「Z -ツェット- 完全版」:これまでの「Z」本との比較
こうしてみると、Z(ツェット)も、絵そのものも、美しいねえ 。
青池保子著「エロイカより愛をこめて」のスピンオフ作品「Z -ツェット-」の完全版が2011年10月に発売になりました。
これは「エロイカ」出版35周年記念によるもので、秋田書店からの出版です。
元々「Z -ツェット-」は、白泉社の「LaLa」に掲載されていたため、同シリーズの仲間でありながら、エロイカは秋田書店、「Z -ツェット-」は白泉社と、これまで別々の出版社から出されていました。
それも、 4種類ものタイプの書籍 で出されていたのです。
完全版の刊行を記念して、当ブログもその比較一覧を作りました。
さっそく見てみましょう。
Z -ツェット- 書籍比較表
1. Z ツェット・ Z ツェット 2 《花とゆめCOMICS》
ページ数が足らずに詰め込んだままの作品や、差し替えられる前の過激な言葉がそのまま掲載されていたりと、資料価値の高い、貴重な単行本。この次に発行されるエクセレント版以降すべての本は、手直しが入っているため、修正前のものが見られるのはこの単行本のみ。オークションや古本屋などで探せば入手可能です。
- 収録内容:1巻 I/II/III "Panzer March" 2巻 IV "Das Fraulein, die Zliebte"/V "BLACK-OUT"/Zの幸運 /暗号名は「ほんのジョーダン」
- 出版社:白泉社
- 1巻 ASIN: B000J6MYAO
- 2巻 ISBN-10: 4592117336 / ISBN-13: 978-4592117339
- サイズ:通常のマンガ単行本サイズ
- 発売:1巻 1981年7月/ 2巻 1985年3月
- 定価:360円(※発売当時価格)
2. Z ツェット 《プリンセス コミックス エクセレント》
現在は絶版。完全版と同じサイズで厚みも似た感じ。紙質はザラ紙で安い感じ。このエクセレント版を出す時に「IV」に大幅な加筆がなされた。加筆修正前の単行本と比較するのも面白い。解説は今は亡き和田慎二氏。
“私は青池さんをエーベルバッハ少佐のような人だと、本気で思い込んでいた。あの性格は作ろうとして作れるものじゃない。” --P.380より
- 収録内容: I/II/III "Panzer March"/IV "Das Fraulein, die Zliebte"/V "BLACK-OUT"/Zの幸運
- 出版社:秋田書店
- ISBN:9784253140010
- サイズ:約21.6 x 15.3 x 2.8 cm(Z 完全版と ほぼ同サイズ)
- 発売:1987年10月
- 定価:734円(税込)
3. Z ツェット 《白泉社文庫》
一冊に全話が収録されているのが特徴でサイズ的にもコンパクト、持ち運びには便利。ただ、この時期の繊細な絵を読むのにこのサイズはキツイ。 この文庫版の最大の特長は、評論家 藤本由香里氏の解説ではなかろうか。
- 収録内容:I/II/III "Panzer March"/IV "Das Fraulein, die Zliebte"/V "BLACK-OUT"/Zの幸運
- 出版社:白泉社
- ISBN-10: 4592883225 / ISBN-13: 978-4592883227
- サイズ:15.2 x 10.6 x 2.4 cm
- 発売:1995年3月
- 定価:650円(税込)
4. Z ツェット・ Z ツェット 2 《プリンセス コミックス デラックス》
この書籍の特徴は(「特長」ではない)、1.通常の単行本より大きいB6サイズ、2.装丁デザインがキレイ、そして3.肝心の中身の印刷が汚いの3つ。秋田書店からの出版だったので版の準備に権利的制約があったのか、この本の版を作る際に、青池さんの描いた原稿からでなく印刷物を版として取ったようで、細かい線はつぶれて飛んでしまっている仕上がり。上下巻ともに初版で既にそんな状態。 装丁は1巻2巻とも表紙に赤色が効いた絵がチョイスされ、背表紙全面にコーディネートした形で同色の赤が配されている。秋田にしては美しくオシャレ。2巻表紙、雪の上のZの表情もいい。
- 収録内容:1巻: I/II/III "Panzer March"、2巻:IV "Das Fraulein, die Zliebte"/V "BLACK-OUT"/Zの幸運
- 出版社:秋田書店
- 1巻 ISBN-10:4253153712 / ISBN-13:978-4253153713
- 2巻 ISBN-10: 4253153720 / ISBN-13: 978-4253153720
- サイズ:約B6サイズ(B5の半分)縦18 x 横12.8 x 厚み1.8 cm
- 発売:1999年12月
- 定価:600円(税込)
5. Z ツェット完全版
何しろ"完全版"!Complete Edition!
最終話「VI」も合わせての掲載はこの完全版のみ。なんといっても幻の「暗号名は"ほんのジョーダン"」の収録が!その他、各話の巻頭カラーページ完全再現に加え、当時の予告マンガ、巻末のインタビュー(雑誌未掲載)にライナーノート集と、その名にふさわしく、ファン垂涎の内容に。
- 収録内容:I/II/III "Panzer March"/IV "Das Fraulein, die Zliebte"/V "BLACK-OUT"/VI "Das Rapsfeld"/番外編 「Zの幸運」/暗号名は"ほんのジョーダン"/カラーイラストギャラリー/全予告まんが、全予告カット・ふろく・プレゼントカット/青池保子 「Z」コメントライナーノート集/青池保子 最新ロングインタビュー
- 出版社:秋田書店
- ISBN-10: 4253102638 / ISBN-13: 978-4253102636
- サイズ:21.6 x 15.3 x 3.6 cm
- 発売:2011年10月
- 定価:1,680円(税込)
------ こうして見ると、2、3、4、は大した特徴がありません。
「エロイカがまだ人気があるし継続されている。なのでこの関連マンガはまだ商品価値があるし、少し形を変えて出版しておくか」、といったレベルのもので、編集者の思いは何も感じません。
入手するのであれば、
1の単行本に、5の完全版。
こちらで「Z -ツェット-」は完璧でしょう。
また、別の意味でのおススメは、 3の文庫本。
藤本由香里氏の巻末解説 「Z ---おぼつかなさの魅力」。
全7ページのこの解説、作品と人物の魅力を的確に表現していて、ついうっとりさせられます。文庫本を手にとる機会があれば、ぜひご一読を。
- 彼の仕事は常に生命のやりとりを伴うスパイである。
そういう意味では最も「強さ」を要求されるハードな世界であり、
だからこそよけいに、Zの心の柔らかさ、ナイーブさが際立つのだ。
~中略~
また、その柔らかさは、この世界では百戦錬磨、
鍛え抜かれているはずの”鉄のクラウス”エーベルバッハ少佐の
内部にも息づいている。
しょっちゅう部下の無能さを怒鳴り散らし、
必要とあれば敵に対して引き金を引くことに一瞬の躊躇もない彼は、
また一方で誰よりも部下思いであり、
また、誰よりも生命の重さを知っている。
このあたりが青池保子の絶妙なバランス感覚といえるだろう。
©青池保子著「Z -ツェット-」白泉社文庫/白泉社
一作品一作品、映画のような完成度の「Z」シリーズ。
ようやくまともな形になって、感無量ですね。
この機会にぜひ、再読して堪能しましょう。
「Z -ツェット- 完全版」刊行記念サイン会 レポート
「エロイカより愛をこめて」35周年記念出版企画となる「Z -ツェット- 完全版」。
その刊行を記念して、東京「丸の内オアゾ」の丸善本店にて、青池保子先生のサイン会が開かれました。
「エロイカ35周年記念」と、「Z -ツェット- 完全版」自体の刊行記念という、記念2なイベントです。
当日は30分前に大井町駅に到着したものの、財布に現金が足りないことに気づき、これでは本そのものを購入できない!と、銀行を見つけてお金をおろし、トイレを済ませ、実は初めて行くオアゾの丸善を探してうろうろしていたら、20分前に。
サービスカウンターで予約していた名前を伝え、「Z 完全版」を購入し、ピンクの整理券を受け取り、列の最後尾へ並んだときには、すでに5-60人ほどの列ができていました。
ファンたち
並んでいるファンの層をざっとみたところ、若くて30代、40代~50代といった雰囲気でした。
1-2割程度でしょうか、男性もちらほら見かけました。奥様とご一緒で"夫婦でファン"のような感じの方や、男性1人(エライ! ←?)の方も。女性はお友達連れの方もいましたが、1人の方が多かったですね。
開始までの間、それぞれの思いで、「Z 完全版」や持参の書籍を読んでいたり、ケータイをいじっていたり、何もせずにしていたり。
3年前の2008年、青池氏の故郷 下関で行われたサイン会
で集まったファン層と比べると、年齢層はほぼ同じだとは思われますが、今回はぐっと落ち着いた雰囲気。
下関の「少女マンガ3人展」のサイン会は120名限定でしたが、今回は先着100名。ブログ等を拝見すると、整理券を入手できなかった方もいるようです。
開始時間近くなると、列も長く伸び、ざっと見たところ、100名以上はいるような印象でした。
サイン会スタート
※通常の本屋で行われていたこと、周囲に何人もの係員さんがいたこと、「撮影禁止」の断り書きがあったことから、写真は撮影できませんでしたので、文章のみになります。
14時5分ほどになり、エレベーターより青池先生ご登場。拍手で迎えて下さいとのアナウンス。
あー遠くて見えません!まあ、いいや。
スタートしても並んでいる側としては何も変わらず、ただ列が少しずつ前に進んで動き出す。
開始して20分はとうに過ぎたころ、前の方の様子が見える程度にサイン場まで近づきました。
するとみなさん、
先生に
嬉々と 長々と 会話をしている
何かを渡している
握手して終わってる
大人だからTPOをわきまえて待機していたのですね。
サインをもらい、一礼して会話せずにさっと去って行った男性1人のあの方、
内心は嬉しくてホクホクに違いないのだ ……
私の番になり、整理券を係の人に渡し、先生にお名前を書いていただく。
最近は、SNSで「かおりさん」と、下の名前のみで呼ばれることが多くなったため、
今回は下の名前だけにしてみました。
先生に何をお伝えしようかなと考えをめぐらしましたが、
わざわざ予約して列で待って来ている者が、
「ファンです」「Z大好きです」などと言うのは、どうも当たり前すぎてインパクトがない。
で、私はエラそうにこんなお願いをした。
- 最近はコメディが続いているので、
ぜひ(このZみたいな)シリアスものをお願いします!
先生は笑っていましたけどね。
その後、「がんばってくださーい!」と、相変わらず先生の細く華奢な手と、
握手させていただきました
「Z 完全版」巻末に収録されているインタビューにもあった、「Z」を書く都度に体重が減ったというエピソード、以前から知っている内容でしたが、サイン会後にこの下りを読んで、もしや先生にお伝えしたことは、似たようなプレッシャーを与えることになってしまうかもと、改めて反省。(爆)
まあ、ファンの戯言なんで。適当に受け止めてくださいませね。
でも!でも!
青池先生のシリアスものはかなり知的で堅いものになるけれど、それもまたいいのだよね~
最近の飛ばし過ぎコメディとバランスを取って堅いのが読みたいと思っているのは
決して私だけではないはずなのら!(正当化)
いただいたサインと為書き。エッセイなどでよく見るやっちゃんセンセの手書き筆跡じゃ~
前回、下関でのサイン会で
「為書き(名前をサインと一緒に書いていただく)」をしてもらえると聞き、
気の利いたサービスじゃないか!とその時は思いましたが、
今回の丸善でのサイン会の整理券の文面を見て気付きました。
- サインへのお客様のお名前入れは必須とさせていただきます。
ファンにとっては嬉しいこのサービス、実のところは転売防止のためなんですね。
「Z」に関する記事を今後も予定していますので、首をなが~くしてお楽しみに!
2年近くつづいたシリーズ「聖ヨハネの帰還」完結
「聖ヨハネの帰還」が、ようやく完結しました。
振り返れば2009年から2年、長かったですね。
隔月とはいえ、630円が高いと感じていた私は、
「聖ヨハネの帰還」シリーズから単行本派に切り替えをしていました。
しかし、38巻とその続きの完結ストーリーを掲載したプリンセスGOLDが同日発売という
秋田書店さんの販売商法には、さすがに乗っかってしまいました(笑)。
爺さまお二人の確執やこだわりが、結局は破壊を招いてしまったというあたり、
青池先生らしさが出ていた展開でした。
他のものを受け入れない頑固さや、気だけは若くて周りは迷惑、
それゆえの滑稽さ等々、年配男性の独特の性質を「魅力的」を描けてしまうのは、
幼少の頃から「おじさま好き」だった青池先生独自の力であり、
他の少女漫画家はまずマネできないところですね。
…しかし、しかし!
38巻~最終話(雑誌掲載)を一気通貫した読後感は、
1にも2にも、
ギャクが多すぎる!
それゆえ、ストーリーの流れがたびたび分断されて、
読みづらい!
……なんでこんな風にしているんだろう?
正直申し上げて、そのギャグもたいして冴えていません。
先生、説明し過ぎです!
余韻を!間を!
ギャグやオーバーめなリアクションは、
たいてい、これまで築かれてきたキャラクターに依存したものであり、
エロイカを長く読んでいる読者にとっては新鮮さを感じられません。
[キモイ]と言わんばかりに伯爵の女装に
顔を青ざめ口を抑える少佐。
→黒髪の美女の時、エリカちゃんの時、そんな反応をしたでしょうか…
まあ、「聖ヨハネの帰還」内の女装はあまり美しくないものが多かった(意図的に)のも
事実ですが。
「心の中でシャットアウトしているから、表面はさらりと受け流していた」というのが
従来の反応だったような気がします。
ミーシャや少佐が登場するとなると、
震え上がって恐怖心をあらわにする部下達。
→旧KGBの部下達ってそんな態度をとっていましたかねえ…
周囲の反応で「少佐」という人物を演出させる手法なのだとは思いながらも、
どうも不自然感が拭えません。
しかし、新規読者にも人物関係などを分かりやすく理解してもらうための
配慮なのかもしれません。
また、不自然感のその大きな原因の一つに、
絵柄の変化もあるかもしれません。
80年代~90年代までの絵柄と比較して、よりライトタッチでポップで、若めな
雰囲気に描かれる今の少佐に、常日頃、あの体育会系ミーシャにしごかれている
旧KGBの部下達が、震え上がるほど怖がるような人物である空気は画面からは
どうしても感じられないため、脳内補完にもムリが生じています。
逆に長い付き合いの彼らが、今更ながらどうしてここまでオーバーに
反応させてしまうような描き方をしているのでしょう。
「この聖ヨハネの帰還」シリーズ中、ずっと感じていた点で、38巻はそれが著しかった。。。。
上記と重複しますが、一話完結形のエロイカの新たな読者のための説明要素も
入れているのかなー。。。。というのも考えられなくもありませんが……
それは青池先生らしくないかなあ。
「分からない人には分からなくていい」潔さが、青池先生の特長だったはずですしね。
関連記事:
→「こちら殺人課!エーベルバッハ警部」
我々含め、人は経験を積んで行く間に変化していくものですから、
青池先生の変化なのかもしれません。
* * * *
辛辣めになりましたが、ストーリーに関しては、
やはり青池先生らしく、組み立てや展開がよく考えられて作り込まれていますよね。何度か読み返せばそれが分かります。
* * * *
……いずれにせよ、話は完結した「聖ヨハネの帰還」ですが、
「あれはどうなったのかな?」と、未解決といいますか、未説明になっているものが
いくつか残っていますよね。
すでに番外編が予定されているとのこと、おそらくページ数の都合で描ききれなかったのでしょう。
あるいは、全くそれとは別の登場人物のその後か、それまでの事なのか。
分かりませんが、気楽に楽しく読めそうです!
* * * *
”ページ数の都合で描ききれなかった”と言って思い出すのが
Z ツェットシリーズの第四話「Das Fraulein, das Z liebte」(The Mss, Z loved / Zの愛した女性) 。
この話の最終シーン付近で、調査対象の女性とヤってしまったことを少佐に感づかれ、雷がおちるかと思いきや、ツェットに静かに説教する少佐ーーーのくだりです。
「単行本」を見ると、詰め込んで終わった状態で(連載時と思われる)明らかにページ数が足りなかったという状態が手に取るようにわかります。
その後に出版されているデラックス版などでは、ページやコマが補完されていて(微妙に絵柄が違うのです!)、ストーリーとして流れも間も、しっかりと自然な状態になっていました。
その「Z-ツェット-」シリーズの完全版、来月14日(金)に発売!
こちらも楽しみです。
好きなZシリーズですので、その際には記事をUPする予定!乞うご期待!!!(笑)
(宣言していて出来ないことがないよう…祈ってね (^_^;) )