小林 太樹 『風・遊・記』 ショートシナリオストーリーブログ   -56ページ目

『今年の漢字2010 -糧- 』


小林 太樹  『風・遊・記』  ショートシナリオストーリーブログ  -MY書道「糧」



幹と枝だけで寒風をじっと耐える


芽が出始め やがて葉が実る


さわやかな春風 新しい緑の美しさ


太陽を浴び 深まる緑


梅雨を吸収し 真夏の陽射しを全身に受ける


心地良い秋風 緑葉から黄葉へ


木枯らしが木の葉を散らす


地面を敷き詰める黄色い落葉


真っ直ぐ空に伸びる幹


全ての枝先が空に向いている

 

威風堂々と見える幹と枝だけのイチョウの樹


真冬の風に耐えている



一年間の全てが次に向かうための「糧」である


しっかりと根をはり 強い太い樹へ


さあ 2011へ 踏み出そう







『bar -年の瀬2010-』


カウンターに並ぶグラスが輝いている


ていねいにグラスを磨く店の男。


ドアが開き、客の男が入ってくる。


客の男 「こんばんは。」


店の男 「いらっしゃい。」


客の男 「ビールを。」


店の男、今磨き終えたグラスにビールを注ぐ。


キラキラ輝くグラスに琥珀色のビールが映える。


客の男、しばらく輝くビールを見つめゆっくり口をつける。


客の男 「・・・あー美味い。」


わずかに微笑む店の男。


客の男 「今年ももう終わりですね・・・早いなぁ。」


店の男 「・・・一年間、お疲れさん。」


客の男 「今年を漢字一文字で表すと何だろうって考えたことありますか?」


店の男 「『今年の漢字』ってヤツだね。」


客の男 「オレは忙しいまま一年が過ぎたから 『忙』 かな・・・」


店の男 「・・・他には?」


客の男 「うーん・・・やっぱり忍耐の 『耐』 かな・・・」


店の男 「・・・いいねぇ。今のこの時代に一年間忙しく仕事が出来るというのは

      幸せなんじゃないかな・・・それに耐え忍ぶことは必ず次につながる

      大切なことだと思うよ。」


客の男 「・・・うーん、なるほど。」


心地良さそうにビールを飲み干す客の男。


客の男 「赤ワインを。」


大きめのワイングラスを取り出し磨きだす店の男。


店の男 「・・・誕生日もそうだけど、年の瀬もまた、1年の早さと歳を重ねることに

      抵抗を感じるんだよね。」


ピカピカに輝いたワイングラスに赤ワインを注ぐ。


店の男 「だけど、最近気づいたんだ・・・年々『覚悟』のような気持ちが芽生えてくる

      ことに・・・覚悟を持って事を成そうと。」


赤ワインをゆっくりグラスの中で転がす客の男。


店の男 「まあそんなに大それたことではないんだけど・・・

      要するに本当の決意のようなものかな。」


味わうようにゆったりとワインを飲む客の男。


店の男 「今年もそんなことを感じるオレの年の瀬・・・かな。」


グラスを磨き始める店の男。


黙ってワインを味わう客の男。


間。


客の男 「・・・じゃ今年の漢字は 『決』 ですね。・・・いいですね。」


店の男 「いや、まだまだ 『決』 には早いね。もっともっと覚悟を持たないと。」


客の男 「・・・それじゃ今年の漢字は何ですか?」


店の男 「それは・・・次まで考えておくよ。」


客の男 「ずるいなー。聞きたかったのに・・・」


微笑む店の男。


客の男 「・・・オレも少しずつ、覚悟が持てるような年の瀬にしたいですね。」


店の男 「ワイン、一杯おごるよ。」


客の男 「やったー、ラッキー。」


微笑みながらワインを注ぐ店の男。


カウンターのワイングラスが明かりに照らされ茜色に輝く。













『禁煙』


無人の喫煙ルーム。


男Aが一人入ってくる。


ポケットからタバコを取り出す男A。


ほんの一瞬ためらいタバコの残りの本数を数える。


ため息まじりに思い切ってタバコを口にくわえる。


ライターで火をつけゆっくりと美味そうにタバコを吸う男A。


タバコの煙がゆったりと喫煙ルームに漂う。


喫煙ルームに男Bが入ってくる。


タバコに火をつける男B。


ケイタイを見ながらタバコを吸っている男A。


男B 「明日からタバコ値上がりますね。まとめ買いとかするんですか?」


男A 「いや、・・・明日からタバコやめるから。」


男B 「えっ、ホントですか?」


男A 「・・・やめる。」


男B 「えーっ、すごいっすねー。」


男A 「Bはやめないのか?」


男B 「ボクはやめないっす。だからもう3カートンまとめ買いしちゃいました。」


男A 「・・・・・」


男B 「明日からかなり高くなりますからね。」


男A 「・・・そうだよな。」


男B 「ボクはタバコを我慢してストレス溜めたくないので。」


男A 「そうなんだよな・・・だけどオレは明日からやめる、明日から。」


と言いながらタバコを消して喫煙ルームを出て行く男A。



それから数日後の喫煙ルーム。


いつものようにタバコを吸っている男A。


男Bが入ってくる。


男B 「あれっ、あれっ、・・・やめたんじゃなかったでしたっけ?」


男A 「・・・タバコはやめた。」


男B 「いや、今Aさんタバコ吸っているんですけど。」


男A 「・・・いや、タバコはやめた。」


男B 「いやいやいや、どう見ても今Aさんタバコ吸ってますよ。」


男A 「・・・ほっといてくれ。オレはタバコを我慢してストレスを溜めたくないんだ。」


男B 「それは、ボクのセリフですよ。」


喫煙ルームに男Cが入ってくる。


男A 「あれ、Cさんタバコやめたんじゃなかったの?」


男C 「・・・1日は吸わなかったんだけどね、1本だけと思って吸ったらそれが2本になり3本になり・・・」


男A 「分かる!オレもそうなんだよ。1本だけと思って吸ったのがいけなかったんだよね・・・」


男C 「まあでも、本数は減ったから良しとしようと・・・」


男A 「オレもオレも!タバコやめて2日目なんか5本しか吸わなかったもん・・・」


男B 「それ、やめたって言わないですよ。」


男A 「今じゃ2日に1箱買うペースだから、今までよりは全然減ったよ。」


男C 「オレね、来年になったらやめようと思っているんだ。」


男A 「あっ、それいいねー、オレもそうしよう、2011年の元旦からやめる。」


男C 「じゃ、来年からまた一緒に禁煙しようよ。」


男A 「うん。それまでは思う存分吸おう。」


男B 「あのー、そんなに何回も禁煙しないで、普通に吸ったらどうですか?」


男A 「いや、今度こそやめる。」


男C 「やめる。」


男AとC、顔を見合わせ微笑みながら煙を吐く。


男B、あきれた顔で煙を吐く。


3人のタバコの煙が喫煙ルームの中を漂う。