星の輝き、月の光 -35ページ目

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

西陽の射す頃カフェへ来た俺は、いつもの席でいつものコーヒーを頼んだ。そして運ばれてきたそれを飲みながら、楽譜に目を通すふりをしてミニョの様子を窺った。

あまりにも多いミニョのため息に、悩み事でもあるのかと聞いたのは先週のこと。あの時ミニョは食べすぎただけと言っていたが、俺は嘘だと思っている。その証拠に、ミニョがその後も浮かない顔をしているのを俺は何度も見た。

シヌとケンカでもしたのか・・・?

ミニョは俺がここへ来ていることをシヌにどう話しているんだろう。それとも何も話していないのか。

昨日、久しぶりに事務所で顔を合わせたが、シヌは何も言わなかった。もともとポーカーフェイスなヤツだから、知っていたとしても平気な顔をするかも知れないが。

そんなことを考えているうちに、窓の外は徐々に暗くなっていった。

俺1人だけだった客は、すっかり陽が暮れてしまっても増えることはなく、暗がりにポツンと建っている店には俺とミニョ、店長の3人だけ。田舎の小さなカフェは閉店時間も早く、そろそろ帰ろうかとテーブルの上に広がっていた楽譜を鞄へしまっている時にそれは起こった。

今まで静かだった店内に、ガタン!という物音と、「店長!」と言うミニョの叫び声が響く。それに続くミニョの声は切迫していて、俺は慌てて席を立つとカウンターへと向かった。

カウンターの奥では店長が倒れていて、大丈夫ですかと膝をつき心配そうにミニョが声をかけている。


「大丈夫、だ・・・」


店長はしわの刻まれた顔を歪めそう言うが、その顔色は青白く、白髪からのぞく額に浮かんだ脂汗から見ても、とても大丈夫とは思えない。そのままほっとくわけにもいかず、俺は店長を車に乗せ病院へ向かった。




後部座席には苦しそうに胸を押さえながら短い呼吸を繰り返す店長と、その隣で心配そうに見ているミニョ。

田舎の小さな病院へ行っても大きな病院へ行ってくれと言われるのがオチだろうと思った俺は、少し遠いがソウルの病院へ向かった。その判断は間違っていなかったらしく、詳しい検査をするからと、そのまま入院することに。

身内はいないという店長にミニョは付き添いを申し出たが、彼はそれを断った。


「いや、大丈夫だから、帰って休んでくれ。連れてきてくれてありがとう」


そう言うと店長は俺たちに向かって頭を下げた。






俺たちが病院を出た時には午後10時を過ぎていた。ミニョがどこに住んでいるか知らないが、あの店の近くならバスはもうないだろう。家まで送ってやることも考えたが、俺は違う言葉を口にしていた。


「どうやって帰るんだ?シヌを呼ぶのか?」


「いいえ、シヌさんは・・・お仕事で、忙しいから・・・・・・」


相変わらず相手のことを気遣うミニョ。その相手が俺でないことに、ぐっと奥歯を噛みしめる。


「家はどこだか知らないが、遠いのか?タクシー代くらい出してやるぞ。俺が送ってやってもいい。それとも・・・・・・合宿所に泊まるか?」


最後のは自虐的な冗談だった。自分で言ってて呆れてしまう。そんなことはありえないのに。

だから選択肢としてはタクシーで帰るか、俺の車で帰るか。

どっちにするのかと返事を待っていたが・・・


「・・・テギョンさんがよければ・・・今晩・・・泊めて、ください・・・」


しばらく黙っていたミニョがためらいがちに口にしたのは、予想外の答えだった。




。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆




お知らせです。



今こちらで書いている『日蝕』ですが、しばらくお休みします。

理由は簡単。

下書きのストックがあと少しになってしまったから(;^_^A

それと、ミニョの方とかなり差が出てきてしまったから、かな?


私は今までアメブロでアップ出来なかったお話だけをFC2で限定公開してましたが、少し前から一般公開記事も書いてました。

それが日蝕のミニョ目線のお話、『月蝕』です。

しばらくの間、そっちのお話を進めていきたいと思うので、日蝕はお休みします。

どんなお話か興味があるという方は、ぜひ、のぞきに来てください。


FC2ブログ 『もうひとつの星の輝き、月の光』です。


よろしくお願いしま~す(*^▽^*)




宜しければ1クリックお願いします

  更新の励みになります

         ↓

   にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
    にほんブログ村



気がつくと俺はうす暗い場所にいた。辺りを見回すとすぐ傍には巨大な水槽の中、悠々と泳ぐ魚たちが見える。

ああ、ここは水族館だ。しかも見憶えがある。

沖縄の水族館だ。

 

「自分のこと以外は何も見えませんか?」

 

静かな暗がりに悲痛な声が響く。

目の前には目に涙をため、辛そうな顔で俺を見るミニョ。そこへシヌが現れ、ミニョを俺から護るように抱きしめた。

 

「テギョンはそういうヤツなんだ。ひとの気持ちが判らない」

 

「だから何度もお店に来るんですね。私が嫌がってるのに気づかないなんて・・・一応お客さんだから仕方なく接客してるのに」

 

「自分のことしか考えてないんだよ。ミニョの気持ちなんて二の次で、自分のしたいように行動する男なんだ」

 

「シヌさんとは正反対ですね。シヌさんはいっつも私のことを1番に考えてくれます」

 

「俺にしといてよかっただろ」

 

「はい」

 

「俺のこと好き?」

 

「大好きです」

 

2人は俺のことなど目に入っていないのか、抱き合ったまま唇を重ねた。

 

 

 

 

 

「嫌な夢だな」

 

電気のついた部屋。遮光カーテンのおかげで今が朝なのか夜なのかも判らないが、もう1度寝る気にはなれなかった。

少しでも傍にいたいと思うのも、ミニョを取り戻したいと思うのも、結局は自分のことしか考えていないということなんだろうか。

ミニョは俺にはっきりとシヌが好きだと言った。本当にミニョのことを想うなら、俺はミニョの前から姿を消すべきなんだろうか・・・

夢のくせに頭の中にこびりつくように映像が残っていて気分が悪い。それを洗い流そうと熱いシャワーを浴びるが、なかなか消えなかった。






俺は変わらずにカフェへ通ってはいるが、あの夢が何かを暗示しているような気がして、今までの昂った気持ちは極力抑え、凪いだ海のような心でミニョを見ることにした。

仕事の様子、客と話している時の表情、俺への接し方・・・

するとある日、ミニョの変化に気がついた。笑ってはいるが、時々笑顔に陰りが見える。それはその日だけでなく、その後も続いた。


「悩み事か?心配事か?」


コーヒーカップを片付けに来たミニョに声をかけると、ミニョはカップへと伸ばした手を止め、驚いた顔で俺を見た。その顔は、どうして判るんですかと言っているように見えた。


「何かあるんだろ」


「別に、何も・・・」


視線を泳がせスッと顔を逸らし、口ごもるミニョ。


「15回。今日俺がここに来てから、コーヒーを1杯飲み終わるまでに、お前がついたため息の数だ。このまま幾つまでその数字を増やすつもりだ」


ミニョの表情が硬くなる。俺は何も答えないミニョの手首を掴んだ。


「誰かに話すだけで楽になることもある。ため息の理由、俺に話してみないか」


ミニョは目を瞑り一瞬キュッと口を結ぶと、自分の手首を掴んでいる俺の手をそっと引き離した。


「悩んでるようなことは何もありません。今日はちょっと・・・お昼ご飯食べすぎてお腹が苦しかっただけです」


それだけ言うと、ミニョは黙ったままカップを片付けた。




宜しければ1クリックお願いします

  更新の励みになります

         ↓

   にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
    にほんブログ村







 

ミニョがバイトをしているカフェ。何度か通ううちに判ったことだが、どうやら従業員はミニョ1人のようだ。

俺は毎日来るわけじゃないし、時間もバラバラ。昼頃の日もあれば夕方に来ることも。ただいつ来ても客は少なかった。俺以外に多くても2組ほど。俺だけのことも多い。いや、1度だけ午前中の早い時間に来たことがあるが、その時は年寄りが席を埋めていたな。ミニョはその年寄りたちに人気があるようで、ずいぶん可愛がられていた。客の少ない店でよくミニョを雇う気になったなと思っていたが、理由はそこにあるのかと1人で考えたりもした。

 





「お待たせしました。今日は暑いですね」

 

コーヒーの香りが近づいてきてテーブルにカップが置かれた。

初めのうちは俺を避けるようにしていたミニョだが、今では普通に会話するようになった。といっても、たいていその日の天気と、どうでもいいような話。それはきっと俺を単なる客として扱っているか、元カレで今は友人?とでも思っているからに違いない。

俺はそのどちらでいるつもりもないが。


鞄から出した五線紙に鉛筆を走らせる。

コーヒーをひと口飲み、窓の外に目を遣り、風になびく緑を眺め。

のどかな雰囲気の中だからだろうか、優しいメロディーが紙の上で踊り出した。




「どうぞ」


「俺は頼んでないぞ」


「サービスです、店長が材料が余ったからって。作ったのは私ですけど。タマゴサンドです」


ミニョが運んできたのはサンドイッチ。ミニョはタマゴサンドだと言うが、俺にはそうは見えなかった。

なぜかと言えば、黄色い卵に混ざって、くっきりとした緑色のものが見えたから。

俺が過去に食べたタマゴサンドにはない色合い。

いつもは何か運んで来てもすぐにカウンターの奥へ引っ込むミニョが、なぜかトレイを胸の前で抱えたまま戻ろうとしない。そしてその顔には、くすくすとかニヤニヤといった楽しそうなものが浮かんでいた。

嫌な予感がし、パンの端を親指と人差し指でつまんでそっとはがすと、中に挟まれていたのは卵に混ざった大量の緑色の野菜だった。

細かく刻んだ野菜と潰したゆで卵がマヨネーズで和えられ、不気味な色の物体と化している。比率的には絶対に卵より野菜の方が多いだろう。俺にはとてもこれをタマゴサンドとは呼べない。


「・・・ほうれん草、だな」


「すごい!どうして見ただけで判るんですか。緑色の野菜なんて他にもたくさんあるのに。やっぱり嫌いだからですか?」


俺のひくつく顔を見てやけに楽しそうな声を出すミニョ。


「ちゃんと全部食べてくださいね」


悔しいことに俺がここに通い始めてから、初めて見るミニョのとびきりの笑顔。


俺がほうれん草が嫌いなのを知っててわざとこんな物を作るってことは・・・・・・嫌がらせか?

ミニョにフラれたにもかかわらず、バイト先に通い続ける俺に対し、顔や言葉には出さないが、心の中ではここに来ることを迷惑だと思ってるんだろうか?遠回しに、もう来ないでと言ってるんだろうか・・・


こんなことで俺は諦めたりしないぞ!


スキップしながら遠ざかるミニョの後ろ姿を軽く睨みつつ、俺はサンドイッチを手に取ると、息を止めたまま口へと運んだ。




宜しければ1クリックお願いします

  更新の励みになります

          ↓

   にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
    にほんブログ村