『bar -カメとウサギ-』 | 小林 太樹 『風・遊・記』 ショートシナリオストーリーブログ  

『bar -カメとウサギ-』

カウンターだけの小さなバー。


様々なボトルと、磨き抜かれたグラスが並ぶ。


片隅にあるダーツボードに向かってダーツを投げている店の男。


一人の男性客が入ってくる。


店の男 「いらっしゃい。」


男性客、カウンター席に座る。


ダーツを投げ続けている店の男。


男性客、ダーツボードを見ている。


男性客 「なんでみんな、中心しか狙わないんだろう。」


店の男 「・・・・・」


男性客 「ダーツボードには、こんなにたくさん狙うエリアがあるのに

      中心しか狙わないのは、つまんないような気がする・・・」


店の男 「・・・なるほど。」


ダーツを止め、カウンターに入る店の男。


冷えたグラスにビールを注ぐ。


美味しそうなビールを男性客に差し出す。


男性客、キラキラ光るビールをじっくり眺め、飲む。


再びダーツを始める店の男。


ダーツボードの外側のエリアを狙っている。


男性客 「・・・・・」


次にダーツボードの内側のエリアを狙う店の男。


じっとダーツボードを見つめる男性客。


次にダーツボードの中心を狙う店の男。


ダーツが投げられる。


見事中心に命中するダーツ。


男性客 「これだ・・・」


微笑む、店の男。


ビールを一気に飲む男性客。


グラスを磨き始める店の男。


店の男 「ウサギとカメの話・・・最後にカメが勝つ・・・」


男性客 「・・・・・」


店の男 「ウサギの方が全然早くゴールに着くことが出来るけど・・・カメが勝つ・・・」


ビールを飲み干す男性客。


ワイングラスを取り出し、赤ワインを注ぐ店の男。


磨きぬかれたワイングラスに赤ワインが輝く。


それを男性客に差し出す。


男性客、ワイングラスをわずかに揺らし、香りを楽しむ。


そして少量口に含み、味わいながら飲む。


男性客 「・・・うまい。」


店の男 「ゆっくり、一歩一歩、目的地に向かって進む。

      たとえ遠回りをしても、障害が起きても、

      目的地にたどり着くのが遅くなっても、

      ひとつひとつを乗り越え進んで行く。

      一歩一歩。

      そして、強いカメとなって目的地に到着する。」


ワインを味わう、男性客。


店の男 「だけど誰もがウサギを目指すんだよね・・・」


男性客 「・・・・・」


店の男 「そりゃ、早く目的地にたどり着きたいし、早くお金も欲しいし。

      オレもウサギを目指していたな・・・」

      

男性客 「あなたはカメですかウサギですか?」


店の男 「バリバリのカメです。」


店の男、苦笑い。


微笑む男性客。


ミニグラスにビールを注ぐ店の男。


そのグラスを手に、男性客と目でカンパイをする。


一気に飲み干す店の男。


赤ワインを美味そうに飲む男性客。


再びグラスを丁寧に磨き始める店の男。