しばらくは、「不登校の子どもと自閉症」のテーマで、短めの記事を連載していく予定です。

この記事は、3回目です。

この連載記事の、最終的な結論は、未確定です。

みなさまのご意見を反映していきたいと思いますので、

お気軽にコメントをいただければ嬉しいです。

 

 

1. 不登校は、「病気による長期欠席」は、含まない。

2. 不登校のうち、「身体の不調」を最初に訴えるお子さんは、30%前後、かと思われる。

3. 「心身症も精神疾患も、病気として扱われ、不登校には含まれない」ことになっている。

4. 自閉症などの発達障害のお子さんの長期欠席は、不登校として扱われる。

5. 学校にいかないことが「楽しい」不登校もある。

 

思いのほか長い記事になってしまいました。

小児科医としての私が書いた文章ですが、

児童精神科医の先生の考え方も、伺いたいと思いました。

 

 

 

私の勤務する病院でのことですが、

学校にずっと行けていない」子どもさんが、初めて小児科外来に診察にくる時には、

長引く頭痛や腹痛、嘔気、あるいは、めまいがある」ことが多いと実感しています。

つまり、

不登校の子どもさんは、身体の具合がよくないことが多い印象を、医師である私は持っています。

 

ただし、これは「バイアス」かもしれなくて、

「不登校全体のなかで、身体症状をもつお子さん」の割合がどのくらいか、分かっていないと思います。

ほぼ、身体症状があるお子さんだけが、医療を受診するでしょうから、

医療を受診した不登校児だけを対象にして医師が調査しても、不登校全体を語ることはできません。

 

 

 

1. 不登校は、「病気による長期欠席」は、含まない。

 

分かりにくいかもしれません。

不登校は、「病気による長期欠席」は、含まない 、というのは

例えば、悪性新生物(白血病、腫瘍、小児がん等)のために長期欠席した場合は、不登校に含まない、ということです。

 

長期欠席者」についての、次のグラフをごらんください(*1. 令和5年度、文部科学省: 一部追記)

 

 

R5(令和5年)をみると、小中学校の不登校児は、約35万人です。

それとは別に「病気」があって、10万人を超えたくらいです。

病気」があると「不登校」とはカウントされない、ということです。

 

病気による長期欠席」とは、

文部科学省の、別の資料 *2 によれば、

病気療養児の主傷病名は、小学校では悪性新生物(白血病、腫瘍、小児がん等)が最も多く、中学校・高等学校では心身症、精神疾患が多かった

入院や療養のため学校を欠席した日数は平均67.7日であった。

 

心身症も精神疾患も、病気として扱われ、不登校には含まれない、ということになります。

これについては、この記事の後半で書きます。

 

 

 

2. 不登校のうち、「身体の不調」を最初に訴えるお子さんは、30%前後、かと思われる。

 

最初に学校に行きづらいと感じ始めたきっかけ」 についての報告があります。

(2023年の、医学の学会での教育講演です) *3

 

身体の不調が最も多く(小学生27%,中学生33%)

次いで先生のこと(小学生30%,中学生28%)

生活の乱れ(小学生26%,中学生26%)

友だちのこと(小学生25%,中学生26%)

身体の不調」が最も多く、とは書かれていますが、

%だけみたら、上記4つに、大きな差はないです。

*4 実際には、「この調査対象者の実数が、小学生より中学生の方が多い」ので、全体で「身体の不調」が最も多い、という主旨です)

この報告をもとにすれば、不登校のうち、「身体の不調」を最初に訴えるお子さんは、30%前後、と言えそうです。

 

この報告では、以下のようにも書いています:

身体の不調」と「生活の乱れ」は、子どもと保護者がまず相談するのは医療機関と思われる。

生活の乱れ」のために医療機関を受診する ?

少し考えて、私も、

身体症状がなくても、生活の乱れのために、医療機関を受診するお子さんも、おられる「かも」しれないと思いました。

具体的には、たとえば、「夜寝る時間が遅い(寝つけない)」という主訴で、医療受診する不登校児がいそうです。

 

残りの約半数、「最初に学校に行きづらいと感じ始めたきっかけ」が、

明らかに「先生のこと」「友達のこと」だという場合には、

医療機関には受診されないかもしれません。

ただこのような場合でも、子どもさんが気に病めば、

「おなかが痛い」といった身体症状が出てくる場合は、よくありますので、

結局、不登校児のうち、医療機関を受診する割合は、30%よりはもっと多くなるだろうと思われます。

 

 

 

 

3. 「心身症も精神疾患も、病気として扱われ、不登校には含まれない」ことになっている。

 

小学校の先生が書かれた論文があります。 *5

これによれば(表3をみてください)、

病気による長期欠席(不登校ではない)の原因は、

(小学生対象の調査ではありますが)心身症と精神疾患で過半数です。

その病名別の内訳は(表4をみてください)、

起立性調節障害(心身症)が最多、強迫神経症と適応障害(精神疾患)がその次、となっており、

私も、おおむねその通りなのだろうという、印象を持っています。

 

私は小児科医ですが、

起立性調節障害(心身症)を、病気として扱い、不登校に含めない、というのは、やや意外に感じました。 *6

心身症が長期欠席なのか、不登校ではないのか、も、じつは微妙だと思っています。

それは、「不登校に伴う心身の症状」なのか、病名としての「心身症」なのか、

そもそも、そんな区別はできないのが普通でしょうということです。

(内服の継続が必要な場合を心身症とする、という、は、一応ありうると思いますが、

そのような定義はないです)

じっさい、心身症の分類のなかに「不登校」を入れている論文もあります。 *7

(284ページ. 図1 医師による学会の教育講演です )

これは、変だと思います、というか、

誤解させると思います(不登校は病名ではない)。

ですが、書かれた先生が混乱しているわけではないのです。

明確な区別がないので、判断が各医師にまかされてしまうということです。

 

 

 

4. 自閉症などの発達障害のお子さんの長期欠席は、不登校として扱われる。

 

混乱されるかもしれませんが、自閉症などの発達障害は、精神疾患ではありません

ですので、自閉症などの発達障害のお子さんの長期欠席は、基本的に、不登校として扱われます。

ただし、たとえば自閉症児は、不安症(不安障害)を伴いやすいと言われていて、 *8 *9

不安症は精神疾患に該当するので、

自閉症でも不安症を呈した場合は、不登校としては扱われなくなります

ASDは、併存症がもっとも多い障害の一つとされ、70~80%の者に何らかの精神障害や身体疾患の併存が認められている。

DCD(発達性協調運動症)、AD/HD、不安障害(不安症)、睡眠障害は、小児期・思春期のASD者の40%以上に併存することが、(1994年から2018年の文献検索で)過半数の報告で確認される。

*10 一部改変)

 

このなかで、不安障害(不安症)、睡眠障害を伴った場合は、自閉症でも、(不登校ではなく)病気による長期欠席と扱われることになります。(DCDのために学校を長期欠席する、ということは、考えにくいです)

 

この論文では、併存症または二次障害、と書かれていますが、

私は、二次障害、という言葉は使わないようにしています。

育て方の問題、と、誤解されるからです。

(2ページに引用されている、吉川徹先生の言われるように、併存症と明確に区別できないと思っています。)

(吉川徹先生:児童精神科医、現職・尾張福祉相談センター 児童専門監)

 

 

 

 

 

5. 学校にいかないことが「楽しい」不登校もある。

 

不登校の原因として、「身体の不調」「先生のこと」「生活の乱れ」「友達のこと」があって、

学校に行きにくくなる、と、先ほど引用しました。

上記は、本人が、それなりに苦痛を感じるだろうと思います。

しかし私は、学校にいかない原因は、これだけかな?と思うのです。

 

「学校にいく以外に、もっと楽しいことがあるから」、というタイプもあるように思います。 

近藤直司先生の論文によれば、自閉症児の不登校には、

“不登校が平気なタイプ”と、 “不登校を悩むタイプ”があり

近年、不登校を悩まないタイプの子どもが増えているという指摘があります。 *11

(近藤直司先生:児童精神科医、現職・大正大学名誉教授)

 

とすれば、

不登校の子どもさん、とくに不登校の自閉症児については、

一律に、学校に戻すことを最終目標にするような取り組みとは、別の視点が必要になる、と私は思います。

フリースクールは、一つの選択肢になると思います。

 

 

いかがでしょうか。

不登校の小中学生に関わる方、

不登校のお子さまの保護者のみなさま、

総論としてではなく、

その、目の前の一人のお子さまの目標・理想をどのように感じられているか、

原籍学校に戻すのか、フリースクールをお考えか、そのほかなのか、

よろしかったら、コメントで教えていただけますと嬉しいです。

 

 

 

 

 

*1.

https://www.mext.go.jp/content/20241031-mxt_jidou02-100002753_2_2.pdf

 

*2.

https://www.mext.go.jp/content/20231027-mxt_tokubetu02-000032308-1.pdf

 

*3.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/64/2/64_64.2_113/_pdf/-char/ja

 

*4.  *1の引用文献:8)です。以下リンクで開けます:

https://www.mext.go.jp/content/20211006-mxt_jidou02-000018318-2.pdf

 

*5.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ikuryo/70/0/70_12/_pdf/-char/ja

 

*6.

https://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse1556.pdf

 

*7.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscap/59/3/59_283/_pdf/-char/ja

 

*8.

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2692135/

 

*9.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscap/58/2/58_261/_pdf

 

*10.

https://hokkyodai.repo.nii.ac.jp/record/10899/files/kushiroronsyu54_01.pdf

 

*11.