感情調節(ER; Emotional Regulation)不全になる

ということになります。 *13

 

失感情症では、扁桃体などの脳内部位の機能低下があり、感情調節不全や衝動性と関係していると考えられています。 *5 *6

 

ここからは、

私が読んで面白かった日本語論文を、2つ、ご紹介します。 

 

まず1つめ  *7

相手への共感」について。

共感には、以下の①②があります(なんとなく、わかります??)。

① 相手の心の中、気持ちを理詰めで考えるような「クールな」認知的共感

(例)「パパが今日いないから、きっとママは寂しいだろうな」

脳内部位として、側頭頭頂結合部などが関係する。

② 相手の身体の痛みなどを表情などから察するような「ホットな」情動的共感

(例)「ママ痛そうな顔してる、かわいそう」

脳内部位として、扁桃体などが関係する。

 

●自閉症者は、認知的共感が弱く、情動的共感は、一般人と差がない

ただし、

●自閉症者の約半数は、失感情症を伴うため、情動的共感も弱くなる。

 

※ ですので、例えばですが、

多くの自閉症児には「自分がされたら嫌なことは相手にもしたらだめ」は、通じないです。 *8

相手の感情が分からないからです。

 

 

 

次、2つめの、面白かった日本語論文  *9

人は誰でも、マイナスの感情をやりすごす(乗り越える)ための、自分なりの対処の仕方を、いくつか持っているものです。

「マイナスの感情への対処方法」が、自閉症者と一般人で違う、という内容です。

自閉症者は、【反すう】、【他者批難】、【常同行動】、【独話】、【自己刺激】、【泣く】、【人や物への攻撃】、【不活動】といった感情調節方略を用いることが多いという特徴があった。

一方、自閉症者は、【問題解決】、【認知的再評価】、【受容】、【リラクゼーション】といった感情調節方略を用いることが少ないという特徴があった。

自閉症児の【泣く】とか【人や物にあたる】といったような癇癪も、

マイナスの感情への、自分なりの対処方法なのでしょう。

 

たとえば私だって、

欲しいものが得られなければ、嫌な気分になるのは同じですが、

そこは切り替えられます。

「大人げないことはしない」などと、自分に言い聞かせます。

あるいは、他のもので代用して、まっ、これでいいや、みたいな。

【リラクゼーション】まだ私には、クラシックよりも、ロックの方が、気持ちが落ち着くみたいです。あるいは、

一人のクルマのなかで叫んでみたり? etc。

 

自閉症のお子さんに教えていくことは、本来そういうことではないかな?と思います。

どうすればいいでしょうか。

ABAセラピーの海外のこのWEBサイトにも、

コーピングスキルを教える」という提案があります。 *10

コーピングスキルとは、ストレスに対してうまく対処するテクニックです。 *11

 

スキルには種類があり、すべての人に有効な方法はありません。

たとえば、音楽を聴きながら歩き回る人もいれば、深呼吸法を実践する人もいますし、外に出て自然を楽しむ人もいます。

子どもが個々に最適なコーピングスキルを見つけられるようサポートすることが大切です。 *12

 

 

まとめます:

自閉症者の約半数は、自分の感情を相手に説明することが上手くできません。また、相手の気持ちに共感することも苦手です。感情調節が上手くできず、そのために癇癪が多くなってしまいます。ですから、自閉症児の癇癪への対応は、消去(+正しい行動を教える(分化強化))だけでは難しい場合があり、その場合は、マイナスの感情への自分なりの対処方法(コーピングスキル)を教えていくのがよいと思います。

 

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*1.

 

 

*2.

 

*3.

 

*4.

 

*5.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6226305/

 

*6.

 

*7.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/62/1/62_39/_pdf

 

 

*8.

https://www.pref.oita.jp/uploaded/life/2216828_3952286_misc.pdf

 

*9.

https://i.kawasaki-m.ac.jp/mwsoc/journal/jp/2021-j30-2/P431-443_okano.pdf

 

*10.

 

*11.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jotr/42/2/42_151/_pdf/-char/ja

 

*12.

 

*13.

JASPERやSCERTSといった、感情調節を考慮に入れた療育方法があります。

私は、「JASPER」の「ER」は、「ER; Emotional Regulation」のことかと思っていましたが、

「JASPER」のほうは「Engagement」「Regulation」です。

ただし「JASPER」療育が、感情調節を含んでいないわけではなく、「Regulation」が感情調節の意味になっています。

「SCERTSモデル」の「ER」は、「ER; Emotional Regulation」のことです。