星の輝き、月の光 -9ページ目

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

深夜、ジェルミが慌てた様子でミナムの部屋にやってきた。

 

「ミナム、シヌヒョン部屋にいないよ」

 

「何!?」

 

ドアが少しだけ開いたままになっていることを不審に思ったジェルミが中をのぞいてみると、そこにシヌの姿はなかったという。

急いでテギョンの部屋の前に来た二人はそこで一度顔を見合わせ、合図するように頷くとそっとドアを開けた。中は電気がついていたがそこにはシヌどころかミニョの姿もない。どこへ行ったのかと捜していると、階段を下りてくる二人を見つけた。しかもしっかりと手をつないでいる二人を。ミニョがシヌに向ける笑顔は柔らかく二人が特別な関係に見えた。

ミナムは複雑な気持ちだった。てっきりシヌが一方的にミニョに手を出していると思ったのに。もしそうなら許さないと握っていた拳は目の前の光景に行き場をなくしさまよっていた。

ミナムもジェルミと同じで、ミニョは今でもテギョンだけを好きだと思っていた。テジトッキをオッパと呼び、話しかけるのもいつも持ち歩いているのも、テギョンのいない現実に耐えられなくなったミニョの心がそれでもテギョンを求めた結果だと。

兄として何とかミニョを救ってやりたいと思っていた。心にできた深い傷を胸にあいた大きな穴を少しずつでも癒やしてやれないかと。

しかし今ミニョの腕にテジトッキはいない。代わりにつかんでいるのはシヌの手。

裏切られた気がした。

 

「オッパって何だよ。シヌさんって呼んでたのに、いつの間にそんな風に。もしかして俺たちがいないとこでずっとそう呼んでたのか?」

 

「え?」

 

かけられた声にミニョが目を開けると、信じられないものを見たといった表情のミナムがいた。そのすぐ後ろにはジェルミも見える。

 

「シヌヒョンよかったね、オッパって呼んでもらえて」

 

口元は笑っているのに目の色は冷ややかで言葉には棘を感じる。非難するような視線が向けられている意味に気づくと、ミニョはつないでいた手を慌てて離した。

 

「お兄ちゃん違うの、ここにいるのはシヌさんじゃなくて・・・シヌさんだけどテギョンオッパなの」

 

「何だよソレ、わけ判んないこと言って。いいよ別に、無理にごまかさなくても。俺はただ自分の無力さと鈍さに、あきれて腹が立ってショック受けてるだけだ」

 

テジトッキのことも判ってもらえないのに、どうしたらシヌの中身がテギョンだと理解してもらえるのか。うまく説明できずにただ「違う」と繰り返すミニョの目の前に大きな背中が立ち塞がった。

 

「ミニョの言ってることは本当だ。この身体はシヌだが今は俺が借りてる」

 

「シヌヒョン、その声・・・!?」

 

「気づいたか、シヌの声じゃないだろ。俺はテギョンだ」

 

確かにその口から聞こえるのはテギョンの声。しかしそこに立っているのはどう見てもシヌ。テギョンだと言われても納得できるはずもなく、ミナムは驚きながらも怪しむように目を細めた。

 

「どうやら俺は死んだみたいだ。魂だけになった俺はいろいろあって、今はシヌの中に入ることができるようになった。シヌには悪いが、こっそり身体を借りてる」

 

「・・・シヌヒョン・・・そうまでしてミニョを手に入れたかったの?テギョンヒョンの霊が憑依してるフリして声までマネして、今の俺はシヌじゃないテギョンだって言ってミニョに近づいたの?とんでもないこと思いつくね。でもそれって虚しくない?」

 

あまりにも突拍子もない話を受け入れられず、そんな男だったのかとミナムは軽蔑の眼差しを向けた。

 

「ミナム、本気でそう思うのか?」

 

久しぶりに聞いた声は低く鋭いのにその表情は憮然としていて、ミナムは黙ったままシヌの姿をした自称テギョンを食いつくように見た。自分の知っているシヌは絶対にテギョンのフリなんてしない。心の片隅でそう思いつつも釈然としないものがある。

正対する二人の間から生まれた重苦しい空気は緊張感を伴って周囲に広がっていく。それにのみこまれたミニョとジェルミは動くこともできず息を凝らしていた。

四人とも動けないままどれくらい時間が経ったのか。身体の奥から絞り出すように、ふうーっと大きなため息をついたミナムはガシガシと頭をかいた。

 

「そう思えないから困ってんだよ。なんだよその鋭い目は、その顔には似合わないよ。シヌヒョンなのにテギョンヒョン?しかもよりにもよって・・・あーったく!」

 

「その様子だととりあえずは信じてもらえたみたいだな」

 

ミナムは混乱する頭をどうにか整理しようと額を押さえ顔を歪ませる。

 

「えっ?えっ?何言ってんの、どういうこと?全然わけ判んないんだけど。俺にも判るように説明してよ」

 

そのすぐ後ろでは二人のやりとりを見ていたジェルミが話についていけず、右往左往していた。

 

 

 

                  

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「いいなー、私流れ星って見たことないんですよね」

 

何気なく観ていたテレビで流星群の話をしていた。今夜極大を迎えると。

ミニョはただ流れ星が見られるだけでなく、そこに“たくさん”という修飾語が加わり、わくわくとした感情が抑えきれないのか、膝の上にいるテジトッキをギュッと抱きしめた。

 

「俺も見たことないぞ。まあ俺の場合は流れてない星も見えないけどな」

 

テギョンが見たことがあるのはテレビや写真に写っている星だけ。夜空を見上げても月しか見えないテギョンには、流れ星だから見たいという感情はなかった。しかしミニョの“見たい!”という気持ちはその行動から十分に伝わってくる。一緒に見ようと言うのは簡単だが、ぬいぐるみの目で星が見えるのかは判らない。どうせならミニョの見たいものを自分も一緒に見ようと思い、テギョンはシヌの身体を借りることにした。

真夜中、シヌがぐっすり眠っている頃を見計らってシヌの意識を探す。何度もやっているせいか成功率もずいぶんと上がり、「ちょっと行ってくる」という言葉を残すとさっきまでテジトッキだったテギョンはあっという間にシヌの姿で戻ってきた。

ミニョは目を瞑って待っていた。姿を見てしまうとどうしてもシヌを意識してしまうから。

テギョンの声に笑顔を作ると、見えないから連れてってくださいと手を伸ばす。ミニョにそんなつもりはないかもしれないが、甘えたような声にテギョンは口元を緩めるとその手を取った。

目の見えないミニョの手をしっかりと握り、ゆっくりと廊下を歩く。屋上へ向かう階段を上っていると、眉間に塗った薬のせいで目が開けられなくなり部屋まで連れてってやったことを思いだし、くすりと笑みがもれた。

外に出ると空には三日月ほどの大きさの月が輝いていて真っ暗闇というわけにはいかなかったが、それでもたくさんの星の瞬きが見えた。久しぶりに星を見たミニョが喜んでいる横でテギョンは言葉を失っていた。

 

「こんなに・・・見えるものなのか・・・・・・」

 

テギョンの知っている夜空は、ずしんとのしかかってくる重く冷たい暗闇なのに、今目の前に広がっているのは同じ夜空とは思えないくらい無数の未知の光が瞬いている。

初めてシヌの身体に入った時に気づいたのは暗がりでも目が見えるということ。シヌの身体なら星も見えるだろうとは思っていたが、想像以上にはっきりと見える星々にテギョンは圧倒されていた。

 

「はい、きれいですね」

 

横を向いたミニョの目に映ったのは食い入るように夜空を見上げるテギョン、ではなく、シヌの姿。その途端、押しつぶされそうな寂しさに包まれると、それに負けまいと唇を噛み黙って空を見上げた。

 

 

 

 

 

空を見上げて数十分。夜の空気はまだまだ冷たく、冷えた身体を両腕で抱きしめながらミニョは大きなため息をついた。

 

「たくさん見えるって言ってたのに一つも見えませんね」

 

「そうか?俺は十個くらいは見たぞ」

 

「えっ!いつの間に!ずるいです!!」

 

「ずるいって・・・ミニョがちゃんと見てないだけだろ」

 

「そんなことありません、こうやって一生懸命・・・あっ!!」

 

ぐるりと空を仰いだミニョの視界の端で一筋の光が流れた。それは本当に一瞬のことで、めいっぱい引かれた弓から放たれた矢のように光が一直線に夜空を駆け抜けていった。

 

「オッパ!見えましたっ!今、ヒュッて流れ星が!!すごいです!でもあんなに速いなんて・・・願い事を言う暇なんてありませんね」

 

「何だ、流れ星に願い事か?星に頼ったってムダだぞ。叶えたいことがあるなら自分で努力しろ」

 

言っていることは間違っていないが突き放した言い方に現実の距離をあらためて知る。隣にいるのはテギョンなのにそこにテギョンの姿はない。胸にぽっかりとあいた大きな穴は埋まらない。

星に願うように神様に祈るように、ミニョは両手の指を組み合わせ星を仰いだ。

 

「努力してどうにかなることなら何でもします・・・」

 

小さな呟きは夜空に溶けこんだ。

 

 

 

 

 

「そろそろ戻るか」

 

もう一時間以上屋上にいる。ミニョも寒そうだしこっそり身体を借りているテギョンとしては明日のシヌの仕事に支障をきたしてはマズいと部屋に戻ることにした。

 

「じゃあオッパ、お願いします」

 

来た時と同じように目を瞑ったミニョ。まるでお姫様をエスコートする騎士のようにスッと差し出された手をテギョンが取る。

見えない状態で階段を下りるのは少し怖かったが、支えてくれる手は力強く残りの段数を教えてくれる声は安心感を与えてくれた。

上る時よりも慎重に、ミニョが踏み外さないようにと足もとへ向けていたテギョンの視線は目的を果たすと同時に、そこに立っているミナムとジェルミをとらえた。二人の顔はどう見ても穏やかな表情とは言い難い。

 

「オッパ、どうしたんですか?」

 

目を瞑ったままのミニョには周りの状況が判るはずもなく、止まってしまった歩みに疑問を投げかけた。

 

                

 

 

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勢いよく開いたドアから手が伸びると、廊下に追い出されたはずのジェルミの身体は吸いこまれるように部屋の中へと消えた。

胸ぐらをつかんで離さないミナムの顔には、疑いといら立ちの色が濃く浮かんでいた。

 

「ミニョが寝てるだろ?夜中?どういうことだよ!」

 

「ミナム、落ち着けって、何想像したかだいたい判るけど、ちょっと用事があっただけかもしれないだろ」

 

「夜中に部屋で二人きりじゃなきゃいけない用って何だよ。朝メシ食べる時でいいじゃないか」

 

「そりゃあそうだけど、シヌヒョン忙しいし、急いでて朝まで待てなかったのかも・・・」

 

そう言いながらジェルミもモヤモヤとしたものを抱えていた。

夜中にシヌがミニョのいる部屋から出てくるのを見かけたのは一度だけではなかった。あきらかに人の目を気にして足音を立てないようにし、こっそりと部屋へ出入りしているのを数回見かけた。そのことを話すとミナムは握った拳をわなわなと震わせた。

 

「じゃあやっぱりアレは・・・くそっ!俺はテギョンヒョンだから・・・テギョンヒョンならって許したんだ。それはシヌヒョンにも伝わってると思ってた、それなのにミニョの傷ついた心につけこむなんて、シヌヒョンのこと見損なった。ミニョもミニョだよ、いくらテギョンヒョンが帰ってこないからって・・・」

 

裏切られた気がして怒りと悔しさで震えるミナムの手には爪がくいこみ、奥歯がギリリと音を立てた。

普段は飄々としているように見えるが、ミニョのことになるとガラリと性格が変わったように熱くなる。

 

「俺も最初はちょっと疑ったんだけどさ、二人を見てると何か違う気がするんだよね。二人とも今までと全然変わらないっていうか、そういう感じじゃないっていうか・・・シヌヒョンはポーカーフェイスだから判んないけど、ミニョは絶対に顔とか行動に出ると思うんだ。でもそういうの全然ないし、それに俺は今でもミニョはテギョンヒョンのこと好きだと思う。でもじゃあシヌヒョンは夜中に何しに行ってるのかなって気になってて・・・」

 

ジェルミの言葉は興奮していたミナムを少しだけ冷静にさせた。身体を支配していた感情にスッと理性が入りこみ、握っていた拳から力が抜けていく。

 

「確かにそうだな・・・もしミニョがシヌヒョンと何かあったんなら俺たちの前で平気な顔していられるはずがない。でもじゃあアレは・・・」

 

腕組みをして難しい顔をしているミナムは自分の中にある疑問の答えを出そうと目を細めた。

 

「あのキスマークはどうやってついたんだ?」

 

「何ソレ!?キスマークって何のこと、もしかしてミニョに!?」

 

さっきはジェルミの言葉にミナムが食いついたが、今度は逆にミナムの言葉にジェルミが食いついた。どういうことかと詰め寄る。

ミナムは今朝、ミニョの首筋に一つの赤い跡を見つけた。ほんの一瞬チラッと見えただけだったが、それはキスマークに見えた。しかしテギョンがいない今、そんなものがつくとは思えない。だから見間違いだったかなと考えていた矢先、シヌが夜中に部屋に出入りしていると聞いて・・・

 

「ミナム!黙ってないで教えてよ。ミニョにキスマークがついてたの!?」

 

ギャーギャーと騒ぐジェルミを放っておき、ミナムは考える。今までの二人の様子を思い出し、自分の目で見たこと、そしてジェルミから聞いた話を総合して一つの答えを出した。

 

「もしかしてシヌヒョン・・・ミニョが寝てる間に何かしてるのか?」

 

「何かって何!?」

 

「例えば、こっそり身体触ったり、触らせたり、キスとか・・・とにかくミニョが起きてたらできないようなこと」

 

もしそうなら絶対に許せないと再びミナムがいきり立つ。

ジェルミの頭の中ではもくもくと大きな入道雲のように妄想が広がっていた。

真夜中にこっそりと忍びこんだテギョンの部屋。ミニョがぐっすり眠っていることを確認すると、シヌはベッドの端に腰を下ろした。そっと触れる頬。目尻に残る涙の跡に、いつか俺がテギョンを忘れさせてやる・・・と、花びらのような唇を指でなぞり唇を重ね・・・

 

「わーわーわー、ダメだよシヌヒョン、絶対ダメだ!」

 

「どんな妄想したんだよ」

 

「キスしてた。で、手が胸を触ろうと近づいて・・・信じられない、シヌヒョンがそんなことするなんて」

 

青ざめた顔で、わーっと頭を抱えたジェルミはどうしようと呟きながらうろうろ歩き出した。

 

「とにかく確かめないとな」

 

「シヌヒョンに聞くの?夜中にテギョンヒョンの部屋で何してるのって?」

 

「そんなの聞いたって絶対に答えないだろうし、部屋に出入りしてるのだって、「何のことだ?」とか平気な顔でしらを切るに決まってる」

 

「じゃあどうしたらいいんだよ」

 

「現場を押さえるしかないだろ。シヌヒョン見張って、部屋に入ったら乗りこむんだ。それなら言い逃れできないからな。で、もしミニョに何かしてたら・・・俺はシヌヒョンを殴る」

 

握った拳をポキポキと鳴らすミナムの目は真剣で殺気立っていた。

 

 

 

                  

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