ひとりの夜はうさぎを抱きしめて 23 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。


 

「いいなー、私流れ星って見たことないんですよね」

 

何気なく観ていたテレビで流星群の話をしていた。今夜極大を迎えると。

ミニョはただ流れ星が見られるだけでなく、そこに“たくさん”という修飾語が加わり、わくわくとした感情が抑えきれないのか、膝の上にいるテジトッキをギュッと抱きしめた。

 

「俺も見たことないぞ。まあ俺の場合は流れてない星も見えないけどな」

 

テギョンが見たことがあるのはテレビや写真に写っている星だけ。夜空を見上げても月しか見えないテギョンには、流れ星だから見たいという感情はなかった。しかしミニョの“見たい!”という気持ちはその行動から十分に伝わってくる。一緒に見ようと言うのは簡単だが、ぬいぐるみの目で星が見えるのかは判らない。どうせならミニョの見たいものを自分も一緒に見ようと思い、テギョンはシヌの身体を借りることにした。

真夜中、シヌがぐっすり眠っている頃を見計らってシヌの意識を探す。何度もやっているせいか成功率もずいぶんと上がり、「ちょっと行ってくる」という言葉を残すとさっきまでテジトッキだったテギョンはあっという間にシヌの姿で戻ってきた。

ミニョは目を瞑って待っていた。姿を見てしまうとどうしてもシヌを意識してしまうから。

テギョンの声に笑顔を作ると、見えないから連れてってくださいと手を伸ばす。ミニョにそんなつもりはないかもしれないが、甘えたような声にテギョンは口元を緩めるとその手を取った。

目の見えないミニョの手をしっかりと握り、ゆっくりと廊下を歩く。屋上へ向かう階段を上っていると、眉間に塗った薬のせいで目が開けられなくなり部屋まで連れてってやったことを思いだし、くすりと笑みがもれた。

外に出ると空には三日月ほどの大きさの月が輝いていて真っ暗闇というわけにはいかなかったが、それでもたくさんの星の瞬きが見えた。久しぶりに星を見たミニョが喜んでいる横でテギョンは言葉を失っていた。

 

「こんなに・・・見えるものなのか・・・・・・」

 

テギョンの知っている夜空は、ずしんとのしかかってくる重く冷たい暗闇なのに、今目の前に広がっているのは同じ夜空とは思えないくらい無数の未知の光が瞬いている。

初めてシヌの身体に入った時に気づいたのは暗がりでも目が見えるということ。シヌの身体なら星も見えるだろうとは思っていたが、想像以上にはっきりと見える星々にテギョンは圧倒されていた。

 

「はい、きれいですね」

 

横を向いたミニョの目に映ったのは食い入るように夜空を見上げるテギョン、ではなく、シヌの姿。その途端、押しつぶされそうな寂しさに包まれると、それに負けまいと唇を噛み黙って空を見上げた。

 

 

 

 

 

空を見上げて数十分。夜の空気はまだまだ冷たく、冷えた身体を両腕で抱きしめながらミニョは大きなため息をついた。

 

「たくさん見えるって言ってたのに一つも見えませんね」

 

「そうか?俺は十個くらいは見たぞ」

 

「えっ!いつの間に!ずるいです!!」

 

「ずるいって・・・ミニョがちゃんと見てないだけだろ」

 

「そんなことありません、こうやって一生懸命・・・あっ!!」

 

ぐるりと空を仰いだミニョの視界の端で一筋の光が流れた。それは本当に一瞬のことで、めいっぱい引かれた弓から放たれた矢のように光が一直線に夜空を駆け抜けていった。

 

「オッパ!見えましたっ!今、ヒュッて流れ星が!!すごいです!でもあんなに速いなんて・・・願い事を言う暇なんてありませんね」

 

「何だ、流れ星に願い事か?星に頼ったってムダだぞ。叶えたいことがあるなら自分で努力しろ」

 

言っていることは間違っていないが突き放した言い方に現実の距離をあらためて知る。隣にいるのはテギョンなのにそこにテギョンの姿はない。胸にぽっかりとあいた大きな穴は埋まらない。

星に願うように神様に祈るように、ミニョは両手の指を組み合わせ星を仰いだ。

 

「努力してどうにかなることなら何でもします・・・」

 

小さな呟きは夜空に溶けこんだ。

 

 

 

 

 

「そろそろ戻るか」

 

もう一時間以上屋上にいる。ミニョも寒そうだしこっそり身体を借りているテギョンとしては明日のシヌの仕事に支障をきたしてはマズいと部屋に戻ることにした。

 

「じゃあオッパ、お願いします」

 

来た時と同じように目を瞑ったミニョ。まるでお姫様をエスコートする騎士のようにスッと差し出された手をテギョンが取る。

見えない状態で階段を下りるのは少し怖かったが、支えてくれる手は力強く残りの段数を教えてくれる声は安心感を与えてくれた。

上る時よりも慎重に、ミニョが踏み外さないようにと足もとへ向けていたテギョンの視線は目的を果たすと同時に、そこに立っているミナムとジェルミをとらえた。二人の顔はどう見ても穏やかな表情とは言い難い。

 

「オッパ、どうしたんですか?」

 

目を瞑ったままのミニョには周りの状況が判るはずもなく、止まってしまった歩みに疑問を投げかけた。

 

                

 

 

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