自閉症児は、
4歳か5歳までに話せなければ、一生話せないだろうと言われてきました。
*1 *2
そんなことはないです。
では、
5歳を過ぎても話せない自閉症児は、どのくらいいるのか、
「話せない」とは、どういうことか、
話せるようになるために、医療者として、できることはあるのか、
そういう、自分自身の疑問に答えたいと思い、記事を書きました。
5歳を過ぎても話せない自閉症児は、どのくらいいるのか
まず、
自閉症、イコール、話せない、ではありません。
自閉症の特徴は、社会性・コミュニケーションの障害ですので、
言葉を話す能力は、遅れていないお子さんもいます。
いつも相手の質問と関係ない内容を話したり、
場面に合わないことばかり話したりする場合、
話し言葉は遅れていなくとも、自閉症の診断がつく場合もありえます。
一方、発語が無い児でも、
ジェスチャーやアイコンタクトで意思疎通が十分できれば、
自閉症とは言えないことになります。
それでも、言葉の遅れをきっかけに、診断に至る自閉症児は、少なくはないです。
2001年の海外の統計では(*1に引用、記載あり)、
自閉症児の半数以上が、就学までに、話し言葉を習得できなかったとされています。
2013年の論文には、 *1
自閉症児・者の約30% は、さまざまな教育機会を得た後でも、最小限の言語能力しか持たないと推定される、と記載があります。
2021年の論文には、 *3
自閉症児の約25~30%は、5歳になっても数語しか話せず、最小限の言語能力しか持たない、と記載があります。
こうしてみると、近年、言葉を話せない自閉症児の割合は、以前よりは少し下がってきているようです。
今後また下がる可能性がある、と私は思います。
その理由は、
以前なら診断されなかったような、軽度の自閉症、または言葉の遅れを伴わない自閉症が、多く診断されるようになってきたこと、
また、早期療育の普及や療育テクニックの進歩、
などが考えられます。
「話せない」とは、どういうことか
一般論として、「言葉が出る」とか「話せる」というのは、
「ママ」「ブーブー」「ワンワン」のような「意味のある単語」が出ること、と考えてよいです。 *4
それ以前の、赤ちゃんの、クーイング(Cooing)や、喃語(Babbling)、は、「話せる」うちには含めません。
お誕生日前の乳児なら、喃語しか出なくても、異常ではありません。
「前言語(Pre-verbal)(の時期である)」と定義できます。
「非言語(Non-verbal)」とは、おおむね1歳6か月を過ぎても、意味のある単語の表出がない場合です。
年齢で考えることが大切で、
1歳6か月で「非言語」というのと、4歳で「非言語」というのでは、
意味合いが大きく違うことになります。
「最小言語(Mimimally verbal)」の定義は、研究によって異なるようです。
*1 *5
提案として、
1歳6か月で 5 語未満、2歳6か月以上で 50 語未満、というものがあります。
(2歳6か月以上で 50 語未満かあ、厳しいなあと思われた方もおられるかもしれません、あくまでも、目やすです)
つまり、最小言語(Minimally verbal)とは、
単語は使用しているのですが、年齢から期待されるより大幅に少ない場合です。
*5
下位10 パーセンタイル未満になり、また、2 語の組み合わせが始まる通常の語彙レベルということですので、
私も、「最小言語(Mimimally verbal)」の定義は、この提案が良いと思います。 *6
「最小言語(Mimimally verbal」は、「単語数が少なく、2語を組み合わせた「フレーズ・スピーチ」を使用しない者」と、できれば統一してほしいと思います。
「自閉症児が話せない」といった時に、
専門の論文でも、
非言語(Non-verbal)と最小言語(Minimally verbal)が、しばしば、一緒にされています。
例えば、「重度の言語発達遅延のある自閉症児の多くが、4歳以降に話すようになった」という、小児科の論文があるのですが、 *7
この意味するところは:
「4歳まで、最小言語(Minimally verbal)だった自閉症児の約7割が、4歳以降にフレーズ・スピーチするようになった」という主旨、と分かりました。 *7
4歳までは少ない単語を言うだけだった児の多くが、4歳を過ぎてから、「赤いバラ」のような、単語の組み合わせ(フレーズ・スピーチ)をするようになった、とか、そういう内容です。
(注. フレーズ・スピーチ(phrase speech)は、2語を組み合わせてフレーズになればよいので、「パパ、来た」みたいに、動詞はなくてもよくて、二語文とは、少し違う意味になります。)
一方、非言語(Non-verbal)についてはどうかといえば、
4~5歳まで非言語(Non-verbal)の自閉症児が、その後話せるようになるかは、
研究としては、じつは、あまり大規模には調べられていません。
それでは、
5歳まで非言語(Non-verbal)の自閉症児は、その後話せるようにならないかといえば、そんなことはありません。
ABAセラピストの先生なら、
「5歳まで非言語(Non-verbal)の自閉症児で、その後話せるようになった」ご自身の療育経験例は、お持ちのことと思います。
また論文も、一事例の報告や、少数例のまとめなら、いくつかあります。
話せるように「なるために」、医療者として、できることはあるのか
話せるように「するために」とは、書きませんでした。
私がするのではなく、子どもさんたちに「自分で伸びて欲しい」のです、
私は医療者として、子どもさんの自然な成長を損ねることなく、伸びるお手伝いが出来ればと思っています。
親御さんからすれば、
わが子に言葉が出て欲しい、というお気持ちはとても強くて、
医療者としては痛いほどよく感じます。
私たちがしてあげられることは何か、考えています。
5歳を過ぎても話せるようにならない自閉症児の予測因子は:
(文献から探し出せただけでも、ざっと、以下①~⑥がありました、ただしどれも、はっきりと確立したものではありません)
①非言語性IQや社会性が高くない *7
②口腔運動能力の発達に大きな遅れがある *1
③共同注意スキルが高くない *1
④言葉のない児のなかでも、発する音の数が少ない *8
⑤単語が一つも出ていない *1
⑥不注意が高く、社会的動機が低い *1
※こだわり/反復行動の程度は、言語獲得とは、あまり関係ない、らしいです。
⇒ つまり、5歳以降に話せるようになるためには、
やはりまず、早期療育をしておくのがよい、と読めます。
①はDTTなどのABA、②は作業または言語療法、③はABA (JASPERかもしれません)
④⑤は音声模倣、⑤はマンドトレーニング(VB)などがよいかもしれません。⑥はABAのなかでもナチュラルな方法、あるいは薬剤の使用も選択肢になりえます。
そして、4~5歳を過ぎたら、PECSなどの拡大的代替コミュニケーション(AAC)の使用も勧められると思います。
PECSをすることは、自発語を諦めることにはなりません。
では、PECSが、音声言語の増加を促進するのか、というと、
その証拠は限られている、とも言われますが、 *1
たとえば、年少児を対象とした、Schreibmanの有名な論文(ランダム化比較試験)によれば、
PRTとPECSで、同じレベルで、療育後の単語数が増えています。 *9
それから。
私は、別なことも考えています。
希望的な論文を、以下に2つご紹介します:
一つは、音楽(リズム)の利用、もう一つは、タブレットやコンピューターの利用です。
この2つは、私たち自身で勉強して、発展させれば、将来的に臨床研究として、病院でも行える気がしています。
音楽(リズム)の利用には、「聴覚運動マッピング訓練」があります。
*10 *11
音楽能力の優れた自閉症児が、楽しんでトレーニングできるようです。
たとえば
「あ」の音を出すために、特定のイントネーションで「あー」と歌いながら、特定のリズムでドラムを叩き、
「い」の音では、別の特定のイントネーションで「いー」と歌いながら、別の特定のリズムでドラムを叩き、
といったことを繰り返す方法、と理解しました。
論文では、5~9歳の非言語(Non-verbal)自閉症児6名全員が、音を明瞭に作り出せるようになりました。
こうやって、発声できる「音」の数を増やしていって、言葉を作ることを目指していくんです。
タブレットやコンピューターの利用については、すでにいくつかの臨床研究が行われていて、結果がレビューされています。 *12
13個の臨床研究のうち5個で、語彙を増やすことに有効、という結果が出ています。
ただ残念なことに、年長の非言語自閉症児を含むある研究では(Chebli、2019年)、
タブレットを使うよりも、指導者が紙に描いて教えたほうが、概念の維持が良好、という結果になっていました。
タブレットは(学ぶものではなく)遊ぶもの、として慣れているのかもしれない、と議論されています。
語彙増加の目的でタブレットなどを導入するなら、よく考えておかないといけないと思いました。
まとめです。
「自閉症児が話せない」といった時に、
現状では、専門の論文であっても、
非言語(Non-verbal)と最小言語(Minimally verbal)が、しばしば、一緒にされています。
医療は、より症状の重い、非言語(Non-verbal)の年長のお子さんにも、向かい合う機会がわりと多いので、
非言語(Non-verbal)を、最小言語(Minimally verbal)とは区別して、エビデンスを調べ、また、エビデンスを作っていくことが、本来、望ましいと、私は感じます。
*1.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3869868/
*2.
*3.
*4.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7377965/
*6.
いろんな文献があるのですが、定型の場合、2歳までに単語数100以上、3歳までに単語数300~500以上使う、とされています。この記事の本文中には書くのは控えました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6808344/
*7.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9923624/
*12.