小林 太樹 『風・遊・記』 ショートシナリオストーリーブログ   -60ページ目

『bar -カメとウサギ-』

カウンターだけの小さなバー。


様々なボトルと、磨き抜かれたグラスが並ぶ。


片隅にあるダーツボードに向かってダーツを投げている店の男。


一人の男性客が入ってくる。


店の男 「いらっしゃい。」


男性客、カウンター席に座る。


ダーツを投げ続けている店の男。


男性客、ダーツボードを見ている。


男性客 「なんでみんな、中心しか狙わないんだろう。」


店の男 「・・・・・」


男性客 「ダーツボードには、こんなにたくさん狙うエリアがあるのに

      中心しか狙わないのは、つまんないような気がする・・・」


店の男 「・・・なるほど。」


ダーツを止め、カウンターに入る店の男。


冷えたグラスにビールを注ぐ。


美味しそうなビールを男性客に差し出す。


男性客、キラキラ光るビールをじっくり眺め、飲む。


再びダーツを始める店の男。


ダーツボードの外側のエリアを狙っている。


男性客 「・・・・・」


次にダーツボードの内側のエリアを狙う店の男。


じっとダーツボードを見つめる男性客。


次にダーツボードの中心を狙う店の男。


ダーツが投げられる。


見事中心に命中するダーツ。


男性客 「これだ・・・」


微笑む、店の男。


ビールを一気に飲む男性客。


グラスを磨き始める店の男。


店の男 「ウサギとカメの話・・・最後にカメが勝つ・・・」


男性客 「・・・・・」


店の男 「ウサギの方が全然早くゴールに着くことが出来るけど・・・カメが勝つ・・・」


ビールを飲み干す男性客。


ワイングラスを取り出し、赤ワインを注ぐ店の男。


磨きぬかれたワイングラスに赤ワインが輝く。


それを男性客に差し出す。


男性客、ワイングラスをわずかに揺らし、香りを楽しむ。


そして少量口に含み、味わいながら飲む。


男性客 「・・・うまい。」


店の男 「ゆっくり、一歩一歩、目的地に向かって進む。

      たとえ遠回りをしても、障害が起きても、

      目的地にたどり着くのが遅くなっても、

      ひとつひとつを乗り越え進んで行く。

      一歩一歩。

      そして、強いカメとなって目的地に到着する。」


ワインを味わう、男性客。


店の男 「だけど誰もがウサギを目指すんだよね・・・」


男性客 「・・・・・」


店の男 「そりゃ、早く目的地にたどり着きたいし、早くお金も欲しいし。

      オレもウサギを目指していたな・・・」

      

男性客 「あなたはカメですかウサギですか?」


店の男 「バリバリのカメです。」


店の男、苦笑い。


微笑む男性客。


ミニグラスにビールを注ぐ店の男。


そのグラスを手に、男性客と目でカンパイをする。


一気に飲み干す店の男。


赤ワインを美味そうに飲む男性客。


再びグラスを丁寧に磨き始める店の男。







      




『運動会 -戦い-』

秋の青空が広がる。


小学校の運動場。


間近に迫った「運動会」の練習風景。


六年生の徒競走の練習が始まる。


五人が一組となって、次々と駆けて行く子供達。


その中で、走っている途中であきらめてしまう


太り気味の男子生徒①。


その様子を黙って見ている、男性担任教師A。


また次々と駆けて行く子供達。


秋空がだんだん夕景に変わって行く。


なぜだか切ない気持ちがする秋の夕空。


放課後の教室。


帰る準備をしている生徒①。


担任Aが近づく。


担任A 「ちょっと、話をしてもいいか?」


生徒① 「なに?」


担任Aの後を、渋々ついて行く生徒①。


誰もいない教室で、向かい合う二人。


担任A 「徒競走、最後まで頑張って走れるか?」


生徒① 「・・・」


担任A 「最後まで、あきらめずに走りきることが一番大事なんだ。

      結果は関係ない。」


生徒① 「・・・先生はボクみたいな想いをしたことがないから

      わからないんだよ。」


担任A 「・・・」


生徒① 「ボクは運動会が本当に嫌なんだ。

      運動会は、走るのが速い子のためにあるようなもんだもん。

      徒競走で一番獲って、リレーで速いとヒーローだよ。

      だけど・・・ボクみたいに太ってて、走るのが遅い者にとっては最悪だよ。

      生徒や親たちの前で恥をさらすようなもんだもん。

      出たくないよ、徒競走なんか・・・」


担任A、優しく微笑みながら生徒①を見つめる。


担任A 「人には誰でも、得意なことと苦手なことがある。

      走るのは苦手かもしれないけど、

      他に得意なことがたくさんあるじゃないか。

      それに、得意なことは出来て当たり前だけど、

      苦手なことが少しでも出来るようになると、すごくうれしいだろう。

      そのうち、苦手なことじゃなくなることだってあるんだ。

      だから、苦手なことに挑戦するんだよ。

      先生だって今でもそうだよ。」


生徒① 「・・・」


担任A 「あとは、自分で考えなさい。

      先生は、最後まで一生懸命走ることに挑戦してくれると

      信じているから。」


担任A、優しい笑顔。


生徒①、うつむき、一点を見つめている。


秋の夜空、月がきれいに輝いている。



運動会当日。


秋晴れ、雲ひとつない青空。



小林 太樹  『風・遊・記』  ショートシナリオストーリーブログ  -秋晴れ運動会


快晴の中、運動会のプログラムが進んで行く。


六年生の徒競走が始まる。


うつむき加減で出番を待つ生徒①。


担任A、離れたところから見ている。


生徒①がスタート位置につく。


それまでうつむいていた顔がしっかり前を見すえる。


ヨーイ、パーン。


走り出す生徒①、しっかり前を向き、歯を食いしばり、腕を振る。


途中で他の生徒全員に抜かれる。


しかし、あきらめない生徒①。


必死の形相で、前を向き、腕を一生懸命に振る。


先を行く他の生徒とあまり差が開かない。


そのままゴール。


ゴールラインを越えたところで勢い余って転ぶ生徒①。


生徒①のところへ駆け寄る担任A。


担任A、転んだ生徒①を抱きかかえ、


担任A 「よく頑張った!よく頑張った。

      カッコよかったぞ!」


生徒①、担任Aの顔を見つめ、


生徒① 「ハァハァハァ・・・先生、こんなに一生懸命走ったの

      生まれて初めてだよ・・・ハァハァハァ

      だから、あまり差が開かなかったよね・・・ハァハァハァ」


担任A 「そうだよ!すごいよ!

      ホントに、あきらめずに、よく頑張った。」


生徒① 「・・・先生、気持ちいいもんだね・・・」


生徒①、いい笑顔。


担任A、感動で言葉が出ず、何度もうなずく。


空を見上げる担任A。


雲ひとつない青空が広がっている。





      

      

      




『侍』


小林 太樹  『風・遊・記』  ショートシナリオストーリーブログ  -MY書道「侍」2



戦う者。


自分自身と戦う。


プレッシャーと戦う。


強きと戦う。




挑戦する者。


夢に挑戦する。


困難に挑戦する。


強きに挑戦する。




守る者。


愛する者を守る。


仲間を守る。


弱きを守る。




耐える者。


苦労を耐える。


地道に耐える。


弱きを耐える。




それを 「サムライ」 という。