『早起きは三文の得』
携帯電話のアラーム音。
「ピピッ ピピッ ピピッ ・・・」
男が顔を洗っている。
タオルで拭く寝ぼけ顔。
爽やかな朝の青空が広がる。
Tシャツにハーフパンツの男が歩く。
依然目覚めずボーっと歩く。
男 (フー、身体も脳もまだ起きていないな・・・
まぁいいや、散歩だけにしておこう・・・)
ゆっくりのんびり歩いていく男。
大きな公園が見えてくる。
広い公園に緑が心地よく茂る。
男、驚きの表情。
広大な緑地公園に高齢者の人達が大勢集まっている。
男 「何、これ・・・」
高齢者の人達がだんだん円を描くように移動している。
突然聞こえてくるラジオからの声。
大きな音量で鳴り響く。
♪ ・・・新しい朝が来た 希望の朝だ ♪
♪ 喜びに胸を開け 大空仰げ・・・ ♪
男 「へー、ラジオ体操か・・・」
懐かしさが胸を過ぎる。
体操の始まりを知らせる聞き慣れたピアノ曲。
「腕を前から上に上げて大きく背伸びの運動・・・」
大勢の高齢者の人達がひとつになって体操している。
壮大な光景に見える。
じっと見ていた男の脚が動く。
高齢者の人達の「輪」の一歩手前で立ち止まる。
ラジオ体操を始める男。
周りを見ながら夢中で身体を動かす男。
額の汗が落ちる。
だんだん息が荒くなってくる。
周りの高齢者の人達は息一つ乱れていない。
それを見て落ち込む男。
しかし楽しんでいる。
最後の深呼吸。
気持ち良さそうに息を吐く男。
ラジオ体操が終わり帰途につく高齢者の人達。
満足気な男の表情。
男 「・・・いいなー、明日も来よう」
歩き出す男。
行きとは違い、足取りが軽やか。
男 「やっぱり、早起きは三文の得だね・・・」
歩いていく男の後ろ姿に元気が宿っている。
男の頭上で、あざやかな青空に太陽が昇り、
「今日」という一日が始まっている。
『上を向いて花火を観よう』
連日厳しい猛暑が続く夏。
夜空の下、うちわを手に涼む男。
うつむき、何か考え事をしている。
男 「・・・・・」
大きな溜息をつく。
突然ドーンと大きな音が夜空に響き渡る。
男 「・・・花火か」
立ち上がる男。
缶ビールを片手に高台に上がる男。
夜空に響いているドーン、ドドーンという音。
ようやく夜空を見上げる男。
色鮮やかな打ち上げ花火が真夏の夜空を彩る。
男 「おおー・・・」
じっと花火を見つめる。
次から次へと繰り広げられる光のイリュージョン。
男 「・・・・・」
手に持つ缶ビールは開いてない。
花火を一心不乱に見つめる男。
その男の姿。
わずか数秒間だけ光り輝く花火。
しかし人々の心にその残像が刻まれる。
鼻水をすすり出す男。
男の瞳に涙が浮かぶ。
その涙に夜空に浮かぶ花火が映る。
手元の缶ビールにようやく気が付く男。
缶を開け、グイッと飲む。
男 「あーうまい・・・」
缶ビールを飲みながら花火を見上げる男。
男 「上を向いて花火を観よう・・・か」
男、苦笑い。
夜空の花火がラストスパート。
絶え間なく打ち上げられる花火。
夜空に響き渡る爆音の心地よさ。
ショータイムのクライマックス。
素晴らしく実に見事な光の芸術。
すべての人の視線が注がれる。
いつの間にか、いつもの真夏の夜空に戻る。
男、ビールを一気に飲み干す。
男 「・・・ありがとう」
夜空を見上げてつぶやく男。
『上を向いて歩こう』の曲が流れる。
歩いていく男。
その背中。
見上げると星が輝いている。
