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料理の記憶 18 「大手スーパー鮮魚部」編 中編

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出勤は朝7時

意外とスーパーの朝は早い。

パートタイムの時間帯なので退勤は12時

休憩なしだが5時間労働なんて寿司屋の頃から比べれば3分の1以下だ。

 

時給も高くない。

主婦がお小遣い稼ぎに来ているようなもので当時650円くらいだったと思う。

月給に計算すると約9万円程度。

 

たいした稼ぎにならないがお寿司屋さんとほぼ変わらない給料だった。

実家生活だったしお金はたいして使わないから生活するのになんら支障はなかった。

 

朝は一日の朝礼から始まる。

 

各部門の一人が代表して全員の前で号令をかける。

「いらっしゃいませ」

「ありがとうございました」

などと皆でご挨拶。

 

週末の特売日などはいつも以上に気合が入る。

 

班長から送られた発注書をみると普段の倍の量をショーケースに並べる。

 

最初は慣れなく大変だったが、慣れてしまえばお手の物。

あっという間にパック詰めは終わる。

 

お店がオープンしてお客がどっと押し寄せてくると、社員の一人がショーケースの品物を確認。数が少なくなっていればそれを補充する。

これが一連の流れだ。

 

いつの間にやら慣れてきた私には普段社員が行う値段の貼り付けなども任されるようになった。

やたら大きな機械には自動パック詰め装置も付いているが、はっきり言って手でやったほうが早いし綺麗だった。

 

値段はコンピューターにインプットされていて、こちらも品番を押せば商品名と値段が書いたシールが出てきて自動で貼り付けられる。

めっちゃ簡単だ。

 

どんどん仕事を覚える私に新たな仕事が与えられる。

 

それは「刺し場」だった。

 

手巻き寿司やお刺身盛り合わせなどのお刺身を作る仕事。

熟練のパートさんか社員でないと入れない場所にわずか3ヶ月で入ってしまった。

 

お寿司屋さんでは1年働いてもたこを素手で殺すくらいの仕事しかなかったがいきなり刺し場に入ったのにはその経験が買われたみたいだ。

刺身を切った事ないのに・・・

 

刺し場と言っても魚をさばいたり、大根のツマをを作ったりなどの仕事はない。

すでに柵に切れているまぐろなどを手巻き風に切るかお刺身風に切るかの違いだけである。

大根のツマもすでに出来上がっている。大きな袋に1キロくらいのツマが入っているものをとって盛り付けるだけ。

 

これだけのツマを包丁でやるとなると・・・地獄のような仕事だ・・・

ついついお寿司屋さんと比べてしまうが本当に何にもしなくていい便利さに私は酔っていた。

 

しかし、昔からいたずらばかりしていた私がここでも悪いタックが出てきて発揮してしまう。

 

刺身盛り合わせと言うのは3点盛り、4点盛り、5点盛りと約3種類に分かれる。

値段はそれぞれ決まっていて、お刺身のネタはそれに見合った食材を選ぶ。

 

選ぶ?

 

はたしてどこから選ぶのかというと

前日までに売れ残ったお刺身用のお魚達からだ。

 

30円引き 半額などのシールが張られたパックをはがしそれを切り分けお刺身に並べる。ということは盛り合わせというのは売れ残りの集まりという事になる。

 

うにやいくらも過言ではない。

 

めったに売れないうになんかはしょっちゅう売れ残っていて主に5点盛りなどに使われていた。

 

盛り合わせに使い切ってそれでも余ると全て捨てる。

 

だいたい余る。

 

だから私はその余りをめっちゃ食べた。

食っても食っても余る。

 

たまにパートのおばさんが入ってきてつまみ食いしても余る。

 

「これはもったいない。」

そう感じた私は策をねった。

 

「そうかお刺身盛り合わせがめちゃくちゃ売れればいいんだ。」

 

16歳の安易な考えがとてつもない物を作り出す。

 

よし!

今日のお刺身は・・・

 

うにと、ヒラメと、タイの3点盛りだ!

 

これでいつもと変わらぬ値段の390円

 

値段や品出しも自分でやっていたので誰に見つかることなくお店のショーケースに並んだ。

 

さすがお客さんである!

目が肥えている常連さんたちはいつもと違った魚コーナーに立ち止まる。

 

あれよあれよと盛り合わせが売れていくではないか!

 

そりゃそうだ。こんな盛り合わせお正月くらいしか見たことないもんね。

私は途端に忙しくなった。

 

よ~し!

今度は・・中トロとあわびといくらだな。

 

これで390円

 

この日お刺身3点盛り合わせは過去最高の売上を記録した。

 

 

 

社員は最後まで気がつかなかった。

パートのおばちゃんも気がつかなかった。

 

「いや~近藤君の刺し盛り、人気あるんじゃない?」

「どうしてだろ?切り方が上手いのかなぁ。」

 

「やっぱりお寿司屋さんで見てきたからじゃない?」

「盛り付けが綺麗だよ~」

 

私の仕事を見てもいないくせにやたら褒められた。

数字だけを追った褒め方は何も嬉しくなかった。

 

 

私はこのやり方を1週間続けることにした。