息子と私

 

私の息子(現在7歳)を、自閉症と診断したのは、私自身です。

2歳7か月の時です。

息子は、親とはよく目が合い、よく声を出して笑う子でした。

活発な子どもで、9‐10か月の乳児健診では、

一人で会場内を自由自在に歩き回っていました。

言葉は、1歳6か月健診時、まだ「ママ」「わんわん」「めんべ(めがね)」しか出ていなくて、

2歳を過ぎても増えませんでした。

2歳4か月でとつぜん国旗を覚えはじめて、

ヨーロッパの国旗を見て、国名をすべて正確に区別して言えたときは、

この子はじつは天才だったんだと(まじめに)思いました。

ただ、この子には、指示が通らず、

「ダメだよ」が分からず、「待つ」ことができず、

自分の要求が通らないときの癇癪は、猛烈に激しかったです。

 

そして今、

息子は活発で明るいままで成長し、

両親には、息子を通した、新しい知り合いの方がたくさんできました。

今までに、私が出会い、知り合った方々は、

保護者の方も、療育関係の方も、それ以外の方も、

どなたも、素晴らしい方ばかりで、

私の財産です。

こういう方々との繋がりを、これからも大切にしていきたいと思っています。

 

  ごく最近、自閉症と診断されたお子さまの保護者さまへ

 

小さなお子さまが、ごく最近、自閉症と診断されたという、保護者さま、

 

いろんな思いがあるだろうと思います。

私は、小児科医として、

また、自分自身が自閉症の子どもを持つ親として、

「これから一緒に、長期間、お子さまたちの成長を見守りたい」

そんな気持ちで、臨床研究を立ち上げました。

 

この研究に参加されて、私たちと一緒に、お子さまの成長を見守っていきませんか。

 

この研究にご関心のある方は、お気軽に、

このブログから、メッセージでご連絡ください。

または、お問い合わせフォームをご利用ください。

 

 

説明文書などをお送りします。

 

 

  自閉症小児の長期予後を明らかにする多施設共同観察研究

 

自閉症と診断された幼児が、小学校に上がる頃、どのように成長しているのか、

100人を目標に調べる研究を、いよいよ開始します。

(採択から、プロトコール作成・倫理承認まで、

たいへんな苦労をしました)

国立病院機構のEBM・ネットワーク共同研究です。

 

(https://job.mynavi.jp/conts/f/97589_26/index.html より引用)

 

 

私の研究は、前向き研究で、

新しく診断されたばかりの、就学前のお子さまを対象とします。

 

研究の目標は、

ABA療育をしたお子さまと、

しなかったお子さまで、

成長が違うのか、どこがどう違うのか、を調べることです。

 

「ABAが週に何時間行われたか」、「ほかの療育や医療を併用したかどうか」は、問いません。

あくまで、

「正しいABA療育を一定期間受けたお子さま」と、「そのほかのお子さま」を比較します。

 

「正しいABA療育かどうか」は、この素晴らしい専門家の先生方に、確かめていただけることになりました:

井上雅彦 先生 (鳥取大学)

山本淳一 先生 (慶応義塾大学)

渡部匡隆 先生 (横浜国立大学)

 

医療機関としては

国立病院機構新潟病院

国立病院機構肥前精神医療センター(佐賀県)

国立病院機構南和歌山医療センター(和歌山県)

国立病院機構七尾病院(石川県)

ほか、国立病院機構以外にも、

岩手県、栃木県、群馬県、東京都、大阪府、鹿児島県の医療機関に、協力をお願いしています。

 

 

  この研究の意義

 

以下は、この研究開始にあたり、私が作成した研究計画書の一部です。

「本研究の意義」の箇所です。公開いたします:

 

 

ABA療育は、応用行動分析(学)(ABA)という学問の原理に基づく療育方法である。

ごく簡単に言えば、「行動の直後に、よいことがあれば、その行動は増える」という原理で、

よい行動は褒美を与えて増やし、よくない行動は褒美を与えないことによって減らそう、という考えに基づく療育である。

つまり、ABA療育は例えば、全く未発語のASD児が大人の音声を模倣して何らかの音を発したら、すぐに褒美としてその児の喜ぶものを与えるようにすれば、その後その児が音声を発する行動が増えていくだろうと期待して行う療育方法である。

具体的 なプログラムとしては、初級課題として「椅子への着席」にはじまり、「マッチング」「音声指示」「動作模倣」「音声模倣」などがマニュアルとして細かく規定されている。

一方で、ABA療育は「よくない行動(癇癪など)には褒美を与えない(取り合わない)」ことを推奨するものであり、「泣き続ける児の欲求に屈しない」というこの手法が冷たい育児のように見えることがあり、将来PTSDになるのではないか、などと批判される場合がある。

また、よい行動に褒美を与えるやり方が動物の調教のようだとしばしば揶揄される。

ABA療育が米国で始められた20世紀末頃には、よくない行動に「罰」を与える手法が行われていたこともあり、現代の世界のABA療育では「罰」の使用は既に行われていないにも関わらず、以前の印象から、現在の日本でも一部に根強い偏見が残っている。

日本には、英国のNICE(National Institute for Health and Clinical Excellence http://www.nice.org.uk)のような、国家的なASD診療ガイドラインがなく、現状、医師のほとんどは、ABA療育について何も知らないか誤解しており、これが国際的に唯一ASD児のIQを伸ばすエビデンスがある療育方法であるにも関わらず、親に勧めることができていない。

あるいは、療育の目的により、どのような療育を受けると児がどう育つのかという情報を、親に提供することができていない。

ほとんどの親は、児が2~3歳ころにASDの診断を受けた後、どのように早期療育を行えばよいのか、医師から明確な指導を受けていない。

児は診断後、通常、病院で「感覚統合療法」などを主体としたリハビリ(ST、OT)を受けるか、または市町村または民間の発達支援事業所でなんらかの療育を 受けるが、児のIQまたはDQを伸ばす(知的に伸ばす)ということについて、これらのABA以外の療育方法に明確なエビデンスはなく、医師はその効果を親に説明できていない。

なかには「療育をしても変わらない」と最初から否定的に説明する医師もいて、鬱状態になる親も存在する。 

ABA療育は、現状、日本では、一部の非常に熱心な親のみが、個人的な検索でようやく到達できる情報であり、セラピストの家庭訪問により高密度に行う場合には公費負担がないため、経済的に余裕がある家庭でないと、児に受けさせることができない。

一般周知にほど遠いだけでなく、ABAには反対派の医療者、療育/教育関係者の存在もあり、ABAが短期的に有効と言われている一方、成人期にPTSDを起こすという報告もあり、一般家庭への情報は混とんとしている。

まずはABA早期療育を受けた児が、どの程度知的に伸びたかという、日本国内での、信頼に足る、多数の症例をまとめた臨床研究が必要と思われる。

現状、児を育てるために藁にもすがりたい気持ちになる親にとっては、ABA療育も他の療育方法も、「医師から勧められたものではない」点では違いはなく、三角頭蓋手術、反復経頭蓋磁気刺激療法、幹細胞移植など、いくつかの自由診療の情報に混乱し、心理的にも経済的にも追い詰められた家庭も少なからずあると見受けられるが、これはASD児への療育に明確な情報、指針がないためである。

このような現状を鑑み、国民が信頼できる情報を作ることは、国立病院機構の使命として、喫緊の重要課題であると考えられる。

日本の最近のASD児の長期予後の研究は、ASD児170名を20年間追跡した縦断的出生コホート調査であるが、「ABA療育などの療育」の効果について触れていないので、ここが今回計画した研究との最大の差別化になると考える。

とくにASDの診断基準が2013年に変わったため、その後の同一の基準で診断されたわが国のASD児の長期的な予後について、ABA療育の有無で違うのか、IQなど知的な面だけでなく、不適切行動の減少にも有効であるのか、あるいは、療育のために、逆に精神心理的に苦悩を増やす結果になっていないかを調査で明らかにしたい。データの信ぴょう性を高めるため、100例前後の規模での前向き観察研究で行う研究計画とした。

 

ASDはスペクトラムとして理解され、その連続性ゆえに一括された診断になるが、臨床的には言語発達の遅れを契機に診断されることの多い古典的なKannerタイプのASDと、対人関係やコミュニケーションの困難を主とする高機能ASDについては、療育の効果や長期予後が異なる可能性もある。また、IQとは別に、SRS-2などの方法である程度の評価が可能なASD自体の重症度によって、予後が異なる可能性もある。

ABA療育により、 IQ(またはDQ)に限らず、情緒の問題、不適切な行動や「こだわり」行動、また、感覚過敏などの程度が変化するかについても、併せて検討を行いたい。 

なお、日本国内のASD研究者数名に伺うと、ほとんどの方が「長期予後の研究は絶対に必要だと思う」と感じていることが分かった。

しかし、通常の研究では短期的な成果が求められることもあり、実際に長期予後の研究を志す研究者はほぼいない状況である。

NHO共同研究の期間が5年に延長されたこのタイミングで研究を進めたいと考える。

さらにこの研究の成果をもとに、5年間の研究期間終了以降に、別の研究として、本研究の対象者につき、4年後以降の長期予後を調べる第2弾研究を計画したいと考えている。