『さくらのちから』
春の青空が果てしなく広がる。
太陽の光を浴びて、輝きを放つ満開の桜。
桜並木の遊歩道を大勢の人達が歩いている。
ほころんだ顔、顔、顔。
大きな桜の力を感じる。
大地にしっかり根を張った幹が堂々と立ち並ぶ。
誰の力も借りず単独で、
春を迎えるまでの一年間、
自然の厳しさに耐えて
ただひたすら準備を積み重ねてきたその姿。
華やかな満開の桜が息をしている。
真夏の猛暑や真冬の厳寒、豪雨に暴風も乗り越え、
毎年毎年咲き誇る。
人々を優しく包み込む桜並木。
だから・・・これだけの輝きを放って
大勢の人達に元気を与えることが出来る。
人々の明るい笑顔が桜に映える。
2011年のさくらは例年より何十倍ものちからを持つ。
桜並木の遊歩道が彼方へと続く。
満開の桜の下に軒を並べる屋台。
「いらっしゃい!いらっしゃい!」
「やきそばいかがですかー!」
露天商たちの元気な声が心地よく響く。
お揃いのTシャツを着ている露天商。
Tシャツの胸に書かれている文字。
『今 私達に出来ること』
『がんばれ!日本』
すべての屋台に張り紙。
『東日本大震災 私達は売上げの一部を義援金として寄付致します』
日本の国を元気付けるくらい威勢のいい声を張り上げる露天商たち。
「いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃーい!」
「大だこ入りたこ焼き おいしいよー!」
歩く人々の顔に明るさが増す。
露天商の人達にしか出来ない役割。
さくらと一体となって日本に元気を与えている。
高台に向う坂道。
坂道の頂上に満開の桜並木。
正面に高校の校門。
『第〇回 入学式』の大きな文字。
多くの親子が坂道を上ってくる。
晴れやかな顔が並ぶ。
満開の桜の樹の下をくぐり、
校門前で立ち止まる新高校生。
そして自分の「間」で一歩を踏み出す。
自分の手でつかみ取った未来に向って。
さくらが見守っている。
青く澄んだ春空に祭りの掛け声が響く。
桜並木に立ち並ぶ十数台の「化粧屋台」。
街を練り歩き、宮入りする。
「エーヨイヤサァ ヨイヤサァ ヨイヤサッサイ」
町内の人達がひとつになる瞬間。
重量のある化粧屋台が見事に担ぎ上げられる。
みんなで力を合わせる素晴らしさ。
青空と満開の桜とのコラボレーション。
元気と勇気、そして感動を与える「春祭り」
さくらが微笑む。
川面に枝垂れる満開の桜。
桜のトンネルが出来た遊歩道を歩く人達。
舞い散る桜吹雪。
コンクリート上を踊るように舞う桜の花びら。
青空に向けて舞いながら上昇する桜の花びら。
川面には桜の花びらがゆっくりと流れている。
桜吹雪となった枝には、新しい緑が芽生えている。
さくらのまた新たなスタートである。
『こころひとつ -2011.3.11-』
パソコンの前にカップラーメン。
カップラーメンのフタを開ける男。
美味そうな即席ラーメンから湯気が上がる。
わりばしを割って食べようとする男。
突然ラーメンの汁が揺れだす。
パソコンの液晶モニタが大きく揺れだす。
男、驚きの表情で揺れを確認する。
女性たちの悲鳴。
ビルのフロアの揺れがさらに大きくなる。
男 「ヤバイ・・・・・」
またさらに揺れが大きくなる。
デスクの下にもぐる男。
おさまらない揺れ。
驚きと不安な表情で耐えている男。
大きく揺れるビルのフロア。
国道沿いの歩道を急ぎ足で歩く男。
歩道はあふれるほどの人達が歩いている。
国道で停滞している車やバス。
動かない車やバスを追い越す歩く人達。
男、歩く、歩く。
突然鳴り響く緊急地震速報の音。
周囲を用心深く見回す男。
周りの人達も同じく注意を払っている。
オフィス街のビル群をしばらく見つめる男。
再び歩き出す。
緊張した表情で歩き続ける男。
大勢の人達と共に歩いていく。
テレビに地震関連のニュースが流れている。
食い入るように見つめる男。
複雑な男の表情。
駅のホームで長い列に並ぶ男。
電車が到着しドアが開く。
超満員の車内に大勢の人が乗り込む。
身動き一つ出来ない車内、じっと我慢している男。
男の周りの人達も黙ってその状況に耐えている。
車内の人々がこの非常事態に何とか対応しようとしている。
車内の人々の気持ちが同じ方向を向いている。
男の表情が引き締まっていく。
トイレで用を足し、手を洗う男。
ドアを開けてトイレを出る。
しばらくして戻って来る男。
トイレの電気のスイッチを切って再び出て行く。
おにぎりを食べている男。
自分でにぎった白い米だけのおにぎり。
おかずはない。
味わいながら食べる男。
ロウソクの明かりが暗闇を照らす。
携帯ラジオから流れる計画停電情報。
寒そうに毛布にくるまっている男。
じっと電気のない環境を耐えている。
スーパーのレジ近くにある募金箱。
「東日本大震災義援金・・・」と書かれている。
ポケットから500円玉を出す男。
募金箱に収める。
テレビの震災関連番組をじっと見つめる男。
真剣な眼差し。
男 「・・・・・」
パソコンに向っている男。
背筋を伸ばし、黙々と仕事に打ち込む男。
集中している表情。
ふと窓の外を見つめる男。
久し振りにきれいな青空が広がっている。
