少女マンガ3人展レポート Part1 --印刷は原画とは似ても似つかない
山口県下関の下関市立美術館にて開催中の「少女マンガ3人展」は漫画家で下関出身の水野英子氏、青池保子氏、下関在住30年の文月今日子氏の3人の原画展である。
2008年7月20日(日)、美術館内で3人の先生方をお招きして一時間半に渡るトークショーとサイン会が行われた。
※検索で来られた水野英子氏・文月今日子氏ファンの方へ
このWebサイトは青池保子氏に関するサイトです。水野氏・文月氏についてほとんど触れておりません。
ごめんなさい。
開館は9:30だが、その頃にはすでに100人ほど列を成していた。整理券は各先生方120名分。
青池保子氏のものが配布開始から約15分後、一番始めに配布完了!
(※修正の跡や鉛筆の消し跡まで再現した原画に匹敵する精巧な複製--- 下関市立美術館WEBサイトより)
トークショーでご本人の口から語られていたが、当時は原稿の扱いが粗雑だったため雑誌を印刷したら捨ててしまっていたようで、そのため原稿の一部は紛失されたまま。そのため複製画を展示していたようである。
青池氏の原画 はカラー絵を中心にかなりの点数の原画が展示されており見応えがあった(57枚)。
「エロイカより愛をこめて」の絵は ---
グラスターゲット/9月の7日間/LPレコードのライナーノーツにある絵/12巻表紙のワイルドな少佐/つなぎ姿の少佐がベンツのボンネットに腰をかけてホースの水を首からかけている絵(14巻表紙)--水しぶきのホワイトインクが盛り上がっていたゾ…!--/噴水を前に少佐の膝に頭をもたげている伯爵の絵/チェスのある公園(白クマ、ごり押し含む)/皇帝演舞曲の少佐(書斎を背景にイスにすわってタバコをくゆらす)/ケルンの水 ラインの誘惑の伯爵/イノシシ像を背景にあるくコート姿の少佐/「パリスの審判」時のカラー絵/21巻と31巻の表紙の伯爵/25巻の表紙の少佐と伯爵/Z君の絵数点/魔弾の射手の表紙絵 --- などなど……
かなりの点数があった。
せっかくの原画なので、手描き感を見つけようと、筆のタッチなど目をこらして探したりするのだが…
とーっ!細かいっ。タッチが緻密!
特に目の描き込みが!ぼかしの立体感、細かいラインのマツ毛。
第一印象は「これ、印刷?」。
あまりにきっちり描かれているために手で描いたようには見えない一糸乱れぬ緻密な絵なのだ…。
また、白黒の原稿用紙よりもそのサイズが大きく、予想以上の大きな画面に描かれていた。
「アルカサル-王城-」は、エロイカの原画と同じほどの展示数だ。
アルカサルのカラー絵は美しく凝ったものが多く、緻密な描写と色遣いに感心しきり。見応えたっぷりである。
特に12巻の表紙に使われたドン・ペドロが馬にのって疾走する絵。
画面中央に大きな面積を取る深い茶の重い馬のボディ。
たなびくマントの隙間と背景に広がる空や草原のヌケ感。
そのコントラストが大変美しく、絵としての完成度が高い。
他の作品は
エルアルコン(2点)、修道士ファルコ(2点)、
イブの息子たち(2点)、トラファルガー(1点) 。
トークショー後の質疑応答では
「カラー絵にはどの位の時間がかかるか」との質問に
次のように答えていた。
「カラー絵には約3日ほどかかります(片面の場合)。
「構図やポーズに約1日、次に下書きを別紙に描き、それから画用紙にトレース。
そして主線を耐水性のインクで描いてから薄い色から塗り始めます」。
やはり時間がかかっているのだ。
また、原画をいつも目にする印刷された絵と比べると、
印刷の画面よりも、原画は色の彩度(鮮やかさ)がずっと高く、
色見の奥行き感や深み が感じられる。
ティリアンのマント裏の紫色の鮮やかさは、知っている印刷のものとはだいぶ違っている。
全体的に青池氏がよく使うノルウェイブルー色(ブルーグリーン)や紫といった
青み系の色は、印刷と原画では彩度差が著しいようだ。
これだけ精根込めてきっちり描き込んでいても、印刷でペッタンコに褪せて仕上がった状態で
読者の目に届くかと思えば、作者にとっては残念なことにちがいない。
…そう考えながら、ふと1983年の白泉社のLaLa創刊7周年記念に各作家のお祝いのコメントの中で
青池氏が次のように書いていたことを思い出した。
トークショーにてこの様な青池氏の言葉があった。
一つはエロイカの「パリスの審判」より、スペインの闘牛場で乱射狂のカルロスに狙われ逃げ回るシーン(PC25巻P.126~131)。そしてもう一つは、「修道士ファルコ」よりChapter6の最後の5ページ分だ (白泉社JETS COMICS 2巻 P.244~248)。
厚手の紙にタイプされたセリフの文字がふきだしの上に切り貼りされて無骨な感じに盛り上がり、
スクリーントーンの質感もリアルだ。はみ出した部分のホワイト修正は所々に見られ、アタリの青い鉛筆線も所々に残ったまま、ベタスミ部分は意外にもにムラな塗り (黒インクがムラに見えやすいのか)。
カラー絵とは対照的に手で描かれたナマな雰囲気 が伝わってくる。
それと同時にストーリー部分の印刷は、かなり単純な白黒トーンのみを拾うだけの製版方法であることが
よくわかる。
* * * *
Part2ではトークショーとサイン会の模様をレポート予定。
関連リンク:(2008年7月23日追記)
2008年7月20日(日)、美術館内で3人の先生方をお招きして一時間半に渡るトークショーとサイン会が行われた。
少女マンガ3人展 入り口正面パネル
※検索で来られた水野英子氏・文月今日子氏ファンの方へ
このWebサイトは青池保子氏に関するサイトです。水野氏・文月氏についてほとんど触れておりません。
ごめんなさい。
サイン会整理券配布
2008年7月20日(日)のサイン会の整理券を朝10:30より配布。開館は9:30だが、その頃にはすでに100人ほど列を成していた。整理券は各先生方120名分。
青池保子氏のものが配布開始から約15分後、一番始めに配布完了!
原画を観る-- カラー絵
(※修正の跡や鉛筆の消し跡まで再現した原画に匹敵する精巧な複製--- 下関市立美術館WEBサイトより)
トークショーでご本人の口から語られていたが、当時は原稿の扱いが粗雑だったため雑誌を印刷したら捨ててしまっていたようで、そのため原稿の一部は紛失されたまま。そのため複製画を展示していたようである。
青池氏の原画 はカラー絵を中心にかなりの点数の原画が展示されており見応えがあった(57枚)。
「エロイカより愛をこめて」の絵は ---
グラスターゲット/9月の7日間/LPレコードのライナーノーツにある絵/12巻表紙のワイルドな少佐/つなぎ姿の少佐がベンツのボンネットに腰をかけてホースの水を首からかけている絵(14巻表紙)--水しぶきのホワイトインクが盛り上がっていたゾ…!--/噴水を前に少佐の膝に頭をもたげている伯爵の絵/チェスのある公園(白クマ、ごり押し含む)/皇帝演舞曲の少佐(書斎を背景にイスにすわってタバコをくゆらす)/ケルンの水 ラインの誘惑の伯爵/イノシシ像を背景にあるくコート姿の少佐/「パリスの審判」時のカラー絵/21巻と31巻の表紙の伯爵/25巻の表紙の少佐と伯爵/Z君の絵数点/魔弾の射手の表紙絵 --- などなど……
かなりの点数があった。
せっかくの原画なので、手描き感を見つけようと、筆のタッチなど目をこらして探したりするのだが…
とーっ!細かいっ。タッチが緻密!
特に目の描き込みが!ぼかしの立体感、細かいラインのマツ毛。
第一印象は「これ、印刷?」。
あまりにきっちり描かれているために手で描いたようには見えない一糸乱れぬ緻密な絵なのだ…。
また、白黒の原稿用紙よりもそのサイズが大きく、予想以上の大きな画面に描かれていた。
©青池保子/アルカサル-王城-
12巻 秋田書店/1994
アルカサルのカラー絵は美しく凝ったものが多く、緻密な描写と色遣いに感心しきり。見応えたっぷりである。
特に12巻の表紙に使われたドン・ペドロが馬にのって疾走する絵。
画面中央に大きな面積を取る深い茶の重い馬のボディ。
たなびくマントの隙間と背景に広がる空や草原のヌケ感。
そのコントラストが大変美しく、絵としての完成度が高い。
他の作品は
エルアルコン(2点)、修道士ファルコ(2点)、
イブの息子たち(2点)、トラファルガー(1点) 。
トークショー後の質疑応答では
「カラー絵にはどの位の時間がかかるか」との質問に
次のように答えていた。
「カラー絵には約3日ほどかかります(片面の場合)。
「構図やポーズに約1日、次に下書きを別紙に描き、それから画用紙にトレース。
そして主線を耐水性のインクで描いてから薄い色から塗り始めます」。
やはり時間がかかっているのだ。
また、原画をいつも目にする印刷された絵と比べると、
印刷の画面よりも、原画は色の彩度(鮮やかさ)がずっと高く、
色見の奥行き感や深み が感じられる。
ティリアンのマント裏の紫色の鮮やかさは、知っている印刷のものとはだいぶ違っている。
全体的に青池氏がよく使うノルウェイブルー色(ブルーグリーン)や紫といった
青み系の色は、印刷と原画では彩度差が著しいようだ。
これだけ精根込めてきっちり描き込んでいても、印刷でペッタンコに褪せて仕上がった状態で
読者の目に届くかと思えば、作者にとっては残念なことにちがいない。
…そう考えながら、ふと1983年の白泉社のLaLa創刊7周年記念に各作家のお祝いのコメントの中で
青池氏が次のように書いていたことを思い出した。
……原画を観ながらそのようなことをおぼろげに考えていた矢先、© LaLa 創刊7周年記念特大号P.91/白泉社/1983.9
- 7周年おめでとう。今後の発展とカラー印刷の改善をお祈りします。
青池保子
トークショーにてこの様な青池氏の言葉があった。
あれだけの絵を描く人であれば、印刷された仕上がりに不満足を感じるのは当然だろう。下関市立美術館『少女マンガ3人展』トークショーより/2008.7.20
- 「これだけ心血を注いで描いたものでも、製版技術者や
印刷のインクの盛り具合などによって、
(原画とは) 似ても似つかないものになってしまいます。
なのでこういった原画展というのはとても貴重だと思います。」
原画を観る --白黒原稿
白黒の原稿は2作品展示されていた。一つはエロイカの「パリスの審判」より、スペインの闘牛場で乱射狂のカルロスに狙われ逃げ回るシーン(PC25巻P.126~131)。そしてもう一つは、「修道士ファルコ」よりChapter6の最後の5ページ分だ (白泉社JETS COMICS 2巻 P.244~248)。
厚手の紙にタイプされたセリフの文字がふきだしの上に切り貼りされて無骨な感じに盛り上がり、
スクリーントーンの質感もリアルだ。はみ出した部分のホワイト修正は所々に見られ、アタリの青い鉛筆線も所々に残ったまま、ベタスミ部分は意外にもにムラな塗り (黒インクがムラに見えやすいのか)。
カラー絵とは対照的に手で描かれたナマな雰囲気 が伝わってくる。
それと同時にストーリー部分の印刷は、かなり単純な白黒トーンのみを拾うだけの製版方法であることが
よくわかる。
* * * *
Part2ではトークショーとサイン会の模様をレポート予定。
関連リンク:(2008年7月23日追記)