小林 太樹 『風・遊・記』 ショートシナリオストーリーブログ   -51ページ目

『なでしこ日本!』

ギラギラと真夏の青い空が広がる。


容赦なく照りつける太陽。


ひとりの男が空を見上げる。


男 「熱い・・・」


パソコンに向う男。


モニタ画面に「高温注意情報」の文字。


男の額や首筋に大粒の汗。


近くにあるエアコンは動いていない。


パソコンの前で仕事に集中しようとしている男。


手が止まり、冷たい飲み物を飲む。


男 「フー、進まないな・・・」


エアコンのリモコンを手に取る男。


男 「・・・・・」


エアコンのリモコンを元に戻す男。


パソコン画面に「節電」の文字。


男 「我慢・・・我慢・・・」


パソコンに向う男。


仕事を進めようとしている。


また手が止まり、アイスを食べだす。


美味そうにアイスを食べる男。


食べ終え心地良さそうに息を吐く。


男 「フー、アイス最高!」


再び仕事に戻る男。


しばらく集中が持続している。


また手を止め、冷たい飲み物を飲む。


男 「フー、アイス食べると喉が渇く・・・」


両手をのばしてストレッチする男。


再度パソコンに向う。


(時間経過)


トイレからお腹を押えながら出てくる男。


男 「アー、腹痛い・・・」


情けない男の表情。


溜息をつきパソコンの前に座る。


モニタ画面に「なでしこジャパン決勝進出!」の文字。


男 「ワールドカップだよ・・・すごいな」


なでしこジャパンの情報を調べだす男。


男 「・・・・・」



(時間経過)



ケイタイのアラーム音。


ケイタイを手に取る男。


ケイタイ画面に AM3:30 の表示。


寝ぼけ眼でテレビをつける男。


テレビ画面に日の丸。


選手たちが君が代を斉唱。


心が熱くなる男。


試合をじっと食い入るように見つめる。


男 「・・・・」


何かを感じている様子。


試合は先制され追いつき延長戦。


引き離され再度追いつきPK戦。


なでしこジャパンのあきらめない魂をじっと見入る男。


始まるPK戦。


男 「がんばれ!日本!」


思わず叫ぶ男。


勝利の瞬間。


男 「ヨッシャー!」


男、ひとりで拍手喝采。


男 「すごい・・・世界一だよ・・・今だからすごく意味がある・・・

   女性の力はすごいな・・・底力だな・・・」


ブツブツつぶやきながらテレビ画面を見つめる男。


窓の外は真夏の空が広がり、太陽がまぶしく輝いている。










『願』


小林 太樹  『風・遊・記』  ショートシナリオストーリーブログ  -MY書道「願」



七夕


願い事を短冊に書く


笹の葉に結ぶ


願う


日本の素晴らしい風習



こころの短冊に書く


日本の復興そして更なる進化を・・・


すべての人の願い


願えばかなう


きっと・・・必ず









『前田慶次郎 -傾奇天下御免-』

五月晴れの空に聚楽第がそびえ立つ。


大広間に二十名余りの名立たる大名たちが居並ぶ。


徳川家康・前田利家・池田輝政などの顔が見える。


上座に関白 豊臣秀吉 威風堂々である。


廊下から大きな人影が近づいてくる。


大広間にゆっくりと入ってくる前田慶次郎。


立ち止まり、正面から堂々と秀吉を見つめる。


居並ぶ大名たちの視線が慶次郎に集中する。


白の小袖に朱の皮袴、裃は虎の皮、小袖の紋所はドクロ、


髪の毛を片方に思いっきり片寄せ、そこに髷が横に曲がって立っている。


異様な格好の慶次郎。


秀吉、上座から慶次郎を睨み付けるようにじっと見ている。


慶次郎も負けずに秀吉を見つめている。


秀吉に向ってゆっくり前に進む慶次郎。


それをじっと見つめる秀吉。


どんどん秀吉に近づいていく慶次郎。


秀吉のそばに控える小姓が片膝立ちになり警戒する。


じっと慶次郎を見つめる秀吉。


ピタリと立ち止まり、その場に座る慶次郎。


秀吉の眼を見据えていた慶次郎の目が、

まるで秀吉を無視するかのように真横を向く。


わずかに表情が動く秀吉。


慶次郎、顔を横に向けたまま頭を下げ平伏する。


正面の秀吉の視線から見た慶次郎の姿は、

髷が秀吉に正対し正しく平伏しているように見える。


真横から見た慶次郎の姿は、顔を横に寝かせているだけで

秀吉にたいして全く平伏していない。


髷を横に曲げて立たせているのはこのためである。


家康・利家たち大名、驚愕の表情。


じっと黙って見つめる関白秀吉。


慶次郎、ゆっくり顔を上げ再び秀吉の眼を堂々と見据える。


秀吉も慶次郎を睨み付ける。


緊迫した空気が流れる。


秀吉 「そちは何ゆえ傾(かぶ)く・・・」


慶次郎 「・・・意地でしょうか」


秀吉 「傾奇者(かぶきもの)の意地か・・・」


慶次郎 「・・・人としての」


秀吉 「・・・」


二人見つめ合う。


秀吉 「その意地、あくまでも貫き通すか」


慶次郎 「止むを得ません」


秀吉 「貫き通せると思うか」


慶次郎 「分かりませぬ」


慶次郎の潔い微笑み。


秀吉、表情が穏やかになる。


二人の間。


秀吉 「見事傾いたものよ・・・大儀であった!」


慶次郎、秀吉の顔をじっと見つめる。


秀吉 「その髷・・・気に入ったぞ」


慶次郎 「曲がりたるゆえ、髷(まげ)と申します・・・」


秀吉、豪快に笑う。


慶次郎も大いに笑う。


居並ぶ大名たちもつられて笑い始める。


大広間にようやく和やかな空気が流れる。


秀吉 「傾奇者に褒美を取らせる」


そばに控える小姓に囁く秀吉。


慶次郎 「されば・・・半刻の猶予を下され」


秀吉 「・・・よかろう」


慶次郎 「ありがとうございます」


再び顔を真横に向け平伏する慶次郎。


慶次郎 「本日、天下人たるお方とお会い出来、良き日となり申した」


秀吉、微笑む。


慶次郎 「では、失礼致します」


堂々と退出していく。



時間経過。



大広間の関白秀吉と大名たち。


慶次郎が現れ大広間に入る。


慶次郎 「お待たせ致しました」


一同目を見張る。


髪を正しく結い直し、衣服も正装に改め、礼法にかなった所作の慶次郎。


秀吉、驚きの表情。


居並ぶ大名たちも驚く。


慶次郎前に進み、静かに腰を落とし、丁寧に平伏する。


ゆっくり顔を上げる慶次郎。


秀吉 「その姿は・・・」


慶次郎 「傾奇者は失礼致したので、今度は武士としてまかりこしました」


秀吉、じっと慶次郎を見入る。


秀吉 「・・・」


慶次郎の涼しげな表情。


秀吉 「気に入った!今後何処なりともその意地を貫き通せ。余が許す!」


驚く大名たち。


秀吉 「傾奇天下御免じゃ!」


再び豪快に笑う秀吉。


微笑む慶次郎。


慶次郎 「ありがたきお言葉、感謝致します」


秀吉に向かい深々と頭を下げる前田慶次郎。


満足気な関白 豊臣秀吉。


五月晴れの空に一羽の大鷲が羽ばたいている。