小林 太樹 『風・遊・記』 ショートシナリオストーリーブログ   -61ページ目

『金魚のキンちゃん』

軒下に置かれているバケツ。


バケツの中には緑色に濁った水。


その中を元気よく泳いでいる一匹の金魚。


男が近づいてくる。


男 「おーい、キンちゃん、おーい。」


金魚、さらに勢いよく泳ぐ。


男 「おーい、キンちゃん。」


金魚、水面から顔を出し、口をパクパクさせる。


男 「・・・そうか。・・・そうか。」


男、ビニール袋に入った金魚のエサを水面に落とす。


すぐにパクつく金魚。


ひとつ、ひとつ、口にくわえていく。


喜んでいる金魚。


男、その光景を見ながら美味そうにコーヒーを飲む。


エサを食べ終わり、元気よく泳ぐ金魚。


男、じっと金魚を見ている。


男 「お前は本当に強いな。

   雨の日も、風の日も、暑い日も、寒い日も、

   たった一人で・・・強いよな。」


じっと見つめる男、表情を引き締める。


軒下に置かれているバケツの中で泳ぐ、一匹の金魚。



(回想)


金魚すくいのビニール袋から、三匹の金魚をバケツに移す男。


元気よく泳ぐ三匹の金魚。


翌朝。


一匹の金魚が水面に横たわっている。


男 「・・・・・」


軒下のバケツの中を泳ぐ、二匹の金魚。


数日後。


バケツの中で泳ぐ金魚が一匹だけになっている。


男「・・・やっぱり金魚は持って帰らない方がいいな・・・」


一匹になった金魚をじっと見つめる、男。


軒下のバケツの中で元気に泳ぐ、たった一匹の金魚。



激しい雨が降っている。


じっとしている、軒下のバケツの中の金魚。


強い風が吹いている。


水面が揺れる中、耐え忍ぶ、軒下のバケツの中の金魚。


真夏の強い日差しが照りつける。


水面がギラギラする中、ゆっくりと泳ぐ、軒下のバケツの中の金魚。


雪が降っている。


じっとしている、軒下のバケツの中の金魚。



男 「おーい、キンちゃん、おーい。」


水面から顔を出し、パクパクする金魚。


エサをやる、男。


美味そうに、エサにパクつく金魚。


癒された表情の男。


男 「・・・強いな、お前は・・・」


じっと見つめる男。


エサを食べ終わり、勢いよく泳ぐ金魚。




軒下に置かれてあるバケツの前で立ち尽くす男。


じっとバケツを見つめている。


バケツの中で横たわる金魚のキンちゃん。


男 「・・・・・」


座り込み、じっと金魚を見つめる男。


男、動かない。


男 「・・・昨日、あんなに喜んでエサを食べてたのに・・・」


信じられない表情。



軒下のバケツの前で、コーヒーを飲む男。


男 「・・・強かったよな、お前は・・・

   ・・・いつも、いつも、励まされたよ・・・

   ・・・ありがとう・・・

   ・・・これからも、お前を見習って頑張るよ・・・

   ・・・本当にありがとう。」


上を向き、口を真一文字に結ぶ、男。




軒下のいつもの場所にあるバケツ。


バケツの中はきれいに空っぽになっている。











『bar -birthday-』

カウンターだけのバー。


各種ボトルが並んでいる。


カウンターの中に立つ、店の男。


グラスを丁寧に磨いている。


店のドアが開く。


男性客がひとり入ってくる。


カウンター席に座る男性客。


店の男「いらっしゃい。」


男性客「こんばんは。」


グラス磨きを止める店の男。


生ビールをきれいにグラスに注ぐ店の男。


男性客に差し出す。


店の男「誕生日祝いだ。」


男性客「・・・あっ、すいません。」


小さなグラスに自分のビールを注ぐ店の男。


無言で、グラスを合わせることなく乾杯する二人。


一気に飲み干す店の男。


店の男「・・・あー、うまい。」


店の男の見事な飲みっぷりに微笑む男性客。


男性客「・・・誕生日が来ても、あまりうれしくない歳になりました。」


店の男「これから毎年、誕生日を迎えると同じことを思うようになるよ。」


男性客「でも、この生ビールはうれしい・・・」


店の男「いくつになっても、祝ってほしい・・・そういうものなんだと思うよ。」


男性客「・・・そうなんですかね。」


店の男「だって、自分だけの、自分にしかない、1年で1日だけの記念日だからね。」


男性客「・・・なるほど。」


店の男「・・・30歳になった時には、もう30歳だと思って、

     40歳になった時には、とうとう40歳だと思うんだよね・・・」


男性客「・・・うん。」


店の男「いつでも、何歳になっても、自分はこれからだって思うことが出来ればいいよね。」


うなづく男性客。


店の男「目標に向かって、いつまでも挑戦し続けて、自分を磨き続ける、だね・・・」


何度もうなづく男性客。


店の男「・・・今のは全部、俺が自分に言い聞かせているんだよ。」


男性客、ビールを飲み干す。


グラスを磨き始める店の男。


男性客「すいません、ハイボール下さい。」


店の男、うなづくだけ。


大きな氷をアイスピックで適当な大きさに砕く。


グラスに氷を入れ、ウイスキーを注ぎ、ソーダで割る。


あざやかな手付きでおいしそうなハイボールを作る店の男。


無言で、男性客に差し出す。


作りたてのハイボールを飲む男性客。


男性客「・・・うまい。」


微笑む店の男。


店のドアが開き、女性客が二人入ってくる。


カウンター席に座る女性客。


女性客、店の男に声を揃えて言う。


女性客「誕生日おめでとう!」


店の男「・・・ありがとう。でももう誕生日が来てもうれしくない歳なんで・・・照れくさいよ。」


男性客、驚いた表情で店の男を見る。


微笑みながら、男性客にうなづく店の男。


女性客「これからでしょ、これから。挑戦し続けるんでしょ。この前そう言ってたじゃない。」


苦笑いの、店の男。


店の男「・・・ハイボールだね・・・」


女性客「はーい。」


慣れた手付きでハイボールを作り出す、店の男。


癒された表情の男性客。


おいしそうなハイボールを女性客に差し出す、店の男。


ハイボールのグラスがスポットライトに照らされ輝いている。











『道』



小林 太樹  『風・遊・記』  ショートシナリオストーリーブログ  -MY書道「道」2


どこまでも続く「道」。


果てしなく、真っ直ぐに。


前に、進む。


前へ、進む。


一歩、一歩。



「首」を向けたところに「道」がある。


時に曲がりくねったり、デコボコだらけだったり。


キツイ登り坂や、行き止まりもある。


だが、前に進むのみ。


行き止まりになれば、道を探せばよい。


前に向かって進むのみ。


一歩、また一歩。


大切なのは、「首」をどこに向けるかである。



まわり道。


遠回りをすればするほど大きくなれる。


強くなれる。


ただし、前に向かうことを忘れるな。


まわり道を、一歩、一歩、進む。



自分で切り開いた「道」を、


前へ、前へ、


一歩、また一歩、


進む。