『十五の春へ -サクラサク-』
春の訪れを知らせるような青空。
穏やかな風が吹く。
国道を一台のトラックが走る。
トラックを運転する男。
ケイタイのメールを気にしている。
落ち着きがない。
国道を真っ直ぐに進むトラック。
国道沿いにある駅前。
受験生が大勢行き来している。
合格発表帰りの受験生。
笑顔が見える。
足取り軽く帰路を急ぐ子もいる。
信号待ちでその様子を見ているトラックの男。
男 「・・・合格したんだな。」
微笑む男。
男、何かに気付く。
駅前に止まる一台の乗用車。
助手席で泣いている女子受験生。
運転席で娘を見守る父親。
トラックの男、複雑な表情。
男 「・・・・・」
信号が青に変わり走り出すトラック。
男の横顔。
男 (いつかはサクラがサク・・・必ず)
真剣な表情になる男。
メールを気にする。
男 「何やってんだ・・・アイツは・・・」
だんだん心配顔になって来る男。
国道を走っていくトラック。
信号待ちで窓の外を見つめる男。
バス停にも合格発表帰りの受験生。
その中の男子受験生と母親をじっと見ている男。
男 (あの日の受験生と母親だ)
母子の素晴らしい笑顔。
男 「・・・合格したんだ。」
母子を見ながら笑顔になるトラックの男。
走り出すトラック。
バックミラーで母子を見送る。
男 (・・・よかった)
国道を走るトラック。
メールの着信音が鳴る。
トラックを止める男。
ゆっくりと緊張した面持ちでメールを見る男。
メール画面の「合格」の文字。
男、じっと画面を見つめる。
大きく息を吐く。
運転席から見える青空を見上げる。
男 「よかった・・・」
全身の力が抜け、安堵の表情。
走り出すトラック。
穏やかな表情の男。
男 「よく頑張った・・・
でもまだまだ・・・
これからだ・・・」
表情を引き締める男。
国道を真っ直ぐ走っていくトラック。
トラックを運転している男の横顔。
満足気な父親の顔。
きれいな青空が果てしなく広がっている。
『十五の春へ』
見渡すかぎりの銀世界。
雪景色の彼方から陽が昇る。
トラックのタイヤにチェーンを装着する男。
吐く息が白い。
トラックを運転している男。
雪の国道を走るトラック。
雪景色の上には晴れわたる青空。
前方に注意を払いながら運転している男。
何かに気付く。
国道沿いの雪上を歩いている男子中学生とその母。
その母子の様子を見つめる男。
ゆっくり通り過ぎるトラック。
サイドミラーに目をやる男。
ミラーに映る母子。
トラックがゆっくり止まる。
母子がトラックの横を通る。
男 「どこまで行くんですか。」
母 「・・・〇〇高校です。」
男 「受験ですね・・・」
母 「はい。」
男 「通り道ですから乗って下さい。」
母 「・・・あっ、いいんですか。」
男 「どうぞ。」
母 「すいません、じゃお言葉に甘えて・・・」
走り出すトラック。
運転席の男と横に座る母子。
母 「バスが雪で動かなくて・・・助かりました。」
男 「間に合いますから安心して下さい。」
母 「本当にありがとうございます。」
男 「受験の日に雪はかわいそうですよね。」
母 「はい・・・」
雪の国道を真っ直ぐに進むトラック。
運転している男の横顔。
男 「私の息子も今朝歩いて受験に行きました。」
母 「あっ・・・そうだったんですか。」
男 「うちは近くの高校ですから・・・」
母 「そうなんですね。」
男 「受験というのは本人も親も大変ですね。」
母 「本当ですね・・・今も私の方が緊張しています。」
男 「私も今朝息子に声を掛けた時、涙が出そうになりました。
歳をとると涙もろくなって困ります。」
母 「息子さん頑張ったんですね。お気持ちよく分かります。」
男 「いやー・・・実は前期の面接試験で受からなくて
本人は相当落ち込んだんです。
同じ中学校の半分は受かったのでつらかったんでしょう。
でも・・・翌日から立ち直りました。
本気で勉強するようになりました。
半数は高校が決まった子たちがいる環境で、
よく踏ん張ったと思います。
あっ・・・すいません・・・」
母 「・・・そうですか。本当によく頑張ったんですね。」
男 「・・・私は結果よりもこの経験が大切だと思うんです。」
母 「結果もいいと、さらに素晴らしい経験になりますね。」
男 「ごめんなさい・・・自分のことばかり話してしまって・・・」
母 「いいお話を聞かせていただけて良かったです。」
男、照れ隠しに苦笑い。
男 「もう着きますよ。」
母 「はい。」
トラックが高校の手前でゆっくり止まる。
母 「本当にありがとうございました。」
男 「いえ。(受験生に向い)頑張ってな。」
受験生 「はい。ありがとうございました。」
男、微笑む。
母 「では、お互いにいい春を迎えることが出来ますように。」
男、頭を下げる。
母、感謝の気持ちを込めてお辞儀をする。
校門に向って歩いて行く母子。
それを見送り、トラックを発信させる男。
すがすがしい表情で運転する男。
雪景色の中一本道を真っ直ぐ進むトラック。
白銀の世界の中をトラックが走って行く。
広がる冬晴れの空。
