「スペクトラム」の意味は、連続体、です。

よく見るのは、このような図です。 ↓    

 

*1より改変)

 

「自閉症の特性は、重度から軽度まで連続する」ということです。

 

論文(Molecular Phychiatry誌)には、以下の図が出ています: *2

 

 

赤(ASD)、緑(コントロール;定型発達)です。

自閉症の中の、重度と軽度の連続だけではなく、

自閉症(赤)から、定型(緑)まで、連続した絵になっています

 

上の図、横長の長方形、赤と緑の2つがありますが、これは胎児発達の4段階で、

緑(コントロール)は、赤(ASD)と比べて、

神経細胞同士の結合が豊富に発達しています。

 

緑(コントロール)と赤(ASD)の中間は、どうなっているでしょうか。

 

イメージ的には

すべての細胞が赤なら、重度ASD、

すべての細胞が緑なら、定型発達、

赤の細胞と緑の細胞が入り混じる、あるいは、

中間色の細胞がある場合、その割合により、中等症~軽症のASDになります。

 

じつは私は心の底で、まだここを完全に納得はしていなくて、

ASDと定型発達とは、「質的に異なる」一線がきっとあって、

「連続はしていない」のではないか、と疑っています。

(まあここは、エビデンスに反するというか、世界中の多くの専門家の見解に反する、個人の思い込みに過ぎないのですが)

(たとえば、ASDと定型は、6と7の量的な違い、とか、そういうことかもしれないけれども、7になるとAというスイッチがONになって、質的に異なるものになる、のではないか?といったことを、自分の中の仮説としています)

 

下の図は、杉山登志郎先生の特別講演の一部です。*3

右側の三角形がスペクトラムで、ASDから一般人までが連続した絵になっています。

 

 

おそらく、右の図の斜め矢印上方に「軽い」と書かれたあたりまでがASDで、

BAP(発達凸凹)は、ASDには含まれない、と理解します。

発達おうとつ(凹凸)ではなくて、文字の並び、凸→凹の順ですから、「発達(でこぼこ)」と読むそうです。

 

整理しますと、

 

非定型自閉症(PDDNOS)は、2013年以前の診断基準(DSM-IV)で、広汎性発達障害に含まれていたもので、現基準(DSM-5)の自閉スペクトラム症に含まれますが、

BAP(発達凸凹)は、「自閉スペクトラム症」には含まれません。

 

つまり

今の基準で、医師が「軽い自閉症ですね」と言った場合は、以前のPDDNOSの可能性があり、「自閉症の気(け)はありますが、診断に至りません」と言った場合は、BAPなどの可能性があるということです。

 

以下の図は、児童精神科医の吉川徹先生のご講演の一部です。*4(17ページ)

 

2% 自閉スペクトラム症中核群 ←ASD

5% 自閉スペクトラム症広域表現型 ←BAP(発達凸凹)

10% 非障害性自閉症スペクトラム(ASWD)

 

 

「うちの子は、どこに含まれるのかな?」

そう思われた保護者様がおられると思います。

「自閉スペクトラム症ですね」と診断されているなら、軽症であっても、「2%」のところに入ります。

 

 

 

BAP(発達凸凹):診断基準を満たさない「自閉傾向」

子どもがASDと診断された後で、親が自分自身を顧みると、自閉症の症状に思い当たるけれども、それほど深刻ではない可能性があります。*5

こういうのが、BAPと言われる状態の例です。

それは例えば、友情の維持に苦労すること、交流に乏しいこと、ぎこちなさ、などに現れます。

診断方法の一つとして、BAPQという質問紙調査があります。*6

 

 

ASWD

いわゆる「グレーゾーン」、と書いていいのかどうか分かりませんが、人口のおおむね1割ということから、私はそのように理解しました。*7 *8

 

海外では、閾下(自閉症の診断に至らないくらい)であっても、児童期に症状があったら社会的予後はもう全て悪いので、早期対応をすべきだというコホート研究の論文が出ています。  *9    *10

大切なことは、グレーゾーンに、グレーゾーンの診断をつけてそのままにしておいたり、無理やりASDの診断をつけることではなく、

例えば「コミュニケーション症」の診断をつけて、適切なコミュニケーション支援につなげることです。*11

 

 

私がこの記事にここまでこだわって書いた理由は、

たとえば自己診断で「私は自閉症」と言った人がいる場合、

ASDなのか、BAPなのか、ASWD(またはグレーゾーン)なのか、

そこが通常あいまいですので、

自閉症者の離婚率とか、

自閉症児が療育によりその診断から外れる確率とか、

自閉症児へのABAセラピーの有効率とか、

そういった統計が、信頼できないものになるということです。

 

だから研究者として、可能な限り、診断や定義をきちんとしておきたいのです。

 

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ところで最近では、

自閉症のスペクトラムを、直線状の濃淡として理解するのではなく、

ホイール(円グラフ)として理解しようという提唱も出てきています。 

*1  *12  *13

 

あるページ(*12)の中ほどの図を見ると、直線状のスペクトラムに、X印(バツ印)までつけられています。

濃いか薄いか、それだけのことではないですからね。

 

この図(*13)のように、個々のプロフィールを作ってあげられれば、一人一人の特性をもっとよく理解してあげられるように思います。

 

 

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一人の自閉症の人に出会ったら、一人の自閉症の人に出会ったことになる

*1 *14

 

スティーブン・ショア博士の言葉だそうですが、私、2,3度読んでも、意味がよく分かりませんでした。

もとの英文でも同じでした。

If you've met one person with autism, you've met one person with autism.(注.文献により、時制を違えた引用もありました)

 

これは、

 

一人の自閉症の人に出会っても、一人の自閉症の人に出会ったことにしかならない

 

そういう意味なら、分かる気がします。

 

子どもさん一人一人みんな違いますから、点や線で理解しようとしないように、

ほかの子どもさんの例で代用しないように、

自戒したいと思います。

 

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ここまで読んでいただいた方へ、ささやかなプレゼントです。

スペクトラムと言えば、これもありましたね。

お楽しみください。

私が学生時代に、何度もLPレコードで聴いた曲の一つです。

私と同じ年代の人にしか分からないかもしれませんけど。

(いや、この楽しい曲を知っている人は少ないぞきっと)

聴きたいと思った昔の曲が、検索ですぐ聴けるという、

いい時代になりました。

 

 

 

*1.

https://mosaicofminds.medium.com/five-ways-someone-can-have-autistic-traits-but-not-actually-be-autistic-9be0eb1041a4

 

*2.

 

*3.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/shonijibi/35/3/35_179/_pdf/-char/ja

 

*4.

https://www.shssc.jp/images/212.pdf

 

*5.

 

*6.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsnr/advpub/0/advpub_20211011153/_pdf/-char/ja

 

*7.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ninchishinkeikagaku/19/1/19_33/_pdf

 

*8.  

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscap/58/4/58_537/_pdf/-char/ja

 

*9.

 

*10.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7931149/

 

*11.

 

*12.

 

*13.

 

 

*14.