小林 太樹 『風・遊・記』 ショートシナリオストーリーブログ   -64ページ目
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『野球とグローブ』

山々に囲まれた田園風景が広がる。


夏空。


雲が流れて行く。


小さな公園の広場。


父と子(小学2年)がキャッチボールをしている。


父「ボールは体の正面で捕るんだ。」


わざとボールを正面に投げず、捕りにくいところに投げる父。


一生懸命、体の正面で捕ろうと頑張っている子。


だが、なかなかうまくいかない。


ボールを落としたり、後ろに逸らしたりする子。


子「お父さん、もっといいところに投げてよ!」


父「いいところに投げたら練習にならないだろ!」


更に捕りにくいところにボールを投げる父。


捕れない子。


後ろに逸らしたボールを追いかけようとする子。


だが途中でボールを追いかけるのをやめてしまう。


子「・・・・・」


子、ふて腐れている。


父「・・・うまくなりたいんじゃなかったのか。」


子「・・・・」


父「練習しないんだったら帰るぞ。」


帰ろうとする父。


子「・・・・・やる・・・・・やる・・・・・」


立ち止まり、振り返る父。


父「えっ、何だって?」


子「・・・・・やる!」


父「そうか、分かった。」


再び、キャッチボールを始めようとする父子。


子、父に向かって言う。


子「お父さん、もっと大きいグローブ買ってよ。

  友達はみんな大きいグローブを持ってるんだよ。

  こんな小さなグローブを持ってるのは僕だけだよ。」


古くて小さなグローブ。


父「野球は道具でやるもんじゃない。

  それに小さいグローブを使った方がうまくなる。」


子「・・・・・やだよ・・・・・大きいのが欲しいよ・・・・・」


父「ダメだ。」


泣きそうな表情になる子。


夏空。


雲が流れる。


小学校のグランドで練習をしている少年野球チーム。


低学年の子供達がグランドの片隅でキャッチボールをしている。


その子供達のグローブ。


大きくて真新しい立派なグローブ。


離れた場所から見ている、父。


父「・・・・・」


夏空。


雲が流れる。


子、学校から帰ってくる。


自分の部屋に入る子。


何かに気付く。


机の上にある、大きな新しいグローブ。


輝いている。


子「・・・・・」


信じられない表情から、満面の笑みに変わって行く。


とてもうれしそうにグローブを眺める。


自分の顔より大きなグローブ。


夜。


父が帰宅する。


子、父のところに走って行く。


子「お父さん、新しいグローブありがとう!」


父「グローブに負けるなよ。」


子「うん!」


子、素晴らしい笑顔。


満足げな父。


夏空。


雲が流れる。


ゆっくりと雲が流れて行く。


町並みを取り囲む山々。


誰もいない小学校のグランド。


誰もいない小さな公園の広場。


男が野球のグローブを手入れしている。


相当使い込んだ古いグローブ。


丁寧に磨いている。


夏空。


雲が流れる。


棚に飾ってある、小学2年の時に買ってもらったグローブ。


だいぶ古くなったが、輝いている。




















『-道- 〝前へ〟』

初夏らしい空が広がる。


梅雨の晴れ間。


川沿いにある桜並木の遊歩道。


川面に向かって垂れ下がっている桜の樹の枝。


その葉が、新緑から少し深い緑に色づき、輝いている。


桜の樹の枝で出来たトンネルのような遊歩道。


ひとりの男が歩いている。


男、歩く。


ゆっくりと、前に向かって進んで行く。


男の眼に、あじさいの花が映る。


立ち止まる男。


男 「・・・・・」


男、ゆっくり大きく息を吐く。


和らいだ表情になる男。


しばらく、じっとあじさいの花を見つめる。


間。


再び歩き出す男。


ゆっくり、前に、進む。


桜の樹の枝で出来たトンネルの中を進んで行く。


すぐ横に川が流れている。


ゆったりと流れている。


やがて川面に雨が落ちてくる。


曇り空から、ポツリポツリと降り出す雨。


男、気にする様子もなく、歩く。


小雨が降る中、歩いている、男。


小さな公園が見えてくる。


キャッチボールをしている父子。


小雨が降る中、ユニホームを着た小学生と父親が練習をしている。


わが子に、熱心に野球を教えている父親。


立ち止まり見つめる男。


男 「・・・・・・・」


懐かしそうな顔になる男。


雨が本格的に降り出す。


野球の練習を切り上げて、帰って行く父子。


父子を眼で見送る男。


優しい表情で、ふと一瞬笑顔を見せる男。


空を見上げる男。


顔に雨が降りかかる。


気持ち良さそうに、じっと雨に打たれている。


空一面の雨雲から雨粒が落ちてくる。


空を見上げたまま、雨に打たれたまま、動かない男。


間。


気持ち良さそうに大きく息を吐き、雨に濡れた顔を手で拭う。


再び歩き出す男。


その後ろ姿。


男の後ろ姿がだんだん遠ざかって行く。


雨が降り続いている。


誰もいない遊歩道。


桜の樹と、流れる川。


その光景。


(時間経過)


雨が止んでいる。


誰もいない遊歩道。


少し水量が増えた川、相変わらずゆっくりと流れている。


桜の樹の葉が雨に濡れて、キラキラ光る。


雲間から顔を出す、太陽。


太陽の光を浴びて歩いて行く男。


その後ろ姿。












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