少女マンガ3人展レポート Part2 --アルカサルもファルコも終わらす気なし | 親愛なるエロイカへ

少女マンガ3人展レポート Part2 --アルカサルもファルコも終わらす気なし

山口県下関市、市立美術館にて開催中の「少女マンガ3人展」は、下関出身の水野英子氏、青池保子氏、下関在住30年の文月今日子氏の漫画家3人の原画展だ。
今回は前回に続き、7月20日(日)に美術館内で行われた、3人の先生方の一時間半に渡るトークショーとサイン会のレポートである。
少女マンガ3人展トークショー先生方

[トークショー会場に入場し紹介される先生方]
向こうより水野英子氏、中央が青池保子氏、手前が文月今日子氏。
(肖像権の配慮によりお顔を向こうに向けている写真を選んでいます)

【ご注意事項】
※以下のトークショーの内容については、私個人の記憶などを元に書き起こしています。
実際に語られた内容とは誤差が生じている場合がありますのでご了承ください。

※検索で来られた水野英子氏・文月今日子氏ファンの方へ
このWebサイトは青池保子氏に関するサイトです。水野氏・文月氏についてはほとんど触れておりません。
ごめんなさい。

少女マンガ3人展トークショー

トークショーは13:00より開催。座席は200席、整理券を入手した人たちが次々に席を確保し、席はすぐに埋まった。開催されると吹き抜けの会場の二階から覗いている人を含め、大勢の立ち見人でいっぱいになった。

青池保子公式ホームページの7月21日付け日記の数字を参照すると、
2008年7月20日(日)の来館者数は1,000人、トークショーには800人が集まった。まさに大盛況である。

マンガ家の作風と作者本人の雰囲気は似ているものだと常日頃感じていたが、初めてそのお顔を拝見した水野英子氏と文月今日子氏も、その例にもれる事はなかった。特に文月氏はあの優しくかわいらしいタッチを描きそうな、丸顔でやわらかい雰囲気の方だった。
水野氏はご年齢の割にはハキハキとし貫禄が感じられた。意外にも饒舌で、自らマイクをとって積極的に話をされていた姿が印象的だった。
青池氏はとても小柄できゃしゃな体つきの方だった。(あのベージュのジャケット…何かの写真で着ていたのを見た気がするのだが…)
司会進行は大のマンガファンという高宮善之氏。知る人ぞ知る人らしいが、各先生方の作品をよく知っているようだった。

※注:記憶を元に書き起こしています。別のシーンで言われた内容が別のシーンの言葉と一緒になっていたり、
内容自体が実際のお話とやや違っていたり、時間の流れが前後している場合もあります。雰囲気を感じていただくためのものなので、その当たりはご容赦ください。


* * * *

2008年7月20日(日)13:00開始 トークショー 抜粋

青池氏
「私はお涙ちょうだいな話は大嫌いだったので、水野英子先生のようなお話がとても好きでした。少年マンガをよく読んでいた私には、水野先生の作品は少女マンガであることを意識せずに読むことができたんです。水野先生の作品で育った者としては、やはりスケールが大きくて、西洋ものというものに惹かれました。」
司会者
「その水野先生が同じ下関だということはご存知でしたか?」
青池氏
「はい。その当時の雑誌は無防備で、作家の自宅住所が雑誌の柱の部分に書いてあるんですね。山口県下関市○-○-○(注:番地までそらんじる)ってありまして(笑) 。その当時、唯一の読者へのサービスとして雑誌がやっていたことなんですけどね。」
司会者
「今の個人情報なんてなんだろうって感じですねえ(笑)」

青池氏
「中学生の時に、水野先生にお会いして作品を見てもらったんです。
『かわいい絵を描く子がいる』って集英社の方に紹介いただきました。
そして集英社から水色の封筒に入った『描いてみませんか』と書かれた依頼を初めてもらったんです。当時中学生だった私はそれはもうパニックになって、何を書いていいか頭は真っ白でした。かなり締め切り近くなっても何も描けませんでしたね。
何とか描いたものの出来上がりはひどいもので、水野先生に『もうちょっとちゃんとしたものを描きなさい』って言われました(笑)。」
(注:デビュー作「さよならナネット」のことと思われる)
水野氏
「そういう事を言ったかどうかは忘れました(笑)」

司会者
「下関出身ということで、何か作家活動に影響はありますか」
青池氏
「やはり小さい頃から海を見てきていますので、波の感じや白波の立ち方っていうのを分かっているんです。海をアシスタントに描かせると…ヘタクソなんですね(笑)。海っていうのは不純物が多いので、重いんです。アシスタントに描かせると川の海になっちゃう。なので後から途中で私が描き直したり自分で描いたりしました。」
水野氏
「そういえば私も水を描く事に抵抗はないですね」

青池氏
「雑誌には読者アンケートという恐ろしいものがあるわけです。そこで『4コマギャク漫画以下』と書かれてしまいました。4コマギャグ漫画って、ランクでは最低なんです。なのでそれ以下っていうのは本当に一番下ということなんですね。」

司会者
「合作のご経験などはございますか」
青池氏
合作は大島弓子さんとおおやちきさん、樹村みのりさんとの短編はあります。あとこの当時は、お互い漫画家同士、お手伝いをしあっていました。『お願い~』って言われればペンをもって訪ねてゆきました。助ければ必ず同じく助けてもらい、お返しをし合いました。顔から下だけを描くとかもありましたね。」
文月氏
「○○さんの点描や△△さんのモブは私が描いたりしていました。」
(※注:具体的な作家名を上げていたが、名前を記憶しておらず。)
司会者
「そうやって協力しあう中で何かアイディアが出たりするんでしょうか」
青池氏
「…えー…、お手伝いですから…アイディアが出るというのはないですね。みんな編集の悪口を言ったりとか…(笑)。」
司会者
「ストレスを発散していたわけですね」
青池氏
「そうですね。」

司会者
「今後の作品の予定などを、ぜひ教えてください」
青池氏
「今回描いたアルカサルの外伝では、元気な王様は出てくるわ、ファルコも出てくるわの大サービスでした。なのでアルカサルやファルコはもう終わりなのではないかという声もあるようなのですが、
(注:ここから言葉一つ一つ念を押すような口調で
アルカサルも、ファルコも、終わらせる気は全く、ありません。
やはり背広ばかり描いていると、無性に中世ものや海洋ものといった衣装のあるものを描きたくなってくるんです。コスプレが好きなんですね(笑)。
今は新しいエロイカのストーリーを構想中です。今までゴールドで数回アルカサルを描いてきまして、プリンセスには戻らずにそのままゴールドに居着くことになりました。ゴールドの方が私の作風にも合っていると思いますし。
えーと…今から予定言っていいのかな(笑)。
年内に発売のゴールドの新年号に掲載の予定です。…でいいんだよね、斎藤くん?」
立ち見の中にいた斎藤くん
「はい、そうです!」
青池氏
「今後は、コメディーなどの楽しい作品を描いてゆきたいと思ってます。」

青池氏
「どんなに心血を注いで描いた(カラー)絵も、製版技術者やインクのもり方なんかによって、(仕上がる印刷された絵は)似ても似つかないものになってしまうんですね。
なのでこういった原画展はとても貴重だと思いますので、ぜひご覧になっていただきたいと思います。」

挙手による質疑応答
「青池先生の原画をどんなによっく見ても、特にマツゲなんか何使って書いているのか全然わかんないんです。どんな道具を使って描いているのか教えてください。
またどれくらいの時間がかかりますか?」
青池氏
「まつげは、筆先が細くて短い筆で描いています。0号位がいいんじゃないですかね。
カラー絵は密度などにもよりますが、片面の絵でだいたい3日位です。大きいもの(見開き)であれば一週間とか。構図やポーズにだいたい一日、あとは下書きを描いて画用紙にトレースします。それから耐水性のインクで主線を描いて、薄い色から塗っています。」
挙手による質疑応答
「何を使って描いているのですか」
青池氏
「カラーインクです。」
文月氏
「私もルマ社のカラーインクなんですが、(カラーインクの)会社が無くなってしまったのでどうしようって感じなんです(笑)。この間青池先生に分けていただきました。」

最後に花束が各先生方に贈呈され、予定時刻通り14:30に終了。

下関市立美術館「少女マンガ3人展」2008年7月20日開催のトークショーより

サイン会

トークショー終了後の30分後にサイン会を開始。スタッフが会場準備をしている間、入り口には水野氏が立っており、ファンが囲んで会話をしていたり写真を撮ったりしていた。残りの先生方はどこかへ待機されているのか、残念ながら姿を見かけなかった。
青池保子先生サイン会

ファンにサインをする青池保子先生
(肖像権の配慮でお顔の分かりにくい写真を選んでいます)

展示室のある2Fのフロアにて水野氏、1F入り口正面パネル(前記事の始めに掲載した写真)には青池氏、トークショー会場には文月氏と、混雑を避けるためかサイン会場は各先生方ごとに離してもうけられた。
整理券にある番号通りに並び、順番をまつ。
今回はサインに名前を入れてもらえるとのことで、整理券と共に名前をあらかじめ記載する用紙も配られた。

青池氏のサイン場所は入り口正面ということもあってか空調も届きにくい。待っている間が…暑い!
並んでいるファンが何にサインをもらおうとしているのか見渡してみると、新装版の画集「PLUS ULTRA」(ブッキング/2005) が目につく。
うん、あの豪華装丁本はサインにふさわしい。そう、私もあの重たい本をカートに入れて持って行った。
その次に「『エロイカより愛をこめて』の創りかた」(マガジンハウス/2005)の人も多い。それも分かる。
今月出版されたばかりの「アルカサル-王城-」秋田文庫や「エロイカ」の単行本1巻などの単行本を持ってきている人、スペシャルパックにある絵を持ってきている人。
中には画集「PLUS ULTRA」にある特定の絵にサインを入れてもらっている人もいる。
『この絵を一生懸命トレースして練習したんです~』と、夜景を背景にタバコをくゆらす少佐の絵を差し出していた。

エロイカLPレコード変わりダネ(?)では、あの懐かしきLPレコード(日本コロムビア/1982)を持ってくる人も!ジャケットを差し出された時、さすがに青池氏も「ああっ、これねぇ…」といった感じに苦笑していた。(苦笑の気持も分かる気が…)

サインをしてもらっているファンたちの嬉しそうな顔!!!
こっちもつられてニコニコしちゃう!!!

全身で尊敬の念を表すように、何度も深々と頭を下げて握手をしてもらっている。遠方からはるばる足を運び、サインをもらって喜ぶファンとは何とありがたいものだろう。自分が作家でもないのにそんな思いがよぎる。
青池氏も終止笑顔だった。童顔なのか写真で拝見するよりもずっと、特に笑ったお顔がかわいらしい印象だった。
青池保子氏のサイン

今回の下関ツアーの戦利品
(個人名は消しています。「○○様ICO_ハート(LOVE)」とハート付き)

私自身は画集「PLUS UTRA」の表紙の内側の赤い紙に名前と日付、サインを入れていただき握手。感動である。

15:00より始まったサイン会は16:00近くでやっと120名の半分ほどが終わった。
一人一人の名前、サインと日付を書き、ちょっと会話をして握手×120回。かなりの労働である。

サインをいただいた後、空港へ向かうために美術館を後にした。
16:30、サイン会はまだまだ続行中だ。

* * * *

会期は8月3日(日)まで。