西陽の射す頃カフェへ来た俺は、いつもの席でいつものコーヒーを頼んだ。そして運ばれてきたそれを飲みながら、楽譜に目を通すふりをしてミニョの様子を窺った。
あまりにも多いミニョのため息に、悩み事でもあるのかと聞いたのは先週のこと。あの時ミニョは食べすぎただけと言っていたが、俺は嘘だと思っている。その証拠に、ミニョがその後も浮かない顔をしているのを俺は何度も見た。
シヌとケンカでもしたのか・・・?
ミニョは俺がここへ来ていることをシヌにどう話しているんだろう。それとも何も話していないのか。
昨日、久しぶりに事務所で顔を合わせたが、シヌは何も言わなかった。もともとポーカーフェイスなヤツだから、知っていたとしても平気な顔をするかも知れないが。
そんなことを考えているうちに、窓の外は徐々に暗くなっていった。
俺1人だけだった客は、すっかり陽が暮れてしまっても増えることはなく、暗がりにポツンと建っている店には俺とミニョ、店長の3人だけ。田舎の小さなカフェは閉店時間も早く、そろそろ帰ろうかとテーブルの上に広がっていた楽譜を鞄へしまっている時にそれは起こった。
今まで静かだった店内に、ガタン!という物音と、「店長!」と言うミニョの叫び声が響く。それに続くミニョの声は切迫していて、俺は慌てて席を立つとカウンターへと向かった。
カウンターの奥では店長が倒れていて、大丈夫ですかと膝をつき心配そうにミニョが声をかけている。
「大丈夫、だ・・・」
店長はしわの刻まれた顔を歪めそう言うが、その顔色は青白く、白髪からのぞく額に浮かんだ脂汗から見ても、とても大丈夫とは思えない。そのままほっとくわけにもいかず、俺は店長を車に乗せ病院へ向かった。
後部座席には苦しそうに胸を押さえながら短い呼吸を繰り返す店長と、その隣で心配そうに見ているミニョ。
田舎の小さな病院へ行っても大きな病院へ行ってくれと言われるのがオチだろうと思った俺は、少し遠いがソウルの病院へ向かった。その判断は間違っていなかったらしく、詳しい検査をするからと、そのまま入院することに。
身内はいないという店長にミニョは付き添いを申し出たが、彼はそれを断った。
「いや、大丈夫だから、帰って休んでくれ。連れてきてくれてありがとう」
そう言うと店長は俺たちに向かって頭を下げた。
俺たちが病院を出た時には午後10時を過ぎていた。ミニョがどこに住んでいるか知らないが、あの店の近くならバスはもうないだろう。家まで送ってやることも考えたが、俺は違う言葉を口にしていた。
「どうやって帰るんだ?シヌを呼ぶのか?」
「いいえ、シヌさんは・・・お仕事で、忙しいから・・・・・・」
相変わらず相手のことを気遣うミニョ。その相手が俺でないことに、ぐっと奥歯を噛みしめる。
「家はどこだか知らないが、遠いのか?タクシー代くらい出してやるぞ。俺が送ってやってもいい。それとも・・・・・・合宿所に泊まるか?」
最後のは自虐的な冗談だった。自分で言ってて呆れてしまう。そんなことはありえないのに。
だから選択肢としてはタクシーで帰るか、俺の車で帰るか。
どっちにするのかと返事を待っていたが・・・
「・・・テギョンさんがよければ・・・今晩・・・泊めて、ください・・・」
しばらく黙っていたミニョがためらいがちに口にしたのは、予想外の答えだった。
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お知らせです。
今こちらで書いている『日蝕』ですが、しばらくお休みします。
理由は簡単。
下書きのストックがあと少しになってしまったから(;^_^A
それと、ミニョの方とかなり差が出てきてしまったから、かな?
私は今までアメブロでアップ出来なかったお話だけをFC2で限定公開してましたが、少し前から一般公開記事も書いてました。
それが日蝕のミニョ目線のお話、『月蝕』です。
しばらくの間、そっちのお話を進めていきたいと思うので、日蝕はお休みします。
どんなお話か興味があるという方は、ぜひ、のぞきに来てください。
FC2ブログ 『もうひとつの星の輝き、月の光』です。
よろしくお願いしま~す(*^▽^*)
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