勢いよく開いたドアから手が伸びると、廊下に追い出されたはずのジェルミの身体は吸いこまれるように部屋の中へと消えた。
胸ぐらをつかんで離さないミナムの顔には、疑いといら立ちの色が濃く浮かんでいた。
「ミニョが寝てるだろ?夜中?どういうことだよ!」
「ミナム、落ち着けって、何想像したかだいたい判るけど、ちょっと用事があっただけかもしれないだろ」
「夜中に部屋で二人きりじゃなきゃいけない用って何だよ。朝メシ食べる時でいいじゃないか」
「そりゃあそうだけど、シヌヒョン忙しいし、急いでて朝まで待てなかったのかも・・・」
そう言いながらジェルミもモヤモヤとしたものを抱えていた。
夜中にシヌがミニョのいる部屋から出てくるのを見かけたのは一度だけではなかった。あきらかに人の目を気にして足音を立てないようにし、こっそりと部屋へ出入りしているのを数回見かけた。そのことを話すとミナムは握った拳をわなわなと震わせた。
「じゃあやっぱりアレは・・・くそっ!俺はテギョンヒョンだから・・・テギョンヒョンならって許したんだ。それはシヌヒョンにも伝わってると思ってた、それなのにミニョの傷ついた心につけこむなんて、シヌヒョンのこと見損なった。ミニョもミニョだよ、いくらテギョンヒョンが帰ってこないからって・・・」
裏切られた気がして怒りと悔しさで震えるミナムの手には爪がくいこみ、奥歯がギリリと音を立てた。
普段は飄々としているように見えるが、ミニョのことになるとガラリと性格が変わったように熱くなる。
「俺も最初はちょっと疑ったんだけどさ、二人を見てると何か違う気がするんだよね。二人とも今までと全然変わらないっていうか、そういう感じじゃないっていうか・・・シヌヒョンはポーカーフェイスだから判んないけど、ミニョは絶対に顔とか行動に出ると思うんだ。でもそういうの全然ないし、それに俺は今でもミニョはテギョンヒョンのこと好きだと思う。でもじゃあシヌヒョンは夜中に何しに行ってるのかなって気になってて・・・」
ジェルミの言葉は興奮していたミナムを少しだけ冷静にさせた。身体を支配していた感情にスッと理性が入りこみ、握っていた拳から力が抜けていく。
「確かにそうだな・・・もしミニョがシヌヒョンと何かあったんなら俺たちの前で平気な顔していられるはずがない。でもじゃあアレは・・・」
腕組みをして難しい顔をしているミナムは自分の中にある疑問の答えを出そうと目を細めた。
「あのキスマークはどうやってついたんだ?」
「何ソレ!?キスマークって何のこと、もしかしてミニョに!?」
さっきはジェルミの言葉にミナムが食いついたが、今度は逆にミナムの言葉にジェルミが食いついた。どういうことかと詰め寄る。
ミナムは今朝、ミニョの首筋に一つの赤い跡を見つけた。ほんの一瞬チラッと見えただけだったが、それはキスマークに見えた。しかしテギョンがいない今、そんなものがつくとは思えない。だから見間違いだったかなと考えていた矢先、シヌが夜中に部屋に出入りしていると聞いて・・・
「ミナム!黙ってないで教えてよ。ミニョにキスマークがついてたの!?」
ギャーギャーと騒ぐジェルミを放っておき、ミナムは考える。今までの二人の様子を思い出し、自分の目で見たこと、そしてジェルミから聞いた話を総合して一つの答えを出した。
「もしかしてシヌヒョン・・・ミニョが寝てる間に何かしてるのか?」
「何かって何!?」
「例えば、こっそり身体触ったり、触らせたり、キスとか・・・とにかくミニョが起きてたらできないようなこと」
もしそうなら絶対に許せないと再びミナムがいきり立つ。
ジェルミの頭の中ではもくもくと大きな入道雲のように妄想が広がっていた。
真夜中にこっそりと忍びこんだテギョンの部屋。ミニョがぐっすり眠っていることを確認すると、シヌはベッドの端に腰を下ろした。そっと触れる頬。目尻に残る涙の跡に、いつか俺がテギョンを忘れさせてやる・・・と、花びらのような唇を指でなぞり唇を重ね・・・
「わーわーわー、ダメだよシヌヒョン、絶対ダメだ!」
「どんな妄想したんだよ」
「キスしてた。で、手が胸を触ろうと近づいて・・・信じられない、シヌヒョンがそんなことするなんて」
青ざめた顔で、わーっと頭を抱えたジェルミはどうしようと呟きながらうろうろ歩き出した。
「とにかく確かめないとな」
「シヌヒョンに聞くの?夜中にテギョンヒョンの部屋で何してるのって?」
「そんなの聞いたって絶対に答えないだろうし、部屋に出入りしてるのだって、「何のことだ?」とか平気な顔でしらを切るに決まってる」
「じゃあどうしたらいいんだよ」
「現場を押さえるしかないだろ。シヌヒョン見張って、部屋に入ったら乗りこむんだ。それなら言い逃れできないからな。で、もしミニョに何かしてたら・・・俺はシヌヒョンを殴る」
握った拳をポキポキと鳴らすミナムの目は真剣で殺気立っていた。