ひとりの夜はうさぎを抱きしめて 21 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

車の中は静かだった。

イヤホンで音楽を聴いているシヌはいつものことだったが、一番後ろでマ室長の眠気覚ましのBGMのようにしゃべり続ける二人が、今日は珍しくひと言も発していなかったから。

 

「今日はやけに静かだな、そんなに疲れたのか」

 

深夜までかかった収録。寝ているのかと思いマ室長がルームミラーで二人を見たが、ミナムもジェルミも寝てはおらず、顔を背けるようにして窓の外を見ているだけだった。

 

「もしかしてケンカでもしたのか?だとしても人前では険悪な雰囲気は出すなよ、すぐに不仲説とかって書かれるからな。にしても顔を見るのも嫌ならどっちか前に座ればいいのに」

 

「別にケンカなんかしてないよ。俺はちょっと考え事してただけ」

 

「俺も考え事。でもどうせ明日何のアイス食べようかとか考えてるジェルミと違って、俺のはもっと重大なことだけどな」

 

以前に何度も、どのアイスを食べようかと真剣な顔で悩むジェルミを見ているミナムは、どうせ今回も大したことじゃないだろと鼻で笑う。

 

「アイスのことじゃないよ、俺だってすごく大事なことで、どうしたらいいか判んなくて、困ってるんだ」

 

「アイスじゃないなら何だよ、言ってみろよ」

 

「それはちょっと、ここじゃあ・・・」

 

語尾を濁しつつ車内をぐるりと一周したジェルミの視線が元の場所へ戻ってくる。

 

「ほらみろ、アイスじゃないならケーキか?クッキーか?」

 

「違うって。そう言うミナムは何なんだよ、言ってみろよ」

 

「俺は・・・俺もちょっと、ここじゃあ・・・」

 

ジェルミと同様に言葉を濁しながら車内を一周したミナムの視線も元の場所に戻る。

 

「おいおい、ケンカはよせ」

 

「マ室長が振ったんだろ」

 

その後は二人ともさっきまでのように黙ったまま時間が過ぎ、マ室長が大きなあくびをしながら運転するワゴン車は静寂を保ったまま合宿所に着いた。

車を降りると前を歩くシヌにチラチラと視線を送りながらジェルミはミナムの袖をつかんだ。

 

「・・・ちょっと話があるんだけど・・・」

 

目の前にいるシヌから少し距離をとらせるように強めに引っ張られるミナムの袖。シヌに聞こえないようにわざと小声で話すジェルミはいつもと雰囲気が違って見えた。その様子から話というのはきっとシヌには聞かれたくない内容だろうという推測がつくが、自分でも悩み事を抱えているミナムの頭に真っ先に浮かんだのは“めんどくさい”という言葉。

 

「俺もう寝るから」

 

「ちょっとだけでいいんだ、俺一人じゃどうしたらいいか判んないんだよ」

 

すがるような目と意外にも強くつかんで離さない袖に、仕方ないなとミナムは自室へ入れた。

 

「で、話って何だよ」

 

「あ、うん、えーっとね・・・」

 

切羽詰まった顔をしていたわりに、ジェルミはなかなか話し出さない。ラグの上にペタンと腰を下ろしたミナムはうろうろと歩き回るジェルミを目で追った。

話があると言ったものの、ジェルミは今になって話していいのか悩み出した。それが行動となってあらわれている。口を開きかけて閉じ、また開きかけては閉じというのを数回くり返し、しびれを切らしたミナムが「もう寝る」と腰を上げた頃、やっと話し始めた。

 

「あのさ・・・最近のシヌヒョン、どう思う?」

 

ミナムはてっきり今後のA.N.JELLのこととかミニョのことだと思っていた。テギョンがいなくてもA.N.JELLの活動は続いているが、今までと同じというわけにはいかないし、いつまで続けられるかも判らない。そしてミニョもぬいぐるみが心の支えになっているのはいいが、言動に不安を感じる。自分なりに答えを用意しておいたのに、それがいきなりシヌのことをどう思うかと聞かれ、ミナムの思考はしばらく止まった。

 

「あー・・・えっと、うん・・・・・・・・・大丈夫、俺そういうの特に偏見とかないし。安心しろ、シヌヒョンのことはただのメンバーとしか思ってない。にしてもまさか恋愛相談だったとはな、しかも相手がシヌヒョンだなんて」

 

意外だなと目を丸くしつつ、頑張れとジェルミの肩を叩く。

 

「へ?え?・・・あ!違う、違う!そういうのじゃないよ。俺が言いたいのは、最近のシヌヒョン何か変じゃないかってこと」

 

「へん?」

 

「うん、シヌヒョンって体調管理にはすごく気をつけてるだろ。暴飲暴食は絶対しない、それに夜更かしも」

 

常に暴飲暴食ぎみで夜中までゲームをしている二人にとっては、シヌの自制心にはいつも感心させられていた。

 

「でも最近変なんだよ。仕事中、時々眠そうにしてるんだ。今日も撮影の合間にあくびしてた」

 

「そりゃあたまにはそういう日だってあるだろ。どんなに気をつけても体調が悪いことだってあるし、布団に入っても寝れないことだってある。ちゃんと寝たって眠いことあるし。どっちかっていうと俺はそのパターンだな」

 

何の話かと思えばそんなくだらないことだったのかと、ミナムはもう出て行けとジェルミの背中を押した。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ、俺原因に心当たりがあるんだ。最初は見間違いかなと思ったんだけど・・・」

 

廊下に押し出されパタンと閉まったドアに向かってジェルミは話し続ける。

 

「シヌヒョンが夜中にこっそりテギョンヒョンの部屋から出てくるの、俺見たんだ」

 

 

 

                

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