私はコロンビアで、バスジャックに遭った。
犯罪発生率が高いことで有名なコロンビア。
あれは確か、中央部の首都ボコタから、北部カリブ海のリゾート地カルタヘナへ向かう夜行バスでの出来事だった。
国道を走る夜行バス。
夜中、バスが動かなくなった。
渋滞だろうか。
激しい雨音が聞こえる。
国道、といっても山道。
土砂崩れでもあったか。
まあいい、もともと10数時間の道のり。
そして、ウトウトとしていた時だった。
ふと目を覚ますと、バスの前方に男が立っていて、何か喋っている。
「×××、一人×××、5000ペソ×××」
半分寝ている状態で聞いているので、はっきり聞き取れないが、金の話をしている。
強盗か!!
一瞬頭をよぎりはしたが、覆面をしているわけでもない。
強盗なら、財布ごと、有り金すべてを奪うだろうに、5000ペソがどうのとか言ってる。
しかも、客から悲鳴の一つも聞こえない。
そうか、物売りか。
土砂崩れで山道が塞がり、バスが動かなくなってるところに、近くの村人が何か売りに来たんだろう。
5000ペソか、なかなか高いな。
何を売ってるんだ?
たしかこの当時のレートで500円ほど。
私は、そんなことを思いながら、また眠りについた。
その時!
さっき前で喋っていた男が私の横に立ち、私の肩を叩いて起こしてきた。
スッと手を出している。
そして、隣に座っている乗客が、5000ペソ札を渡している。
それを受け取り、改めて私の目の前に手を出した。
なぜだ?
私が眠っている間に、横の客が何を買ったかは知らんが、私は何も買ってないぞ。
そんな思いを込めて、
「Yo? Por que?」
私が?なんで?
と、返した。
実は強盗だった、この男。
よもやの、「なぜ?」の言葉に呆気に取られた男。
まさか強盗である自分に、お金を払う理由を尋ねる人間がいようとは。
「Pe.. Perdon...」
ご、ごめん、
そう言って、手を引っ込め、後方の座席の方へ進んだ。
私はふと横の乗客に目をやると、
「雨が降って困るなあ」
なんてことを呟いていた。
さっきのお金や、私と男とのやりとりに触れることもない。
「やっぱり、物売りか」
そう思って、すぐに私は眠りについた。
そして、眠った私のぞく全ての乗客が、一人5000ペソを払ったようだった。
翌朝、依然としてバスは動けずにいた。
私や乗客はバスの外に出た。
数百メートル先を見ると、たしかに土砂崩れが起こっている。
そしてそこから、今私がいる場所、さらには見えなくなるくらいずっと向こうまで、大渋滞となっている。
どこぞの工事車両が出動するわけでもなく、警察が出てくるわけでもない。
どうも土砂崩れ近辺の車の運転手や乗客が、一生懸命、手作業、人海戦術で土砂の撤去をやっている。
そんな先の光景を見ながら、おしゃべりに興じる私と、私のバスの乗客たち。
昨夜の強盗の話など何も出ない。
何も出ないから、私も気づかないまま。
そして数時間後、はるか先で土砂が撤去され、道が通じたのが見えた。
さあ、動くぞ!!
そう言って、井戸端会議をやめ、バスに乗り込もうとした時だった。
私の隣の乗客が言った。
「ああ、そうだ、そうだ、タケシ。おまえ、強盗にはちゃんと金を払った方がいいぞ。銃を持ってたんだから、ヒヤヒヤしたじゃないか。」
え!!?
ポカンとした私をよそに、バスは動き出した。
強盗、バスジャックと言えば、、
覆面をしている。
大声を出す。
銃があれば銃をかざす。
大騒ぎになる。
悲鳴があがる。
有り金すべてを奪われる。
大事件である。
その話題でもちきりになる。
そんなイメージだったのだが、、
コロンビアでは、ちょいちょいあるらしい。
そして、先方も無理せず、サラリとこなしているらしい。
日本で言うところの、不良のカツアゲくらいなのだろうか。
素顔のままで、
一人定額で少額、
銃はあっても見せつける必要もなく、
奪う側も払う側も淡々と、
ちょいちょいあるから話題にもならない。
「ち、運が悪かったなあ」
というかんじなんだろうか。
国道が土砂崩れで10時間ほど通行止めとなり、
その車列を強盗が一台一台襲って行った。
日本だったら、大事件、トップニュースだ。
しかし、私はこの間、たった一人の警察の姿も見ることはなく、
もちろんニュースにもならず、
誰も話題にしなかった。
そんな私のコロンビア、バスジャック体験。
旅人ふちがみ